4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

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一途 (93)生まれる?
 夕食を食べながら、雅は顔を歪ませる。




「痛い?」
「んん・・・・。」




食べては箸を止め、食べては箸を止め何度も繰り返す。




「雅、始まったんじゃないか?助産師さん呼んで来ようか?」




夕飯半ばで、雅はまったく食べ物を受け付けなくなった。俺は看護師を呼び、見てもらう。




「まあ!準備しないと!!!8割方進んでるじゃない!」




始まったらしい・・・。出産準備中に俺は総理官邸にいるお父さんに電話を入れる。もちろん代官山の母さん、そして俺の父さんにも・・・。俺は雅の背中や腰をさすりながら、声を掛ける。




「雅、がんばろうな。もうすぐ生まれるって・・・。」
「んん・・・。」




ホント双子だからか進みだすと早い。あっという間にもうすぐ生まれますよって助産師さん。雅の息遣いはさらに荒くなる。ラマーズ法という呼吸法で何とかしのいでいる感じで。俺も雅の手を握って一緒に・・・。主治医と小児科担当の先生がやってきた。もちろん早く生まれるわけだから、保育器2個。




「弐條さん、お父様いらっしゃっていますよ。」




と看護師さんが声を掛ける。きっと外でははらはらドキドキして待っているんだろうな・・・。俺の父さんは来ているんだろうか・・・。母さんは?鉢合わせて気まずい雰囲気になっているんだろうか?ま、そんなことどうでもいい。今はわが子の誕生を待たなくては・・・。




「間もなくですよ。」




と、声を掛けられ、雅の呼吸法も変わる。すると弱々しいけれど泣き声が聞こえた。




「弐條さんまず男の子ですよ。元気な男の子です。」




そういって雅の胸の上に生まれたばかりの長男を置く。雅は潤んだ瞳で長男を見る。でもあと一人お腹にいるんだよね。長男は保育器に入れられ、先にNICUへ。一息つくと次の子の陣痛が始まる・・・。次は一人生まれたあとなので、楽ですよって言われるんだけど、そのように見えない・・・。俺は疲れきってしまった・・・。なんてだめなパパなんだ・・・。




「孝博・・・。いいよ外で待っていても・・・。ありがとう付き添ってくれて・・・。」
「ごめんな・・・雅・・・。あと一人、がんばれよ。」




そういうと後を任せて、病室を出る。
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一途 (92)ついに・・・
 年末のフライトも難なく終わり、年が明ける。雅のお腹は限界。もともと細い雅。そのお腹の中に二人の子供が入っているんだから大変だ。雅は早く産みたいとイライラしている。もちろんこの俺が見舞いに行ってもイライラしているのか何かしらわがままを言って当り散らす。あと1週間で、早産防止の点滴がはずされることになっている。先生によると、この点滴をはずすと陣痛がすぐに来るらしい・・・。



 出産予定日は1月11日。今のところその日に点滴をはずしましょうということになった。その日はフライトがない。そして雅のお父さんもまだ国会が始まっていないから、新しい命の誕生に立ち会うことが出来ると大喜び。そして一応だけど、俺の父さんにも声を掛けておいた。来るかどうかはわからないけどね。今の予定では立会いが出来る。立会いするための講習を受けていなかったから、急遽助産師さんとマンツーマンで話を聞く。今いる雅の病室は出産も出来るようになっている部屋。一応何かない限りはこの病室で出産するんだ。




「双子って、2回陣痛が来るんでしょ?怖いな・・・。」
「大丈夫だよ。美咲の時に比べたら赤ちゃんは小さいし、大丈夫じゃないかな?お母さんに聞いたらいいよ。雅と彬を産んだ経験者だよ。」
「うんそうだね・・・。ママは初産で双子を産んだんだから・・・。きっとすごく不安だったと思うよ。」




雅はニコニコしながら、俺の顔を見つめる。俺は雅の頬を撫でて色白の額にキス。30過ぎても相変わらず化粧なしでも綺麗で若々しい雅。同僚達は俺の嫁さんが雅である事を羨ましがるのがわかる。普通の男なら放っておけないよね。そして未だに人事部から言われる。雅が落ち着いたら来て欲しいと・・・。CAとしてでもいいし、雅の腕を見込んで教官としてでも・・・。




 ついに来た来た1月11日。朝の検診のあと、主治医によって点滴がはずされた。主治医によるといつ陣痛が来てもいいらしい。陣痛管理装置をつけられ、その時を待つ。まぁ取ってすぐには来ないけどね・・・。陣痛が始まったら官邸へ連絡が欲しいといわれている。お母さんによると、お父さんは昨日からそわそわして夜も寝ていないらしい。お昼になっても兆候はなし。一応俺の母さんが代官山からやってきた。




「雅さん、もうすぐね。思い出すわ・・・。静を産んだ日に雅さんたちが急に生まれたんですものね。予定日よりもひと月半早く・・・。あの時は驚いたわ。」
「お母様・・・。」




するとドアをトントンと叩く音。俺がドアを開け対応するとそこに立っていたのは、俺の父さんだった。兵庫県副知事の父さん。知事である和気叔父さんに言って休みをもらったらしい。もちろん三人目四人目(孝志は除く)の孫になるわけだし、美咲の時も、ひかりの時も会いにいけなかったんだよね・・・。特に父さんと母さんは顔を合わすのも嫌だから、ひかりの時は行きたくても行けなかったんだ。父さんは姉貴を結構かわいがっていたんだけどね。俺は廊下に出て父さんと話す。




「悪い、今ここに母さんがいるんだ。まだ雅に陣痛は来ないし・・・。陣痛が来たら連絡するよ。今日はどこかに泊まるのか?」
「ああ、六本木のホテルを取ってある。そうか、美月がいるのか・・・。じゃあとりあえず帰るよ・・・。生まれそうになったら連絡をくれ。」
「んん・・・本当にごめんな、わざわざ来てくれたのにさ。」




父さんは残念そうに帰って行った。病室に入ると雅が言う。




「誰?お客さん?」
「んん・・・。いつ雅が産気づくかわからないから、帰ってもらったんだ。」
「そう・・・。」




俺の母さんは、まだ兆候がないからって帰っていったんだ。




「で、誰が来ていたの?」
「俺の父さん。」
「だと思った・・・。お母様がいたから帰ってもらったのね・・・。」
「んん・・・。」
「あの二人和解するといいわね。まあお父様にいろいろあったかもしれないけれど・・・。」
「しょうがないよ・・・母さんも頑固だし、父さんもそう・・・。」




なかなか陣痛の来ない雅はちょっと苦しそうだったけれど、俺はできるだけ雅の側を離れないようにしたんだ。

一途 (91)気になる
 ホテルロビーでの集合時間。北田さんと共に話していると、関空支店のキャプテンが話しかけてくる。




「やあ北田!久しぶり!」
「お!安永!」




二人は防大で同期だったらしい。安永キャプテンは俺と同じように防大を中退して航大に入り、この会社に入った。大体同じ時間帯の出発だったから、関空行きと成田行きのクルーは同じバスに乗り込むこととなった。ということは同じ密室で九條桜と顔を合わすこととなる。やはり同期の由佳は九條桜と仲良くしゃべりながらバスが到着するのを待つ。視線が気になる。九條桜は由佳としゃべりながらもこっちを真っ赤な顔でちらちら見ている。




はじめにうちのクルーが乗り込み、俺と北田さんが前から2列目に座る。全員が座ったら関空支店のクルーが入ってくる。関空支店のCAたちが俺の方をちらちら見ながら通り過ぎていく。どういう意味なのか?もしかして俺と九條桜の関係を知っているのか?でもそのあといろいろ聞こえてくる内容で違うことに安心したけど・・・。後ろは後ろでCAたちが騒いでいる。女ばっかりだからしょうがないねと北田さんや安永さんと苦笑。こっちはこっちでいろいろ話しながら空港まで向かっていた。




 空港につき、ちょこっと時間があったので、由佳に聞いてみる。




「さっきCAたちは俺のことちらちらと見ていたみたいだけど・・・・。あと後ろで何を話していたわけ?」
「気になる?関空支店のみんなはもともと私がいた支店だから顔馴染みでね。いろいろ話していたんだけど・・・。うふふふ・・・。」
「だから何を話してたんだよ。」
「たいしたことじゃないよ。孝博君がかっこいいって。みんな妻子持ちじゃなかったらなあなんてさ。関空支店の運行乗務員部にはいないからねえ・・・いい男。成田支店って結構いい男多いじゃない?だから羨ましいってさ。まぁその筆頭が孝博くんだけど?」
「九條さんとは何を話してたんだ?」
「ただの世間話よ。そうそう、彼女そろそろお見合いでもしようかなって言ってたのよ。あの子いいところのお嬢さんでしょ。早く嫁に行けってうるさいらしいのよ。もうすぐ30だしねェ・・・。」
「じゃあ、お前も行けよ。」
「私はもう行かないの。うちのパパみたいなのに当たったら最悪だもん。散々ママを泣かせてさ、結局ママは家を出て行ったっきり音信不通。それなら結婚しなくていいもんね。こうして孝博君の側にいることができるだけでもうれしいわよ。だいたい同じクルーでしょ?」
はあ・・そういう問題じゃないだろ?ということは年でCA辞めるまで付きまとうつもりか?
「私これでも優秀なのよ。あとね、防大出身でしょ?防衛訓練受けているから重宝されているの。だから私はVIP専属CAなんだってば。お淑やか大和撫子だけのあの女に比べたら・・・。」




あの女って・・・雅のことだろ?まぁ由佳は防御等の能力はあると思うけど・・・。もちろん俺もみっちり3年は訓練受けたからなにかあっても何とかなりそうだと思うけど・・・。
何でいつまでも由佳は、雅を目の敵にするつもりなんだろうね。もう決着ついているはずなのにさ。

一途 (90)九條桜
 俺が北田さんとロビーを通り過ぎようとすると、九條桜に見つかってしまう。まあそのときは声をかけられたりなんかはしなかったんだけどね。北田さんとの食事を終え、ほろ酔い気分で部屋に帰ると、部屋の前で誰かが待っている。




「孝博さん・・・。」




俺は無視して部屋の鍵を開けて入ろうとするんだけど、九條桜が俺の後ろから抱きついてくる。




「離せよ・・・・。」
「話くらいは聞いてよ。とりあえず中に入れて。廊下じゃ他の人の目があるし・・・。」
「しょうがない・・話だけだ・・・。」




本当に廊下で話すような内容じゃないし・・・。しょうがないけど入れることにした。九條桜は、相変わらず、同じ年なのに大人っぽく見えるって言うか、キャリアウーマンタイプ。顔はそういえばなんとなく、兄の九條実朝に似ている。とりあえず、九條桜を椅子に座らせて、お茶を入れる。そして俺はベッドに腰掛ける。




「何。話って・・・。もう君とは清算したはずだけど?それとも君のお兄さんがまた?」
「ホント馬鹿なお兄ちゃんよね。あなたの奥さんにあんなことして。まあわからなくもないけど。雅さんがお兄ちゃんの初恋だったし、小さい頃から甘やかされて、欲しいものは何でも与えられてきた人だから・・・。突っ走りすぎたのよ。そのおかげで私の不倫が親にばれた訳だけど?」
「とか何とか言って、お兄さんに誘惑するように言われたんじゃないのか?」
「そんな訳ないじゃん。覚えてないの?私たち幼稚園で同じだったこと。ま、クラスは違ったけどね。あの頃は私は目立たない子だったしね。ホント羨ましかったのよね。同じクラスの子たちが孝博さんとままごとでの取り合いしているの・・・。ぜんぜん変わってないよね、今もモテモテで。」
「知らないよ。あの時から雅の事しか頭になかったからね。で、話ってそれだけ?」




