4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

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第87章 誘惑
 ある大物貴族の別荘にある人物が呼ばれた。もちろんその部屋は人払いをされ密かな話がされている。


「検非違使少尉の平正守といったね・・・例の件、手はず通り頼みましたよ・・・。」
「はい・・・。」
「うまくいけばあなたの一族を国司としてうちの殿が何とかしようというのですから・・・。いい話ではありませんか・・・。ただひとりの姫君をあなたのものにしていただければいいのですから・・・。簡単なこと・・・。」
「しかし・・・本当にうまくいくのでしょうか・・・。」
「いくともお前のその顔と声があれば・・・。」


 年が明け、すっかり春めいた頃、一人の名も無き検非違使少尉は大物貴族の命により吉野へ旅立った。


 吉野にも遅い春の訪れが感じられる頃、鈴華は山荘を抜け出すと、あるところに向かう。


「鈴華様、どちらに?そのような格好では里の者にお顔が・・・。」


鈴華は乳母の言うことを聞かずにある寺の墓地に向かっていた。一度この墓地に来ようと思っていたのだが、宇治で怪我をしてしまい行けなかったのである。


「こちらは・・・もしや・・・藤原北家縁の・・・。」
「そう・・・私の初恋の君、藤原政弘様が眠っておられる墓があるのです・・・。」


本来であれば、東三条摂関家の者は都近くに葬られるのですが、たて続けに東三条家の者達が亡くなっていった事から、あれから東三条家ものはこちらの葬られるようになった。


「あった・・・ここ・・・。」


鈴華は初恋の君の墓を見つけるとしゃがみこんで手を合わせた。その姿を例の男が見つめた。


(あの方の言うとおり、こちらに張っていれば姫君が現れると・・・その通りであった・・・。)


その男は木の陰に隠れて様子を伺う。この日のために、大物貴族はこの男が一生かかっても着る事が出来ないような狩衣や直衣などを用意し、この男に与えた。この男は品の良い狩衣を着込んで、計画通りに事が運ぶように願う。鈴華は立ち上がって、男のいるほうに向かい歩き出すと、男は木陰から出てわざと姫の肩にぶつかり、その拍子に鈴華はしりもちをつき、座り込んでしまった。するとその男は鈴華に手を伸ばし微笑む。


「申し訳ありません・・・どこかお怪我はありませんか?」


鈴華はその男の顔と声に驚く。


「政弘様?」


まさしくその男の顔と声は、鈴華の初恋の君亡き右近少将藤原政弘であった。鈴華は言葉を失い、その男を見つめた。


「本当にお怪我はありませんか?」


その男は鈴華の手を引き立たせると、衣についた土を丁寧に払う。


「あなたは?」


鈴華はその男に問うと、男は微笑んで言う。


「名も無きただの男です。3年前ある病で記憶をなくし、こちらのあるお方の山荘にお世話になっているものです。あるお方は私のことをいい家柄の一人残された末息子であるといいますが、まったく記憶が無いのです・・・。私が一体誰なのか、どうして私がここにいるのかさえ・・・。ついなんとなくこちらの寺に来てしまうのです・・・。」


もちろんこの男の言葉は台本どおりの嘘である。しかし鈴華はこの男がもしかして亡くなったと思っていた初恋の君ではないかと思ってしまう。この男の香の匂いもまさしく初恋の君が使っていた香の匂いであったのだ。


「あなたはもしかして・・・藤原政弘様?そうだわ・・・。この香のにおいも、姿かたちも・・・。」


鈴華は思わずその男に抱きついてしまう。男はうまくいったと心の中で喜んだ。


「もっとあなたの話が聞きたいわ!今から私の山荘に来てくれないかしら・・・。」
「姫様!どこの者かも知れないものを山荘に入れるなんて、お父上様に知れたら・・・。」


鈴華は乳母の制止を振り切り、男を山荘の客間に通す。そしていろいろ鈴華はその男に話をする。その男は微笑みながら鈴華の質問に答える。うれしそうな顔をする鈴華に乳母は何も言えずにそのままにした。日が傾くと、その男は鈴華に一言言って山荘を後にした。鈴華はあの男は初恋の君に間違いないと思い込んだ。


「鈴華様・・・あのような男ということを信じるのですか?あの時確かに政弘様はお亡くなりに・・・。きちんと葬儀もされたのですよ・・・。」
「私は、政弘様は生きていると思うのです。いえ、思いたい!私は亡骸にも対面していない上、葬儀にも出ていないし・・・。信じたいの・・・政弘様が生きていることを・・・。」
「しかし鈴華様・・・他人の空似と言うのもありますし・・・。もし政弘様であったとしても鈴華様は帝の妃であられます。いいですか?帝を裏切ることになるのですよ・・・。」


鈴華は頑として乳母の話を聞き入れず自分の部屋に籠もった。一方あの男は依頼した大物貴族縁の山荘にいた。そして例の大物貴族の側近に今日の出来事の報告をした。もちろんこの出来事はすぐに早馬にて都に伝えられた。その報告を聞いた大物貴族は大変喜んで、次の報告を待つ。


 次の日も鈴華は山荘を抜け出して、この男に会う。一緒に吉野を散策したり、桜の良く見えるところで花見をしたりして過ごした。鈴華はこの男を「政弘様」と呼び、楽しそうに一日の大半を一緒に過ごす。もちろんこの男は仕事と知りながらもだんだん美しい鈴華の姿に心を奪われていった。


(この姫君はどこの姫君なのだろう・・・。到底私がモノにできるような身分の姫ではないだろう・・・。私のような身分ではこうして顔を合わすことさえ許されない姫君なのだろうな・・・。)


と男は思い、自分の身分の低さを悔やんだ。この日は鈴華を人里離れた野原に連れて行った。ちょうど可愛らしい草花が咲き鈴華は喜んだ。そして鈴華はたくさんの花の中に座り込んで言う。


「政弘様、こちらに来て。とっても綺麗・・・このようなのは初めて・・・。」


男は鈴華の横に座ると、鈴華は微笑んで、摘んだ草花で花束を作り男に見せた。


「政弘様、覚えていますか?よく幼い頃宇治の曾お爺様の別荘のお庭でよく花を摘んで遊んだのを・・・。」
「ああ、そういえばそうだったね・・・。」
「え?政弘様・・・・?」


男は鈴華を押