すると九條桜は僕の横に腰掛ける。




「今でも好きなの。あの時すんなり別れてあげたけど、忘れること出来る訳ないじゃん。ちゃんと男女の関係もあったわけだし。ホント羨ましいな。雅さんと、隠し子の母親。復縁する気ない?丁度奥さんは入院中だし、わかりっこないよ。子供が生まれたとしても双子でしょ?育児で精一杯だろうからきっと孝博さんは寂しい思いをするって。」




俺は九条桜の手を引っ張り、部屋のドアまで連れて行く。




「帰れ。もう浮気するつもりはない。今は雅と娘、生まれてくる子供たちの事が一番なんだ。もう去年の事は忘れさせたはずだ。また穿り返すようだったら、この前の傷害事件と雅にしていたことを、俺の知り合いに新聞記者がいるから記事を書かせるぞ。さあ帰れ。もう復縁はしない。」
「わかった。でも気が変わったら連絡ちょうだい。待っているから。じゃ。」




九條桜はしぶしぶ出て行った。これですべてうまくいくかはわからないけれど何とかなるといい。ばれたらばれたで、きちんとすべてを雅に話そうと思う。話して謝るしかない。もう消し去ることが出来ない事柄だからね。嗚呼また尻に敷かれる俺・・・。

一途 (89)九條再び!
 年末はフライトスケジュール変更が多い。特にクリスマスあたりなど、チャーターがあったりなんかしてドタバタ。




 今日はクリスマス休暇真っ盛り。超満席。キャンセル待ち多数って聞くくらいだ。いつものように北田キャプテンとともにシャンゼリセ通りのクリスマスイルミネーションが綺麗なパリへのフライト。往復5日間。帰ってくるのは年の瀬の28日。一般的には仕事納めも終わり、普通の企業はもう正月休みって事だ。俺みたいな客商売の企業には正月休みなどない。28日に帰ってきたとしても、大晦日に実はフライトが入っている。お次はハワイ・・・。みんな暖かいハワイでお正月を過ごすために行くんだろうね。まあこのフライトとフライトとの間に休暇があるからマシといえばそうかもしれない。といってもいつも北田さんと散歩したり食事したりといつも一緒なんだけど・・・。帰ってくるのは正月明け4日。その後は雅の出産が控えているからいっぱい休暇を取る。なんと半月!!!そのために今まで有給を最小限にしか使わなかった。美咲も孝志も立ち会えなかった訳だから、今度こそ出産に立ち会うんだ!




 制服に着替え、オペレーション関係の人と色々話しながらブリーテイング開始。仕事の話ももちろんだけど、最後のほうはうちの雅の事で盛り上がっていた。もちろんあと半月もすればうちの可愛い双子ちゃんが生まれてくるわけで・・・。そしてクルーと合流し、スーツケースを窓口に預ける。このところずっと例の由佳と同じ。以前に比べてしつこくはなくなったけれど、相変わらずな表情でこの俺を見る。窓口の前で由佳が俺の耳元で言うんだ。




「覚えてる?桜の事。あの子関空からの便で大体同じ時刻に着くんだってさ。」
「だから何?もう関係ないよ。もう清算したんだ。ずいぶん前にね。」
「ふ~~~ん。そっ。」




そういうと他のCAたちと合流し、世間話をしている。北田さんがCAたちに声をかけ、税関へ向かい、出国名簿にサイン。まあその後は運行前点検やら、クルーとの最終打ち合わせをする。まあいつものように無事に到着。




「弐條君、相変わらず立派な着陸です。今日のドゴールは冬の嵐でしたが・・・。一瞬降りることが出来ないと思いましたよ。」
「まあ前の会社で何度かこういうのがありましたしね。着陸直後の横風にはヒヤッとしましたが・・・。」




フライトレポートを提出し、一路ホテルへ。俺が北田さんの分もチェックイン。本日も一人部屋。ホワイトクリスマスのパリ。雪が降ってもなかなか積もらないところらしいけれど、今日はうっすら積もっている。別に今日の予定はないから、北田さんとホテル近くのレストランで夕飯を取ろうとロビーに下りると、もう一つのクルーが到着したみたいだ。




「桜!!!久しぶり!!!今ついたの???」
「由佳!そうなの・・・雪でなかなか降りれなくて・・・。由佳の便は定刻?」
「うん、まあね。だってうちの運行乗務員は優秀よ。どんな天候でも着陸できるんだから。」
「だれだれ???」
「知らない?成田支店の北田キャプテンと弐條副操縦士ペアよ。」
「弐條孝博さん・・・・・?」




桜が顔を曇らせるのが見える。

一途 (88)焦り
 雅のお見舞いから帰ってきた。誰もいない自宅の電気をつけ、着替えを洗濯機に入れてスイッチオン。ふと雅が言ったことを思い出す。あの時何とかごまかせたんだけど、やはり雅の勘って言うのはすごいと思った。本当にばれてはいないようだったけれど、不安になった。洗濯を干し、代官山の俺の母さんの自宅まで、美咲を迎えに行く。




「お帰り!パパ!!」




と、美咲が玄関で俺を出迎える。俺は美咲を抱きしめて頬にただいまのキス。美咲もお返しに俺の頬にキス。すると母さんが微笑みながら出てくる。




「孝博、夕飯食べていくでしょ?今日彬君は残業で遅くなるそうだからゆっくりしていきなさい。」
「んん・・・。」




姉貴がキッチンで美咲と一緒に夕飯の準備。最近美咲は姉貴と料理をしているらしい。今日はハンバーグらしくて、一緒に丸めている。




「美咲ね、今日パパのハンバーグ作るから楽しみにしていてね。ね、静伯母ちゃん。」
「そうね。孝博、お風呂も入っていきなさい。雅どうだった?」
「んん。順調だったよ。年明けに生まれるんだってさ。帝王切開は免れそうだ。」
「良かったじゃん。楽しみだよね。双子ちゃん。みーちゃん。焼いていこうか。」




和やかな雰囲気で夕飯の支度を進める姉貴と美咲。リビングで母さんは姉貴と彬の娘、姪のひかりちゃんと遊んでいた。今月の24日でひかりちゃんは1歳になる。もうしっかり歩き、僕のほうを見ると笑って抱っこのポーズ。俺はひかりちゃんを抱っこしてふと孝志のことを思い出す。孝志とひかりちゃんの誕生日は同じ。孝志ももうこれくらいになっているのかなあ・・・。なんて思いながらひかりちゃんと遊んでいた。ひかりちゃんは俺の少し伸びたひげを触っている。そしてキャッキャッと笑う。ひかりちゃんは弐條の顔をしている。なんていうのかなあ・・・綾乃叔母ちゃん(義母)似。ということは美咲にも似ている。彬は雅と双子。姉貴の旦那は彬。俺の妻は雅。ホントどちらもいとこ同士の結婚で・・・。似ていて当たり前か・・・。

一途 (87)夢
 私は久しぶりにはっきりした夢を見た。私がはっきりした夢を見るときは正夢の場合が多い。どんな夢?それは孝博の浮気の夢。孝博と浮気相手がベッドの中でいちゃついていた。その相手が私の元後輩・・・遠藤遥。遥は私の前では見せないような笑顔で孝博と・・・。孝博も満足げ。どうしてこんな夢を見るの?やはり先日孝博が遥を送っていったから?確かに孝博は遥を見て驚いていたし、遥の目が泳いでいた。女の感というのかな・・・なんとなくこの二人おかしいと思ったのね。




孝博はフライトが終わると真っ先にお見舞いに来てくれる。そして私とお腹の双子ちゃんを慈しみながらいたわってくれる。




「雅、どうかした?なんか浮かない顔して。調子悪い?看護師さん呼ぼうか?」
「ううん・・・。なんでもないの。何でも。」




夢だもんね・・・。こんなにやさしい孝博がダブル不倫しているはずない。それても以前の浮気相手が遥って事ないよね?そうすると遥の子供孝志君は孝博との子?そんなことないよね。遥に限って・・・。遥は妻子ある男性と付き合っていたというけれど、どんな人か知らないんだよね。ただやさしいってくらいしか。




「ねえ、孝博・・・。遥と仲がいいみたいだけど・・・。」
「え?どうしてどんなこと聞くんだ?」
「だって普通雨が急に降ったぐらいで送るかしら?いくら誰にだって優しい孝博だとしても・・・。」
「雅の大切な後輩は俺にとっても大切だし、俺と遠藤さんは同じ年の入社だよ。よく同じクルーだったしさ、お父さん同士も仲がいいし・・・。おかしいことかなあ?」
「そうよね・・・。そうだよね・・・。」




さらっと答えた孝博に疑う余地ない。やはり考えすぎ?そして孝博は私の手をとって言うの。




「俺にはさ、雅しかいないんだ。だから安心して。」




そういうと孝博は私の額にキス。そして私にこういうの。




「あのさ、遠藤代議士は、俺の死んだ爺ちゃんの元私設弁護士だったんだ。まったく知らない訳じゃない。もちろん何度か会った事があったらしいけれど・・・。覚えていないんだよ。知らなかった?」




そういや遠藤代議士は孝博のお爺様の私設弁護士で、後継者として育ててたって言うのを聞いたことがある。もともと孝博のお爺様の出身は北陸で、その好で育ててたって・・・。可愛がっていた秘書の子供と代議士の孫が会うことってありえる話だよね。




「雅、そんなこと考えてないで、ゆっくりしないとね・・・。さっき先生が年明けには生まれるでしょうって・・・。今のところ二人とも逆子じゃないらしいから、帝王切開じゃなくてもいけるって話だよ。がんばろうな雅。これから俺年末は忙しいからこうして会いに来てやれないかもしれないけれど、今回は出来るだけ立会いできるようにするから、苦しいだろうけれど、がんばれよ。」




そういうと孝博はいつものやさしい笑顔で見つめてくれた。あの夢は正夢じゃないよね?正夢だとしても、現時点では孝博は浮気していないし、こうして大切にしてくれているんだし・・・。どうでもいいかな・・・。

一途 (86)再会
 俺は雅のお見舞いにいって驚いた。ドアを開けると遥がいたんだから。遥も俺の顔を見て驚いていた。遥は僕にお辞儀をすると部屋を出て行ったんだけど、遥はストールを忘れていったんだ。




「俺さ、これ遠藤さんに届けてくるね。」
「うん、頼むね。」




俺は急いで遥を追いかけた。そして玄関先で遥に追いついた。




「遠藤さん!」




遥は振り返り、微笑む。俺は遥にストールを渡す。




「忘れてたよ。ホント遥は相変わらずだね・・・。」
「ありがとう・・・。それだけ?」
「んん・・・。あ、ここまで何できたの?タクシー?」
「うん・・・。」
「送るよ。どこだっけ家。」
「高輪台・・・いいよ、孝博さんに迷惑だから・・・。タクシーひろうし・・・。」
「でも今にも雨が降りそうだから送るって。」




そういうと同時に一滴の雨・・・。すぐにザザっと降り出した。俺は遥を俺の車に乗せ、高輪台に向かう。車の中で色々話す。




「孝志は来月1歳だね。どう?」
「まあ順調かな・・・。なんとなく孝博さんに似てきた。」
「結婚したらしいね。どう旦那様は?孝志のことかわいがってくれる?」
「主人は形だけ孝志をかわいがっているわ。だって孝志はパパがすごくかわいがっているでしょ。パパをよいしょしておかないと・・・将来後継者として出馬できないじゃない?孝志もなついてきてるし・・・。ホント仮面夫婦。孝博さんを忘れることなんか出来るわけないよ。」
「・・・・。」




この言葉以降何も話さなかったけれど、気になっていたことが少しでも聞けてうれしかった。高輪台まで遥を送り、愛育病院に戻る。




「遅かったね。」
「ああ、急に雨が降って来てね、高輪台まで送ってきたんだ。」
「そう・・・。」




気づかれているんだろうか?最近雅は探りを入れているような気がするんだけど・・・。でももう遥とは終わりにしたんだ。


一途 (85)入院
 ついに管理入院の日が来てしまった。本当は表参道にある美咲を産んだ産婦人科で産みたかったんだけど、完璧なNICUがないので私の産まれた麻布にある愛育病院へ入院することになった。まあ自宅から近いしいいかな・・・。孝博はたくさんの入院荷物を持って手続き。そして病室へ案内される。総理大臣の娘だから?特別個室が用意された。パパったらできるだけお見舞いに行くよって・・・。ここは以前ある宮家の方が長期入院されていたらしいのよね。VIP室なのか・・・。主治医の診察を終えたあと、孝博と先生が話している。




「何はなしていたの?」
「別に?俺なかなか来れないだろ?これから忙しいし・・・。お願いしてきたんだよ。」
「ホントに?性別でも聞いてきたんじゃないの?」




孝博は照れていた。違うよとか何とか言っちゃって・・・。

ホント順調。でも一つ言われたのはちょっと太り気味って事?今回の妊娠は家でじっとしていたことが多かったからかしら?いけないわねえ・・・。

孝博ったら、ママから抱き枕がいいわよって聞いていたらしくって、新しいものを買って来てくれてたの。そして荷物をすべて整理。面会時間ぎりぎりまで側にいてくれたの。次の日フライトって言うのに・・・。ほんとにやさしいね孝博って・・・。生まれてくるのはまだ2ヶ月先。1月中旬予定。予定日よりひと月早く生まれることになるの。まだ普通分娩か帝王切開かは決まっていないんだけどね。



私はウテメリンが入った点滴を24時間ずっとつけられる。これをはずすと陣痛が始まってしまうって事。実はずっとお腹が痛かったのは陣痛の始まりだったんだって・・・。後から聞いて驚いたわよ。




 毎日美咲は孝博のお母さんか、私のママに連れられてお見舞いにやってくる。そして私に1輪の花をくれるの。それを一つ一つ花瓶にさしていく。




「ママ、美咲の弟か妹?早く生まれないかな?絶対美咲、双子ちゃんをかわいがるよ。もう美咲はおねえちゃんだもん。」




そして美咲は大事にしていたくまさんを私に渡すの。




「ママ、これがあれば寂しくないでしょ。」
「美咲・・・。でも美咲はこれがないと・・・。」
「いいの美咲、お姉ちゃんだから。」




そういうと美咲は悲しそうな表情で病室を出て行ったの。そして色々なお見舞いの人たち。同窓生はもちろん、会社の元同僚。そして一番仲のよかった後輩の遥。




「雅先輩。大丈夫ですか?」
「遥、久しぶり。どう?新婚生活。」




そう遥は11月はじめに子連れ結婚。お相手はお父様の私設秘書。5歳年上のバツいちさん。




「まあまあ・・・。パパと孝志のための結婚だから・・・。」
「で、孝志くんは?」
「うちのパパに預けてきたの。ちょうど休みだから・・・。」
「旦那様は見てくれないの?」
「当たり前じゃないですか?自分の子供じゃないし・・・。」




まあそうよね。するとフライトを終えた孝博が入ってきた。孝博は驚いた様子で固まっている。




「お帰り、孝博。珍しいでしょ遥が来るなんて・・・。」
「そ、そうだね・・・。お久しぶりです、遠藤さん。」
「は、はい・・・。お元気そうで・・・。邪魔だから帰ります先輩。」
「え、もう帰るの?」
「孝志が待っていますから・・・。」




そういうと遥は孝博にお辞儀をして部屋を出て行った。

一途 (84)お受験2
 保護者面接が終わってすぐの11月のはじめ、美咲の適正テスト。美咲は朝から行かないと駄々こねて泣き叫ぶ。今日は孝博はフライトだから、ママが付き添ってくれることになったの。ここまで来るのに受けた田園調布雙葉、何とか受験日が重ならなかった雙葉。田園調布のほうは女の子ばかりだったから、何とかがんばれたんだけど、もう一個のほうは男の子がいて恐縮・・・。何もかも手がつかなかった様子。親子面接の時ももじもじしてしまって・・・。ああだめだって思っちゃった・・・。そして本命の学習院が今日なのよね・・・。そして同時にダブル雙葉の合格発表!


美咲はママの運転する車の中で、宝物のクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて泣いている。私は孝博に電話をかけてみる。向こうは夜中だけど・・・。孝博は喜んで美咲と代わってという。




「パパ?」
『美咲。まだ泣いているんだって?かわいい美咲が台無しだよ。美咲はいいことをしたんだ。本当にいい子だから。今日の幼稚園はパパとママが行っていた幼稚園なんだ。だから美咲も行こうよ。ね?』
「うん・・・。」




美咲と孝博は何か約束をしていたみたいね。なんとそれは学習院に受かったらバレエ習ってもいいって。そして今度フランスに行ったらチュチュとか買ってくるよって・・・。美咲は大喜びでにんまり。大好きなクマさんとお話している。




「聞いてくまさん。パパったらね、今日行く幼稚園に行くことになったらバレエ習ってもいいって。」




こういうことってよくないんだろうけど、美咲がやる気になってくれたってことでよしにしないと・・・。




 美咲は大事なクマさんを車に置き、幼稚園へ入っていく。そして私に手を振って試験会場へ。私はママと控え室で終わるのを待つ。ホント私のおなか、ずいぶん大きくなった。まだ7ヶ月だけど臨月みたい・・・。11月中旬には管理入院に入る。また美咲は孝博お母さんと私の実家を行ったり来たりの生活・・・。最近よくおなかが張る。痛いんだよね・・・。マタニティーのお受験用のワンピがパンパン。




「雅。大丈夫?だいぶん張ってるんじゃない?」
「うん・・・。でも大丈夫だから・・・。合格発表は孝博のお母様と静ちゃんが行ってくれているし・・・。もうそろそろメールが入ると思うけれど・・・。」




するとマナーモードの携帯にメール。静ちゃんから・・・。雙葉の結果・・・。「落」だって・・・やっぱりね・・・。そしてお母様から・・・。




「田園調布は番号がありましたので、一応書類をいただいて帰ります。 高橋美月」




受かったのね。私はママにメールを見せた。ママは喜んでいたの。でもよく考えてみて?あそこは基本的に車通園不可。まあここの滑り止めってことで・・・。何とかなるかな・・・。




 美咲はニコニコ顔で帰ってきた。うまくいったのかな?なんとグループに例の男の子がいなかったらしくって、きちんとできたよって・・・。




 ついに来た来た合格発表日!孝博は休日だったから、孝博がいってくれることになった。私はおなかが張って苦しいから・・・。昨日の検診で安静指示が出ちゃったしね・・・。孝博は有給を使って、私が入院するまで休みを取ったのね。昨日性別を聞いちゃった。もちろん孝博には内緒。なんと私や彬と同じミックス(男の子と女の子)!パパが欲しがっていた男孫が出来るわけ。今から名前を考えているの。




3時間後、孝博は美咲と一緒にルンルン気分で帰ってきた。なかなか帰ってこないから、心配してたのに。孝博はたくさんの封筒を抱えて帰ってきたの。




「で、どうだった?学習院・・・。」
「受かってたよ。だから、そのあと美咲と食事して、デートしてたんだよ。なあ美咲。」
「うん!」
「田園調布、辞退の電話入れておいたから。で、いいんだろ?で、これもらってきた。」




封筒の中身はバレエ教室のパンフレット。ついでに教室見学も行ってきたらしいの。




「美咲ったら、渋谷の教室が気に入っちゃってさ、そこに決めたんだ。春から教室予約入れてきたから。入会金も払ってきた。」




もう勝手に決めちゃって・・・。美咲ったら踊るまねっこして遊んでいる。ホントうれしそう・・・。もちろん孝博はパパや孝博のお母様に電話を入れていたの。すると入園式に行きたいというパパ!いい加減にして欲しいわ。まったく・・・。

一途 (83)お受験1
 願書もきちんと出した。数園の有名幼稚園とそして学習院幼稚園。どこか受かればいいよねって感じでお受験。真っ先に学習院の保護者面接ね・・・。きちんと美咲にお受験用の服を着せ、孝博と待ち合わせる。孝博はフライトバックを持ったまま走ってきた。




「ごめんごめん。間に合った?」
「ん、まあね。どうしてフライトバック持ってきたの?」
「機密情報が入っているから、車上荒らしにあったら大変だろ?だから。」




そういうと美咲の手を握って思い出の学習院幼稚園へ。もともと私たちは同窓生。受付を済ませ、美咲を子供たちの控え室に預ける。美咲は手を振って先生に手を引かれて受験する幼児の輪に加わる。私たちは面接の控え室へそこで懐かしい顔に出会う。私の幼稚園からの友人。元宮家にいた子。そういえば長男が美咲と一緒って聞いた。もしかしてと思ったらその通り。




「雅さん、お久しぶり。色々噂には聞いているわ。あちらがご主人?」
「お久しぶり。幸子さん。結婚式以来かしら?どう?宮家を出て。」
「何とかね。主人もとてもいい人だから。」




ある旧家に嫁いだ幸子さん。相変わらず御淑やかで、変わらない。




「雅さん、妊娠中?いつ?もしかしてもう生まれる?」
「ううん。予定は2月なんだけど、双子だから。年明けかもしれない。」
「え?双子ちゃん?雅さんも双子だったわよね?彬君は元気?」
「相変わらず父の秘書官をしているわ。」




すると私たちの順番が来たのね。こういうのって何年ぶり?もちろん色々聞かれたわよ。定番のものがほとんどだけど・・・。




「弐條雅さん。お久しぶりね。」




園長先生って・・・。私の恩師?そして孝博の事も覚えておられたみたいね。もちろん従姉弟で結婚したことバレバレ・・・。昔話で盛り上がった・・・。先生ったら、昔の事を・・・。




「雅さんね、いじめっ子をよくやっつけていたわ。本当に正義感の強い女の子で、よく彬君を守っていたわね。彬君は泣き虫さんだったから・・・。孝博君は小さいころからホント女の子に囲まれて、ままごととか嫌々させられていたのを覚えているわ。いつもお父さん役ばかり・・・。本当に二人とも立派になって・・・。」




なんて・・・面接なのにね・・・。何とか面接終了!美咲を迎えに行くと美咲は泣いていたの。




「どうしたの美咲?」
「ママァ!!!パパァ!!!」




孝博は美咲を抱き上げてなだめる。見ていた先生は理由を言うのね。美咲は意地悪していた男の子を怒ったらしいのね。そうしたらその子が突き飛ばしてきたって・・・。美咲は転んでしまって泣いたらしいのよ。




「ミイちゃんここ行かない!幼稚園行きたくない!」
「美咲、そんなこと言ったらいけないよ。美咲はいいことをしたんだ。いい子だね、美咲は。」




孝博が美咲をぎゅっと抱きしめて言い聞かしている。美咲は珍しく泣き止まなかった。行かない行かない!って言い続ける美咲。美咲はずっと大人の世界で暮らしてきたんだもの。もちろん公邸では厳しくいいことと悪いことはしつけられてたのよね。美咲は総理官邸へよく遊びに行って内閣府の職員にまで怒ってたらしいの。「廊下は走っちゃだめえ」とか色々ね。それが当たり前だったからね・・・。ホントたくさんの同年代の子供と遊ぶ機会なんて少なかったのよね・・・。戸惑っているのかな・・・美咲は・・・。




ずっと美咲は孝博の胸に顔をうずめてしくしく泣いていた。孝博のスーツがびっしょりになるくらい・・・。孝博は重いフライトバックを持ちながら美咲も抱っこしているもんだから大変そう・・・。

一途 (82)妊婦生活
 最後のフライトの次の日は旦那様の休暇。孝博ったら疲れているのに家事全般をしてくれた。まあ孝博は家事が上手い。買い物にも行ってくれた。ホント私は美咲と一緒にゆっくりしていただけって感じ。どうしてこんなにやさしいの?もちろん美咲の世話までもよ。




「孝博。もう休んだら?美咲も寝ちゃったし・・・。」
「もうすぐで終わるからさ。」




といってアイロンがけ。ホントに孝博のアイロンがけって上手。防大では自分の制服は自分できちっとアイロン掛けしなくちゃいけなかったからかな。そういうところも厳しかったらしいわ。だから昔からアイロンがけは孝博が引き受けてくれていたの。アイロンがけが終わると孝博は私にホットミルクを。もちろん孝博はブラックコーヒー。二人より沿いながら夜が更けていった。



次の日、孝博は次のフライト準備。今度は豪州へ行くのよね。初めてらしいの。季節が逆でしょ。クローゼットから冬物の服を出してきて詰めている。そして早めの就寝。




「なあ、雅。明日からまたいないわけだけど、何かあったら俺の母さんにでも電話して病院行けよ。姉貴でもいいしさ。」
「やさしいじゃん。どうしたの?」
「別に。当たり前だろ?」




ま、何か隠しているような表情は変わらないけどね・・・。同じベッドの中で、私のおなかを気遣いながらキスしてくれる孝博。まあいいか・・・こうして孝博との赤ちゃんたちがいるんだし・・・。妊婦生活をエンジョイしなきゃ。

孝博がフライトで出かけるときは必ず行ってらっしゃいのキス。ホント私たちってラブラブで・・・。孝博はもう浮気している気配はないしね・・・。




何事もなく過ぎていく妊婦生活の日々。孝博がいない日は美咲と公園に行ったり、最近始めた美咲のピアノ教室、お絵かき教室に行ったり・・・そこで知り合ったお友達とランチに行ったりね。美咲も本当に飲み込みが早いというか、ずいぶん上達しちゃって、パパったら美咲のお誕生日に美咲の為にピアノを買ってくれたの。それまでは私の実家においてある私がずっと使っていたものを使っていたんだけどね。美咲ったらバレエも習いたいって言うのよ。もちろん孝博はいいって。でもねえ・・・私もそろそろおなかが大きくなってきたでしょ?美咲には幼稚園に行ったらねって言い聞かせたけど。




 秋が過ぎ、お受験の季節。ちょうど学習院の願書配布の日は孝博のフライトは休み。もちろん孝博は並びに行って無事に願書ゲット。あと数園受けるんだけどね。願書を見てびっくり。孝博のフライトから帰ってくる日だったのよね。親子面接は午後。何とか間に合いそう。はあ・・・。私のパパが行くって言わなくてよかった!


一途 (81)引退
 私の最後のフライト。打ち合わせの後、訓練生のCAが声をかけてくる。




「弐條先輩の旦那様ってすごくかっこいい人なんですね。その上優秀だなんて・・・。私もああいう人と結婚したいなあ・・・。やっぱりここで知り合ったんですか?うらやましいです。」




すると私の同期のCAが言うのね。従姉弟ってことは言わないでよ!




「雅の旦那様って・・・。雅ったらずっと高校時代から付き合っていたんだよね。遠距離恋愛までして。ほんとに雅って一途なんだから。今時珍しい。清楚で完璧な大和撫子タイプの雅が出来婚と知ったときには驚いたけどね~~~~。」
「え!弐條先輩って出来婚なんですか???信じられません!」




出来婚出来婚って・・・。まあ嘘じゃないけど・・・。ホント色々みんなの手助けがあって最後のフライトは何事もなく過ぎて行った。そして私の担当するファーストクラス・・・。私の引退の噂を聞いたのか、乗客の中には新人時代からの結構顔見知りのお客様。そして顔を合わすたびに、色々引退について聞いてくるのね。




「産休ではないんですか?」
「はい。今回は双子を妊娠しておりまして、娘も来年から幼稚園ですから。」
「復帰はないのですか?国内線でもなしですか?」
「今のところは・・・。」
「では旦那様の会社には?色々噂があるんですよ。旦那様の会社に移るとか・・・。」




もちろんあちらから産後来て欲しいとはいわれているけどね。それも訓練センターに・・・。でもそれはお断りしたの。何年先に復帰できるかさえわからないのに。皆さん口々に復帰をって言うんだけどね。復帰したころにはもう私の時代じゃないわ。




フライト中、気を緩めるとつわりに襲われる。休憩時間に飴玉をなめたり氷をなめたりしてなんとか乗り切ったけど・・・。でも我慢は今日まで。明日からは自宅で美咲とゆっくり妊婦生活。そして孝博のために家庭を守らないとね。早く胎動を感じないかなあなんて思いながら仕事を何とかこなす。そして成田に到着。続々とお客様をお見送り。顔なじみのお客様の中には以前私に求婚してきたお医者様も。ご結婚されてもうすぐお子様が生まれると聞いたの。生まれたらうちの双子ちゃんと同じですねって話した。そして握手。ああこれで私は当分仕事で飛行機には乗らない。もしかしたらもう乗らないかもしれないけど・・・。お客様をすべて見送ると私は深々と心をこめてお辞儀。するとクルーのみんなが私に拍手。私はウルウル・・・。




「さ、最後の仕事よ!」




とチーフが声をかける。最後の客室内の点検。終了後、私は制服のジャケットを着て自分の荷物をまとめる。運行乗務員もコクピッドから出てくる。そして機体を離れる。客室乗務員部で報告書を書き、反省会をすると、クルーのみんなや運行乗務員部の人、CAたちに取り囲まれて、花やプレゼントの嵐。私はお礼をみんなに言う。みんな私の事こんなに思ってくれてたんだね。ほんとにうれしくって・・・。涙でお化粧が・・・。




 私はロッカールームで制服を脱ぎ、まとめていた髪を下ろす。そして客室乗務員部へ再び出向き、制服一式と、名札、IDを返却する。




「長い間お世話になりました。本当に色々いい経験をさせていただくことが出来ました。ありがとうございました。」




私は深々と頭を下げる。すると大きな暖かい拍手。なかなか鳴り止まない。すると私の方をぽんぽんと・・・。振り返ると孝博?よくここまで入ってくることが出来たね。話によると会社の前で待っていた孝博に顔なじみの社員が入れてくれたという。




「雅、ご苦労様。さ、いっぱいの荷物俺が持ってやるから。帰ろう。会社の前で美咲やお母さんも待っているし・・・。」




孝博は会社の人に挨拶をすると、私のたくさんの荷物を持って私の手を握って会社を出る。会社のロータリーの前ではママが運転するうちの車。パパは首相だから来れなかったらしいけれど、チャイルドシートに美咲が乗り、手を振っている。孝博は私の荷物をトランクへ入れると同時に孝博からあるものをもらった。それは私の大好きなピンクのバラ。それもいっぱい!




「ありがとう孝博・・・。」
「ほんとにご苦労様。明日からはゆっくりするんだよ。」


と言うとママと運転を交代。そして私とママは後ろの座席に座る。そして車はパパの待つ公邸へ。パパは公務をしている総理官邸を抜けだし、公邸前で待っていてくれたの。ホント落ち着かない様子で・・・。
その後、みんなでランチ。終わったんだ。CAの私・・・。これからは家庭のためにがんばらないとね・・・。


一途 (80)滞在先にて
 何とか行きのフライトが終了した。ホテルのつくとさすがにどっと疲れが来ておなかが張る。私は張り止めを飲み横になる。そしてそのまま眠ってしまったの。夕飯も食べずによ。起きたのは昼だった。孝博のからの電話で目覚めた。孝博はパリ。私はロンドン。近いようで遠い。




「おはよう孝博・・・。何?」
「雅、今どこにいると思う?」
「パリでしょ?」
「違うんだな・・・。」
「どこよ・・・。」
「俺の目の前には大きな公園。なんて言ったかなあ・・・ハイドパーク?パリにこういう名前の公園あったかな?」




え?ハイドパークって言ったら今滞在中のホテルの目の前じゃない。何で?ってことになって孝博が部屋番号を聞いてきたから教えたの。すると30分ほどして現れた孝博。手にはフライトケースとスーツケースを持って現れる。




「どうしてここにいるの?帰りもパリ発でしょ?」
「ん?そのはずだったんだけど、運行乗務員の変更があってね、北田さんと共にロンドン発成田行きに変更になった。チャーター機なんだよねこれって・・・。だから来てしまったよ。泊まってもいいかなあ?ロンドンの部屋は北田さんと同室だったからねえ・・・。」




ちょっと待ってよ。まあいいけどね・・・。でも今夜クルーのみんなと会食があるんだけどな・・・・。最後のね・・・。孝博ったら俺も出てもいいか?って聞くのよ。もちろんクルーのみんなは知っているメンバーだけど・・・・。もちろん機長も含めて・・・。副操縦士は孝博と同期だし・・・・。もちろん電話をするとみんな喜んでおいでってことになった。会社では裏切り者って言われた孝博をね・・・。でもクルーのみんなはいい人たちばかりだもん・・・。




 そして夜。おしゃれして孝博と私はいつも行くレストランへ。




「お久しぶりです!宮元キャプテン!」
「おお!弐條!!!どうだ?そっちの会社は。うまくいってるか?」
「ええ。今北田キャプテンとずっと組んでいるんです。」
「ああ、あの北田君と?それはいい。」




訓練生以外は皆顔なじみ。キャプテンが孝博の紹介を。




「CA訓練生は知らないと思うが、弐條孝博君。元うちの優秀な副操縦士だ。今は競合会社の副操縦士だよ。まあいう引き抜かれてあっちへ行ってしまったがね。」




孝博は頭を下げて挨拶。みんな昔の話をしながら会食。もちろん私たち夫婦のお惚気まで出ちゃったりなんかして・・・。ホント楽しい送別会だったのよね。
孝博はこの晩私の部屋に泊まって、次の朝、制服に着替えてタクシーで集合場所に向かっていったの。さあ!ほんとに最後のフライト!がんばらないとね!

一途 (79)最終フライト!1
 ああ、最後のフライト。行き先は違うけれど、孝博と私の日程は同じでだいたい発着時間も同じだった。私たちは会社が違うから、成田空港の駅で別れる。いつもは車でここまで来るんだけど、最終日に私のママが美咲をつれて迎えにくるって言うの。




「じゃ、雅、俺のほうが先に帰ってくるから、雅の会社の前で待ってるよ。」
「え?居辛くないの?前いた敵対会社だよ。」
「いいよ。たくさん雅の荷物を運ばないとね。じゃ、最後のフライトを楽しんでおいで。」




孝博は手を振って足早に会社へ向かった。私は私の勤めているオペレーションセンターへ。ロッカールームに入り、このフライトで最後になる制服をじっと見つめ、今までのことを色々思い出しながらゆっくり着替えたの。




 新人のころああだったとか、孝博が入社してきた時のこととか、結婚するまで孝博の事は内緒にしていたこととか・・・。そう、美咲を妊娠したのはフライト先のホテルだったよね。ホント孝博との思い出がいっぱい詰まったこの制服。制服のスカーフをおしゃれにしっかり結んで念入りに化粧をなおす。そして髪型も乱れがないかチェック!続々と入ってくる後輩クルーたち。もちろん研修中の訓練生もいる。私はお先にっと言って、客室乗務員部へ。掲示板でファーストクラスのミールやドリンク、サービスの変更点をチェックする。




「おっはよう!雅。ついに今日だね。引退。まだまだこれからって時にねえ・・・。」
「おはよ、皐。しょうがないわよ、私は双子を妊娠中。今日だってドクターストップ掛かる寸前だったんだから・・・。何とか薬を処方してもらったからね。」




するとチーフが声をかける。




「あら弐條さん、今日も早いわね。どう、体の調子は?」
「はい、何とか。今日の往復の最後のフライト、お世話になります。」
「まあ。ホント残念だわ。あなた目当てのお客様が大勢いらっしゃるって言うのにね・・・。結構その筋では今日弐條さんが最終フライトだって有名らしいわ。だからかしら?ファーストクラス満席なのは・・・。」
「チーフ、今は夏休みですよ。そんなことありませんから。」




チーフは私にがんばってねって声をかけて打ち合わせデスクに付く。

今日の訓練生は2人。

まあ私はファーストクラスだから関係ないけど・・・。皐は指導があるんだって。大変ね。




 打ち合わせが始まる。いつも時間をかけ真剣なチーフが今回は早めに打ち合わせを済ませ、クルーに言う。




「さ、皆さんは知っていると思いますが、弐條さんが今回のフライトを持ってCAを引退されます。この会社いちの腕を持つ弐條さんが引退されるのはとても残念なことですが、おなかの赤ちゃんのためですもんね、弐條さん。あまり無理なさらないように、もし何かあれば早目に言ってくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」




みんなの拍手に囲まれて打ち合わせ終了。すれ違うほかのクルーたちも私に色々声をかける。ほんとに色々な人たちが私を支えてくれたんだなあって実感しちゃった。

一途 (78)雅、退職
 私は有給を一杯使い、半月休んで業務に戻った。やはり双子だから?ちょっぴりつわりも美咲の時と比べてきつめ。フライトのミールサービスの時はもう最悪。なんとか吐きそうになるのを我慢して乗り切った。クルーのみんなは私が妊娠中というのを知っているから色々気を使ってくれる。ホントにありがたい。




「ねえ、雅。来週のフライトで退職なんでしょ?」
「うん、まあね・・・。ホントならもう少し働くつもりだったんだけど・・・。」
「もう帰ってこないの?美咲ちゃんのときみたいに・・・。」
「うん。今回は双子ちゃんなの。だから育児が大変だしね、落ち着いたら国内線の登録をするかもね。」
「みんな言っているわよ。旦那さんの会社に移るんじゃないかなって。」
「ま、ありえるかもしれないけどね。一度引き抜きがあったのは確かだけど。でもね、今は赤ちゃんの事が大切なの。産休も考えたけど、無理っぽいし、来年美咲は幼稚園でしょ。そろそろ家にいてもいいかなって思っちゃった。」




ホント残念ねって同僚は言って何とかフライト終了。次のフライトで最後なんだって思いつつ、帰宅。そして病院に検診に。勿論双子だから半月に一度。先生は順調ねって言ってくださって、一応張り止めの薬を処方してくださった。



やはり立ち仕事と、気圧の関係の仕事だから、よくおなかは張っていた。痛みがないからいいやって思ってたけど・・・。帰りにお買い物。孝博は今日、訓練センターで年に一度シュミレーション訓練。だから早く帰ってくる。早く帰ってくる日は孝博が夕飯を作ってくれる。偶然広尾の駅前でばったり孝博と出会う。孝博は私の荷物を持って微笑んでくれたの。




「雅、だめだよ。買い物は俺がするって言ったろ?家に着いたら横にならないとね・・・。」




そうね・・・。相変わらず優しい孝博。私をいたわってくれる。勿論私たちの新しい命たちもよ。美咲は代官山のおばあちゃんちに遊びに行っている。夕方私たちが帰る頃までにいとこの静が送ってくれるって。今度のフライトはだいたい日程が同じ。違う会社だから、一緒にって言うのは無理だけど、帰りは一緒に帰ろうねなんて約束。寂しいな・・・。




「なあ、雅、美咲のお受験どうするんだ?お父さんたちは学習院って決めているみたいだけど・・・。幼稚園受験の時、保護者面接があるんだろ?俺休み取れないかもしれないぞ・・・。雅もおなか大きいし・・・。」
「まあなんかあったらきっとパパとママが行くっていうわよね。きっと大喜びで行くわよ。首相なのにね・・・。」




ホント、パパとママは美咲のお受験準備を進めている。美咲が公邸にいるとき、なんと家庭教師みたいな人を呼んで、お受験対策。受かったらいっぱい幼稚園に寄付をするぞって・・・。ほんとにもうって感じで。ま、美咲は楽しそうにお勉強しているからいいんだけど・・・。




最近美咲はひらがなの読み書きができるの。だからか知らないけど、パパとママったら美咲は天才!なんか言って、小学校受験もするぞって・・・。女の子なんだからそのままエスカレーターでもいいと思うんだけど・・・・。大学までついているしね。ま、お受験の事はいいとして・・・。さて最終フライト・・・がんばらなきゃね。

一途 (77)書類の中身
 ああやばかった。九條実朝の書類が雅や第3者に渡っていたら・・・・俺の身は破滅だった。



もちろん以前の浮気の件がはじめに書かれていたけど、なんとそのうちの一人、九條桜は九條実朝の妹だった・・・。きっとそれで俺に余計、敵対心を持っていたのか?そして遥の事。僕の隠し子、孝志について詳しく書かれていたし、遥としていた密会すべての写真。これがばれてしまうと、完全に離婚どころか・・・雅に殺されてしまうかもしれない・・・。



そしてあいつは以前いた会社の筆頭株主。それも50%という保有率。筆頭株主という権力を使って、俺を左遷。国際線から国内線に異動させ、そしてあのままあの会社にいたら、東京に戻ることができないどころか、出世も危うかったみたいだ。俺が今の会社に移ったことは正解。




 もちろん示談の際には今まで調べた俺の秘密を忘れるように言ったし、もうこれ以上雅にちょっかいを出すなとも言った。俺だって遥と話し合った上で、もう二重生活は辞めにしたし、完全清算は無理だけど、ほぼ清算。雅と家族のためにもう浮気をしないことに決めたんだ。だって、俺は年が明けると三児のパパになる。気合入れて働かないとね。遥には悪いと思っているけど、そうしようって二人で決めた。孝志の事も忘れられないけど、俺がお父さんだって名乗らないことに決めたんだ。もちろん遥は見合いをして相手が決まったことだし、これ以上彼女と会うことはない。まあ、雅の後輩として会うことはあるかもしれないけどね・・・。もう他人・・・。それでいいんだ。

 話は変わるんだけど、ホント驚いた。いきなり僕宛に俺の会社から手紙。内容は「名義変更完了のお知らせ」。株数を見て驚いた。今の株価から計算して数百億の株券。うちの会社だけじゃない。銀行株、電鉄株、鉄鋼株、色々・・・。他の株はうちの株ほどの保有率じゃなく数%って感じかな・・・。俺はいきなり会社の個人筆頭株主になってしまったもんだから、会社では大騒ぎになっているらしい。個人どころか銀行などの法人を差し置いて筆頭株主だもんなぁ・・・。いちパイロットが筆頭株主なんだから、そりゃ大騒ぎになるよねえ・・・。もちろん株主総会では権限ありすぎ。どうなることやら・・・。



そしてある経済雑誌にも取り上げられる。28歳で筆頭株主なんだから・・・。それも大手の航空会社。いち社員。ホントどこから手に入れたの?っていう感じの制服姿の俺の写真。もちろん弐條家次期当主の事とか、色々書かれたよ。プライベートなことはなかったけどね。



そしてそれから初出勤の時、支店に出勤すると、会社の幹部クラスが俺を出迎えゴマをする。気持ち悪い・・・。まだここに入社して1ヶ月なのに・・・。もちろん俺は言ってやった。




「僕は会社の経営に口出しはしませんよ。僕はいち副操縦士ですから。まだまだひよっこの・・・。特別扱いしないでください。業務に支障をきたしますから。」




もちろんほっとした表情で立ち去っていった幹部クラスたち。まあ筆頭株主であっても、別にいつもと変わらないからね。お願いしますよ、いいですか?

一途 (76)緊急入院
 私は気がつくと産婦人科で有名な麻布の愛育病院にいた。わざわざ孝博はずっと側にいてくれたらしく、私は丸1日眠ったままだったらしいの。




「孝博。私達の赤ちゃんたちは?」
「んん・・・。それよりも誰にやられた?おなかにあざができるほど・・・。」
「ねえ孝博?赤ちゃんは?」
「ま、着物着ていたし、殴られたところが子宮からずれていたからなんともなかったけれど・・・。もう少し下だったら・・・。流産していたって先生が・・・。誰にやられたんだ?被害届を出さないと!これは立派な傷害罪だ。」




私はきちんと孝博にいったの。




「九條実朝・・・。色々孝博の事で強請られてたのね・・・。孝博の秘密を知りたかったら関係を持てって・・・。きちんといやだって断ったの。そしてつい赤ちゃんの事いったら・・・いきなりね。孝博の秘密って何?何か隠しているの?」




孝博は少し顔をゆがめたの。もちろん結婚指輪の件も聞いた。




「ああ、あれね。先輩に合コン誘われて、そこで落としたんだけど?」




本当かどうか定かじゃないけど・・・。すると孝博は私にあるものを渡すの。それは結婚指輪。実朝にパリで取り上げられた・・・。




「九條実朝から受け取った。なんかパリで何とか意味深な事いってたけどね・・・。何もないんだよね?あいつと・・・。」
「当たり前じゃない!ずっと断っていたの。これも実朝にフライト中に取り上げられたの。孝博の秘密って言う資料を渡すからって関係を迫られたけど、もちろんお断りしたわ。秘密って何?以前の浮気?その他に何かあるの?」




孝博は目を合わさない。もちろん何かありそうなんだけど、今はそれどころじゃない。

孝博は病院に診断書を書いてもらって警察に被害届を出していたの。

結局九條家は示談を持ち出してきた。だって実朝は大切な跡取り息子。孝博は示談を受け入れたの。もちろん実朝から秘密の書類を受け取ることを条件に・・・。そして私の治療費、慰謝料。示談成立っていうことで、警察は関与しなかった。いいようにもみ消されたって感じかしら?




私は孝博の書類の内容を聞いてみたんだけど、以前の浮気のことだよの一点張り。もちろん孝博は内容を確認してすぐにシュレッダーにかけて処分してたわよ。




まあ何とか私は検査入院の後、退院。きちんと会社に妊娠報告と、7月末付け退職を伝えたの。まあ色々嫌味言われたけど?孝博の会社に移るの?とか、引き抜き?とか色々ね。でもいいの。そう思われても仕方がないことだしね。何とか切迫流産の兆候もなく順調に育っている双子ちゃんたち。ひとまず安心ね。

一途 (75)籐華会2
 何とか籐華会はお開きへ向かっている。昨日までのフライトで疲れているはずの孝博は、一生懸命ホストとしてがんばっていた。パパもがんばっている孝博を見て微笑んでたわよ。お爺ちゃまもとても褒めていたわ。


「雅、孝博君の会社の持ち株、すべて孝博君名義に変えておいたよ。個人保有としては最高の40%。あと色々な株も、すべて孝博君名義に変えた。まあ言う生前贈与だと思ってくれたらいい。」

「お爺ちゃま・・・。」

「孝博君を次期当主として認めよう。本来なら、政治家になって欲しいのだけど、それは無理みたいだからね・・・。雅、はじめ私は孝博君を認めたくはなかったのだよ。いとこで結婚すると聞いた時は目の前が真っ暗になったよ。本当なら、どこかの政治家の息子か大きな会社の御曹司とでも結婚させようと思っていたが・・・。まあ孝博君はよくやってくれている。雅も大切にしてくれているしね。」




そういうとお爺ちゃまは微笑みながら椅子に座ったの。そして籐華会はお開き。



私は妊娠中でしょ。孝博が招待客を見送りに行っている途中、会場の隅で一休みしていたの。双子を妊娠中だから、無理は禁物ってことで・・・。まだ公にしてないし・・・。




会場は誰もいなくなって、私も会場を出ないとって立ち上がり、出口へ向かう。そしてお化粧を直すために化粧室へ。着物だから、少し窮屈。少しつわりも始まっているからか、少し吐きそうになりながらも、化粧室を出る。早くこの着物脱ぎたいなあって思いつつ、ため息。すると前からにやけた顔の九條実朝。




「やあ、雅さん。相変わらず綺麗だね。今日のお着物もすばらしい。で、いついい返事くれるの?今日、ちゃんと例の書類持ってきているんだけど・・・。いつになったら僕の女になってくれる?書類とは別にいいもの持っているよ。これはきちんと返さないとね。」




というと、私に指輪を渡す。




「私の永遠の王子様・孝博へ・・・。」




と実朝が英語でさらっと言う。よく見ると孝博の結婚指輪。どうして実朝が持っているわけ?




「あのねそれ、旦那が単身赴任中にさ、ある女の子が持っていたらしいんだけど、渡そうと思ったら会社辞めたっていうから、巡り巡って僕のところへ来たってわけさ。また浮気してたんじゃないの?単身赴任中に。」


そういうと実朝は私を抱きしめて耳元で言う。




「僕の女になれば、今よりもずっと幸せにしてあげるよ。ホント君の旦那はよくあんなことやってくれたよね。僕は例の株で大損してしまったよ。ま、あれくらい僕の小遣い程度だから別に構わないけど。」




私は実朝を引き離し言うの。




「私は孝博と別れない。私はあんたとなんか一緒にならないし、不倫だってしない!」
「どうして?あいつは雅さんをだましているんだよ。いい夫の面して裏ではひどい事しているのに?」
「裏で?でもいいの。私は孝博を手放さないから。ホント残念でした。実朝君。私は孝博に愛されているの。私には美咲だっているし、おなかにはかわいい赤ちゃんがいるんだから。」
「そのようには見えないけど?ほんと?うそだろ?」
「うそじゃないわよ。ほら。」




私はバックから母子手帳を1冊出す。すると実朝は顔色を変えるの。そしていきなり!




 私はおなかに痛みを感じ、意識が遠のく。たぶん実朝が・・・。私のおなかを・・・。私は壁にもたれながら座り込んだ。遠くで私を呼ぶ声。この声は孝博?


「雅!どうした!雅!誰か!救急車を頼む!!家内は妊娠中なんだ!!!」
「孝博・・・おなか・・・。」


私は意識を失った。私の赤ちゃんたち・・・どうなるの?


一途 (74)籐華会1
 6月のある日、東京の某ホテルにて籐華会が行われる。籐華会とは元五摂家が集まって年に一度行う親睦会。今年は五年ぶりに弐條家が幹事である。もちろん俺は弐條家次期当主として、取り仕切らなければならないんだけど、週のほとんど仕事で日本にいない俺はほとんど義弟の彬にまかせっきりだった。




「ごめんな彬。秘書官で忙しいのに・・・。」
「いいよ。でも今回だけだからね。5年後はきちんと孝博にしてもらう。もう俺は弐條の人間じゃないしね。さ、早く着替えて。」




俺は言われたとおりブラックスーツに着替えて、髪の毛を整える。雅は妊娠中だけど、きちっと訪問着を着て、準備万端みたいだ。美咲はまだ子供なので、代官山の高橋家に預けてきた。




「孝博、大丈夫だって。パパも側にいるし、孝博は世渡り上手でしょ。何とか乗り切れるわよ。」
「そうかなあ・・・。緊張するよ・・・。」




俺は彬に誘導されて、会場へ向かう。続々と集まる籐華会のメンバー。やはり歳いった人が多い。俺なんかまだまだひよっこって感じ。28だもんなあ・・・。俺は叔父さん(もう義父だけど^^;)の側について、さまざまな人と挨拶を交わす。そして名刺交換も忘れない。




「ああ、航空会社にお勤めですか?パイロットで?ほほう・・・。あの会社はよく使っていますよ。プレミアムシートの乗り心地がいい。」
「あ、そういえば、あなた担当の飛行機何度か乗りましたよ。とても着陸が上手だと聞きました。北田機長とあなたの組み合わせが大変人気があると聞きました。私も欧州に出張の際はできるだけ選んでいますよ。あなた方のクルーを。」




結構オレって有名人?でもこういう人って社交辞令満載って聞いたから、どこまで信用できるんだろう。




籐華会が始まり、会食開始。緊張で食事がのどを通らないんだけど、ビール片手にあっち行ったりこっち行ったり。顔と名前を売りにいく。そしてある男の前にたどり着く。名前は九条実朝というらしい。雅と学習院時代の同級生。まあ俺も幼稚園は学習院だった。でもあそこは2年保育で、俺が入った時にはもう雅もこの男も幼等科にいたんだよね・・・だから知らない。




「へえ、あなたも幼稚園は学習院?」
「はい、小中学校は慶応に行っていましたが・・・。」




そんな何気ない言葉から、始まったんだけど、この男何かしら雅の事ばかり話してくる。そして最後には・・・。



「あ、これ雅さんの忘れ物です。」




といってこの俺にあるものを渡す。それは雅が無くしたって言っていた結婚指輪。どうしてこいつが持っているんだろう。俺は一瞬嫌な想像が過ぎった。




「どうしてこれを?」
「雅さんが忘れていかれたんですよ。フランスで・・・。旦那様にお返ししておこうと思いましてね。」
「雅いえ、うちの家内と何か?」




するとこの男はにやっと笑って立ち去ろうとした。




「いつこれを家内は忘れたんですか?」
「5月はじめくらいかなあ・・・。あなた単身赴任していたでしょ?その頃ですよ。大変寂しそうな顔をしていたねえ・・・。」




何でこいつは俺が単身赴任していたことを知っているんだ?

もちろん俺は雅が浮気?っと思ったさ。でも雅に限ってと思った。もし、浮気だとすると、雅に宿っている子供は誰の子なんだ?俺じゃなく、あいつか?そんなことないよな。雅に限って・・・。俺と違って雅は俺に一途で・・・。浮気するような女じゃない。それはわかる。




ホントそれ以降、そのことばかり頭に浮かんでは消え浮かんでは消えるものだから、籐華会は上の空だった。


一途 (73)遺伝?
 俺と雅は美咲が生まれた表参道の産婦人科へ行った。そして雅の検診中待合室で待つ。




「弐條様の旦那様。診察室へどうぞ。」


と呼ばれるんだ。俺は立ち上がって、診察室へ入る。なんだこの空気は・・・。なんともいえない空気が流れている。俺は先生に促されていすに腰掛ける。


「おめでたですよ。順調です。あのですねえ・・・。実は・・・。」
「実は?」
「双子ちゃんですよ。見た感じ二卵生です。」




まあ雅はもともと双子で、遺伝かどうかわからないけど、双子と聞いて俺はびっくりしてしまった。この後仕事のこととか、生活面についてのアドバイスを受ける。もちろん双子はリスクが高い。診察後、雅は早速実家に連絡。もちろんあちらも驚いていた。




「仕事かあ・・・。ドクターストップかかるまでがんばってみていい?」
「うん別にかまわないけど・・・。無理はするなよ。で、次は辞めるの?双子だから産後の育児大変だろ?またやりたくなったら登録制で国内線をすればいいし。」
「考えてみるね。でもやっとできたんだもん。孝博もこれでパパやママからいろいろ言われることなくなるね。」




そういう問題じゃないだろ?
もちろん自宅に帰ると雅のお母さんが来ていたんだ。もちろん美咲をつれてきたというのもあるけど、いろいろ心配して・・・。




「雅、今すぐとは言わないけど、早く仕事やめなさい。」
「わかってる。でも急にやめることできないわよ。これから繁昌期に入るし、今ちょうど新人が入ってきたところだから、やめることができないのよ。一応今度出社した時に上には伝えておくけどね・・・。」
「もうのんきね・・・。雅と彬がおなかにいるとき、大変だったのよ。切迫早産になってその上一月以上早く生まれたんだから・・・。知らないわよ、流産したって・・・。」




ホント雅って・・・。はあ、せっかく宿った命・・・。どうするつもり?

一途 (72)体調悪いの?
 ほろ酔い気分で食事会を済ませ、フライトの疲れと酔いでそのままダブルベッドに潜り込んだ。もちろんすぐに眠ってしまって、気がついたのは雅からの携帯。時間を見ると待ち合わせ時間・・・。




「雅、ごめん、今起きたとこなんだ・・・。」
「じゃあそっち行っていい?何号室?」




部屋番号を教え、二度寝してしまったみたいだ。呼び鈴でおきる。俺はドアを開けると雅・・・。




「遅い。まだそんな格好しているの?」
「ホントごめん。二日酔いかなあ・・・。」




雅は俺がシャワーを浴びている間に俺のスーツケースから、着替えを出してくれた。やはりそういうところは気が利いている。俺は着替えて雅と話す。




「どこに行きたい?久しぶりのパリだろ?」
「そうね・・・ゆっくり美術鑑賞でもどう?」
「珍しい・・・。雅がそういうのに行くって・・・。」




ホテルを出て、美術館めぐりをし、食事をする。いつもならたくさん食べる雅が食べない。サラダとか中心・・・。ダイエットでもしているのか?

「ねえ孝博。日本についたら、一緒に病院へ付き合ってくれる?」
「どうかしたのか?病院なんて。体調悪い?ついてきて欲しいっていうんなら行くけど・・・。今日だってあまり食べてないじゃん。」




すると雅はおなかにてを当てて微笑む。




「実はね。ここに子供がいるの。この前いったらまだ小さすぎて、兆候のみだったけど、フライト終わったら行こうと思っているの。美咲に弟か妹ができるんだよ。」




そっか・・・。そういうことか・・・。
超うれしいはずなんだけど、でもなんだか喜べないところが・・・。
やはり遥のことかなあ・・・。
俺は幸せになってもかまわないの?俺たちだけ・・・。


もちろん帰国後、午後の診察時間にいつもの病院へ行ったんだよね・・・。するとすごいこと発覚してしまうんだ。


一途 (71)歓迎会!
 いよいよ歓迎会の開始。ちゃっかり俺の横には丹波由佳。にこっといつもの笑みで俺のことを見つめている。誰かが乾杯の音頭を取ると、歓迎会が始まる。もちろん前の会社のこととか、何で移籍してきたかとか、そしてプライベートまで。




「弐條さんの奥様って、もといた会社のCAですよね。それもファーストクラス・・・。一緒に移籍してこなかったんですか?」
「んん?まあ妻は行かないといったんだよ。もちろん声はかかってたけどね。」
「綺麗ですもんね・・・奥様。こっちの会社でも結構有名だったんですよ。優秀だし、綺麗だし、ホント大和撫子って感じで・・・すごく憧れてました。やはり会社で知り合ったんですか?」




ここで従姉弟というべきか・・・。すると由佳がいった。




「実は、彼と彼女は従姉弟なの。従姉弟で結婚なんて馬鹿馬鹿しい・・・。」




CAたちはえ~~~~~~~って驚く。




「孝博君さあ、弐條家になんで養子に入ったわけ?財産目当て?それともあの女が無理やり養子にさせたの?」
「そんなんじゃないよ。何も知らないくせにいうなよ。」
「何も知らない?笑わせないでよ。私孝博君追いかけて、防大にも入ったし、CAにもなった。」
「このストーカー女。一歩間違えたら犯罪だったぞ。」
「うるさいわねえ。高校時代中途半端に私のことを振るからよ。」
「きちんと言っただろうが。ひと月付き合ったって言ってもあれは偽装だったんだよね。」
「偽装???じゃあ好きでもないのに付き合っていたってこと?ひどい!」




俺と由佳のやり取りにクルーは引いている。

偽装であっても由佳は俺の元カノで・・・。と言っても十三年も前の話だぞ!!!

手を握ったくらいでキスさえしてなかったんだから。


一途 (70)歓迎会?
 フライト中、ああそろそろおなか空いたなあと思うころ、ミールサービス。以前の会社の機内食はおいしいと評判だったが、ここはどうだろう。食事を運んできたのは丹波由佳。先に北田さんが食べる。俺はコーヒーのみをもらって計器類を監視。いくら自動操縦と言っても、いつ何時気象の変化で修正をしないといけない時があるからだ。まあ計器類、レーダー類も異常なし。気をつけないといけないのはアルプスあたりかなあ・・・。あそこはいつも気流が悪い。よくエアポケットに入る。一番緊張するんだよねそこが・・・。そしてそこで客室はミールサービス中だから、できるだけ揺れないように気を使う。




 北田さんの食事が済むと今度は俺。北田さんが食べたものを下げた後、丹波由佳が俺にミールを渡す。




「孝博君ゆっくり食べてね。今日のミールはおいしそうよ。コーヒーのおかわりがあればいってね。」
「んん・・・ありがとう。もういいよ。何かあったら呼ぶから。」
「あ、そうそう、機長に孝博君。クルーのみんなが歓迎会をしようってことになったんですけど、いいですか?ついてすぐで悪いんですが・・・。それとも次の日にします?」


歓迎会か・・・。


「丹波さんといったね、お任せするよ。弐條君、君はどうする?奥さんのところへ行くのかい?せっかく歓迎会をしてくれるって言うんだから、どうかな?」
「別に妻とは予定組んでいないので、いいと思います。ついたら妻に言っておきますよ・・・。」


由佳は少しむすっとした様子で、コクピットを出て行く。


「結構綺麗でいい子じゃないか。」
「そうでもないですよ。しつこいし、一時ストーカーぽいこともされましたよ。」


北田さんは苦笑。もちろん俺も。




 なんとか無事に空港へ着く。ちょっと天気が悪かったけれど、着陸は上手くいった。北田さんはさすがだねえって。ベルトを外し、計器類の最後の点検。チェックシートにチェックをしたあと、後片付け。フライトケースに資料類をなおし、ジャケットを着て制帽を被る。そして機体を出る。久しぶりのドゴール空港。雅はもうついているんだろうな・・・。そろそろ空港を出るころかなあ・・・。



あと俺は荷物を受け取って、運行乗務員室で簡単な反省会。その後に空港を出て、宿泊先へ・・・。一人に一室、ダブルルームを与えられた。いい待遇じゃないか。一人でゆっくり休めるよ。それとも雅を呼ぶ?もちろんついてすぐに雅に電話。明日デートの約束を取り付ける。気がつけば、集合時間が迫っている。急いでシャワーを浴び、着替える。そして集合場所のロビーへ。もうみんな揃っていたよ。




「弐條君遅いじゃないか・・・。」
「すみません。妻に電話をしていたんです・・・。」
「で、今日は?」
「明日会う予定を組みました。」
「そう、良かったねぇ・・・。ゆっくりしたらいいよ。羨ましい。ホントに。」




相変わらずむすっとした表情の由佳。雅の話をするからだろうねきっと・・・・。

一途 (69)嫌なやつ出現
 さあ、移籍後初めてのフライト。支店のロッカールームで北田さんと偶然出会い、一緒に着替える。まあ隣のロッカーなんだけどね・・・。


「さあ、がんばりましょうかねぇ。弐條君。」
「はい。ホント複雑で・・・。実は妻も一時間違いの便でパリなんです。」
「ほう・・・。よかったじゃないですか。では奥さんと同じホテルへ行く?多分同じ部屋だと思いますよ、私たち・・・。」
「ホントスケジュールほぼ一緒なんです。」


着替え終わると、フライトバックとスーツケースを持って運行乗務員室へ。事務員からフライトデータを受け取り、掲示板で変更点などがないか確認する。その後ブリーティングルームへ。すでに客室乗務員が集まっていて、俺達が入ってくると、静まりかえる。


「本日より、こちらにお世話になります、機長の北田と副操縦士の弐條です。さてはじめましょう・・・。本日のフライトスケジュールを・・・。」


客室乗務員たちは北田さんが説明するフライトデータをメモし、そして最後に俺が追加点を話す。チーフ客室乗務員が乗客数などを報告。本日は満席。俺は移籍後はじめての打ち合わせに緊張して、気がつかなかったことが一点・・・。それは・・・。




 打ち合わせが終了し、北田さんと共に荷物を預けに行く。カウンターで荷物を預けていると、俺の背中を叩くやつ。もしかして雅かな?って思ったんだけど、ここは競合会社のカウンターだ。振り返るとそこには・・・。

「久しぶり、孝博君。」


にんまりした丹波由佳。お前は関空支店じゃなかったのか?


「この春から成田に来たんだ。孝博君が移籍してくるって噂で聞いたけど、本当だったんだ。同じフライトだね。よろしくね。」


そういうと由佳はCA仲間のもとに戻っていったんだ。そして楽しそうに話している。


「お知り合いですか?」


って北田さん。


「高校、防大と同級生で・・・。」
「へえ・・・珍しいね、防大からCAですか・・・。防衛訓練済みだから、何かあったときには安心ですね。」


ああ嫌な予感。

 税関では乗務員リストにサインして中へ入る。フライトバックをコクピットに置くと運行前安全点検。でかいB747-400を北田さんと手分けして点検。さすがだ、きちんと整備してある。以前の会社はリストラや何やらで手抜きがあったりしたんだよね。


「さすがだ・・・。」
「そうですね。」


と二人で確認を終了し、コクピットの中へ。滑走路手前には以前勤めていた会社のB747。


「あ、あの747、弐條君の奥さんが乗っているものでは?」


と北田さんが指を指す。まさしくそうだ。時間的に・・・・。俺は心の中で雅にいってらっしゃいという。俺はジャケットを脱ぎ、ハンガーにかけ、フライトバックから今回のフライトの資料を取り出し、操縦席に座る。そしてヘッドセットの無線をつける。点検の後、出発準備を・・・。


「さあ弐條君、いつもどおりにがんばりましょう。今回のフライトの着陸は君に任せるよ。君のほうが上手いからね。」
「そんなことないですよ。北田さんの操縦はパーフェクトですから。どんな気象条件でも離着陸できる腕をお持ちです。俺にはまだまだ・・・。」
「弐條君の腕ならあと5年ほどしたら機長になれるかもしれないね。」


満席のパリ行き。ここの会社は面白いサービスがある。それは事前にパイロットが誰か知ることが出来るサービス。まあいうお客様の知る権利かなあ・・・。(以前の会社もあったにはあったけどちょっと違う)HPのみだけど、日にちと便名をクリックするとなんと機長と副操縦士の苗字が出る。ということはそれを見てどの便に乗るか決めてしまうお客様がいるということか?最強タッグといわれる北田さんと俺。北田さんの適切な判断力と俺の離着陸の腕・・・。お客様はきっと安心して乗っていることができるんだろうね。だから閑散期なのにこの満席。そしてこれは評価につながる。


「さ、出発しよう!」


と、北田さん。管制塔に連絡を入れ、出発の許可を得る。滑走路へ静かに向かい、滑走路正面へ・・・。離陸許可が出ると、北田さんが操縦かんを握り、離陸・・・。ホントスムーズな離陸。さあ新たなパイロット生活の始まりだ。新天地でがんばるぞ!

一途  (68)入社式
 引き抜き組みの入社式当日。色々な人材を引き抜いてきたようだ。運行乗務員6名をはじめ、客室乗務員3名、整備士5名など・・・。総合職まで・・・。すべてもといた会社のメンバーだ。本来ならこの場に客室乗務員として、雅が入っていたんだろうけど、雅は辞退した。もうちょっとがんばってみるって・・・。



入社式前に、制服、IDなど一式が配られる。もちろん新品のフライトバックまで。すべてが新品。乗務員たちはそれぞれ着替えて、入社式に挑む。社長から直接配属先が書かれた辞令を渡され、その後、個々に別れて、スケジュールなどの資料が渡された。やはり俺と北田さんは一緒のクルーだ。当分は一緒に組んでのフライト。ああよかった籐華会の日は休暇だった。




「ああ、気が引き締まるねぇ、弐條君・・・。数ヶ月前までここの制服を着るとは思わなかったよ・・・。」
「そうですね。」




成田支店組の運行乗務員6名と客室乗務員3名で会社が用意したバスに乗って成田支店へ向かう。そこではもちろんロッカーが用意され、さらに何点かの制服がきちっと用意されていた。その後、社内を案内され、さらに詳しい説明会。そして最後に運行乗務員部へ挨拶に行く。部にいる運行乗務員や事務職の人たちは温かく受け入れてくれる。




「なんとかうまく行きそうですね、弐條君・・・。」
「はい・・・。」




俺たちのフライトは早速明後日のパリ、ド・ゴール行き。久しぶりの国際線。B747-400。何か忘れているような気がしたんだけど・・・・。何か忘れてたな。嫌なものを・・・。

一途 (67)気づかなかったこと
 いつもの表参道のエステへ行く。ここは最低月イチで来ている。すごく疲れたときは週一のときも。ここのところ忙しくてなかなかこれなかった。久しぶりのエステ・・・。全身コース。やっぱりいいよね・・・。パリに行きつけがあるけど、学生時代から通っているここは最高で・・・。




「弐條さま?ちょっと太られました?」
「え?体重は変わらないけど?」
「ちょっと腰周りが・・・。」




ん?そういえば最近制服のスカートきついと思ったんだけど、体重が変わらないから気のせいだと思ってたんだ・・・。




「今回はあまり触らないようにしておきますね・・・。」




って、いつものエステシャン・・・。どういうことかしら?って考えながらフェイスエステをしていた。そしてこっそりいわれたの。




「弐條様、もしかして妊娠されていませんか?」




え?そういえばそろそろ来てもおかしくないんだけど・・・生理・・・。でも数日くらい遅れることはしょっちゅうだし、全然体調に変化がなかったから、まさかねえと思ったのよ。まあここは表参道だし、これ終わったら和気叔父様のお姉さまの病院へ行ってみようかなって思ったわけ。ここは美咲を産んだところだし、ママも弟の雅司を産んだところ。まあいう主治医さん。内科も見てくれるから、何かあればよく行くのよね。




 もちろんエステの後、近くの病院に行ってみる。ここはすごく混む病院だけど、一応親戚だから、特別に診察をしてもらえたの。




「うん、そうね。まだちょっと早いけど、兆候はあるわね。来週暇な時でいいから来てもらえる?まあ、美咲ちゃんは今年で3歳だから、ちょうどいいんじゃないかしら?もちろん産むんでしょ。」
「ええ、まあ・・・。」




まあ喜ばしいことではあるわね。パパもママも二人目そろそろどう?って聞いてくるしね・・・。私、三十路だもの・・・。ちょうどいいかな・・・。CA8年目・・・。もうそろそろ引退かな・・・。やりたくなったらパートで登録しておくっていう手もあるしね。まあはっきり確定するまで孝博には内緒にしておこう。


一途 (66)退職
 私の旦那様孝博は5月末付けで、退職が決まったの。私の勤めている航空会社を引き抜きで退職。なんと精鋭主力メンバー6人が一斉に引き抜き退職したために、うちの会社の株価は暴落。史上最低の株価を推移している。というより毎日取引停止状態。これくらいで株って動くんだろうかなんて・・・。私の大嫌いな九條実朝。うちの会社の個人筆頭株主。これはもう大損だね。罰が当たったのよ罰が・・・。損益十数億円単位じゃない???それでは無理かもね。

 孝博の最後のフライトの日、私は休みを取って引越し準備を整える。簡単な引越しだから、送れるものは宅急便で送って、後は孝博の愛車で東京まで一緒に帰ることにしたの。孝博は最後のフライトで制服、ID、名札、その他諸々を返却し、挨拶を済ませて大阪の自宅へ戻ってきた。そしてその足で、大阪市内のホテルで宿泊。朝一で東京に帰ることにしたのね。帰ったらすぐに形だけの入社式があるからもうバタバタ。

「最後の最後まで引き止められたよ・・・。伊丹支店の人はいい人ばかりだから、名残惜しかったけどね・・・・。」

美咲は実家に預けてきたからゆっくり二人きりの夜。夜景を眺めながら寄り添って思い出話をしていたの。退職した会社は思い出いっぱいなんだもんね。明日からは孝博と私は別々の会社。それも競合同士の会社でしょ。苦笑しながら、同じベッドで眠ったの。孝博の温かい胸に抱かれながらね・・・。

 孝博と交代で運転しながら東京広尾のマンションまで帰ってきた。まだ荷物は届いていなかったけれど、孝博は早速明日の入社式の準備に取り掛かってた。一緒に入社するメンバーと色々電話で話しながら、楽しそうにしている姿・・・。移ってよかったんだよねって思うことにした。念願の成田勤務だもんね。別に大阪勤務が嫌いではないんだけど、やはり国際線に戻りたかったからという理由で競合会社に移ってきた。

いまだ私の会社は混乱している。もちろん私は呼び出されて、色々嫌味言われたり、引き止められたりしているんだけど、孝博が決めたことだから、何にもいえないよね。

「雅、疲れたろ。まだ時間あるから、いつものエステでも行って来いよ。リフレッシュして来たらいいよ。俺も一眠りするからね。」
「うん。行ってくる。」

私は予約の電話を入れ、着替えて家を出る。孝博はきっとどっと疲れが出てきたんだろうね、すぐ眠ってしまった。いままでご苦労様、孝博・・・。これからもがんばってね。

一途  (65)大暴落!
 休暇を終え、大阪へ戻ってきた。今日は日曜日。天気は良好。なんて晴れやかな五月晴れ。いつものように今日は1502便からのフライト。クリーニングから返ってきた制服に袖を通し、運行乗務員部へ出勤。するとこの前の飲み会メンバーが詰め寄ってくる。

「弐條!聞いたぞ!退職するんだってなあ!」
「はい、今月末で退職になります。」

もちろん色々次の会社名、配属先まで聞かれる。もちろん俺の休暇中は社内大騒ぎだったらしい・・・。だってさ主力メンバーすべて引き抜かれたんだもの。1502便の機長高島さんにも色々聞かれる。

「はぁ、いいですねえ・・・。引抜きですか。私も移れるものなら移りたいですねぇ・・・。まああと残り半月がんばってくださいよ。」
「はい。」

まあ俺は真面目だから、あとの乗務は精一杯するよ。もちろんね。

その週の火曜日になんとこのクーデターというか、主力メンバー退職、移籍の記事がどーんと雑誌に載る。きっと誰かがリークしたのか?なんとどこから流出したのか年末の政府専用機の乗務の際に撮られた俺たち6人の顔写真と、経歴、などが載っている。きっと社内の者がリークしたんだなって言うくらい詳しくだ。まあ俺の私生活まで暴露されていなかったけどね・・・。

『弐條孝博 28歳 東京都渋谷区出身 兵庫県立高卒、防衛大学校中退、航空大学校卒、20××年入社。現在B747-400、B777ライセンスを持つ副操縦士。数年前米国訓練センターにて胴体着陸を当時訓練生ながら成功させた。若手ながら着陸には定評がある。義父は現首相、弐條雅和氏。実父は元陸上自衛隊幕僚監部幕僚長、現兵庫県副知事(防災担当)の源博雅氏。現在国内線運行乗務員部勤務 主に大阪-羽田間のB777を担当・・・・』


詳しすぎるぞ!!!個人情報保護法に引っかからないか?

まあ関係ないと思っていたんだけど、この情報が流れた途端、会社の株価は大暴落。そして次移る会社は急騰。こんな情報でも株価が左右されるのか?まあ最近パイロット名が一種のブランドになっているからねぇ・・・。俺が国際線にいた頃、北田機長に弐條副操縦士という組み合わせは一番人気だったらしい・・・。ホントびっくり仰天!きっと株を大量に持っている人は大損しただろうねえ・・・。億単位・・・。すごい。あ、弐條家が保有する株!高騰しているから今売ったらすごい儲けだよね?はははは・・・。

一途 (64)一斉退職
 研修中の雅とお台場で待ち合わせして、適当なペアリングをチョイス。まあ以前のものに比べたらいいものじゃないけど、二人で同じデザインのものを選んだ。そして雅と別れ、俺は北田さんと待ち合わせの六本木ヒルズの焼肉屋。ここは個室がある。なんと引き抜かれ組勢ぞろい。北田さんがみなに辞表を書こうと誘ったみたいだ。

注文前、みんなで一斉に辞表を書き出す。きっと店員の人は変な輩だと思っただろうね。話し合って内容を確認。話を聞くと結局みんな6月1日付採用となったみたいだ。

「やめるなら一斉にやめようってことになってね、みんなで担当者に願い出たんだよ。もちろん快く受け入れてくれたんだよね。弐條は返事出したか?」
「いえ・・・。北田さんの意見を聞いてからと思いまして・・・。」
「じゃあ今すぐ担当者に電話入れておけよ。結構心配してたからね。辞めますって言われたらどうしようって・・・。」

早速夕方だけど、担当者の携帯に電話を入れておいた。あっちはもう大喜び。取締役に報告しておくとのこと・・・。次はいつ出しに行く?って話を、焼肉をつつきながら話したんだ。

「やはりさ、もう半月後のことなんだし、明日にでも出しに行こう。弐條もいるから、本社へ行こう。みんなで。」

もちろんそれに決まり・・・。きっと本社は大騒ぎだろう。まるでクーデターのようだ。明日10時に本社前集合となった。


 本社は品川区東品川にある。みんなピシッとしたスーツに身を包んで時間通りに集合。受付に行き、担当部署にアポをとる。すると受付嬢にある会議室に行くように言われ、みんなで向かう。一番の年長、北田さんがリーダーシップを取ってくれるという。すると現れる本社運行乗務員関係の部長。何事かという顔つき・・・。主力メンバーが揃っての本社訪問なんだから・・・・。

「君達、どうしたのですか?」
「私、北田をはじめ、光岡、武本、結城、松井、弐條、計6名の辞表を提出に参りました。」
「じ、辞表???ちょっと待て。君たち主力メンバーに辞められては困る。ちょっと待ってくれ。取締役、人事部長たちを呼んでくるから・・・。」

結構焦っているのを見て俺たちは笑いをこらえる。
少したつと、代表取締役社長をはじめ、本社にいるだけの取締役がずらっと並ぶ。そして社長が言う。

「何があった?こんなに優秀な面々が揃って退職希望とは・・・。」

俺たちは順番に社長に辞表を提出する。

「急で申し訳ありませんが、今月末を持って我々は退職いたします。長い間お世話になりました。」
「ちょっと待て、君たちに辞められては困る!君たちには固定客というものが相当いるんだ。この後どうするつもりだ。」
「もう次の採用が決定しております。みな希望通りの条件で・・・。6月1日付の入社が決定しました。」
「何が不満だ?」
「今まで我々はこの会社に貢献してまいりました。しかしそれだけに見合ったものをいただいておりません。特に弐條の場合はひどい。国際線から国内線へ急な異動、そしてこの後は不明と言うこと・・・。ある筋からの情報では、このままずっと大阪勤務とか・・・。まだまだ色々不満はございますが、退職をさせていただきます。」

もちろんこの後条件面での改善とか色々話あったんだけど、折り合いがつかないし、俺たちの意志が強かったから、なんとかみなの退職が決定。最後に社長の質問。


「みんなはこの後どこに行くんだね・・・。」

みんな揃っていう。
日本でもうひとつの大手航空会社ですよってね・・・。
ああ引き抜かれた!!!!って嘆く社長に、常務や専務取締役は運行乗務員部、オペレーション部、や人事部部長を怒鳴りつける。取締役はみな頭をかかえていたんだよね・・・。

もちろんみな退職金が出る。もちろん俺も少なからず出るんだよね・・・。さあ新天地でがんばりますか。
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さくらと空 
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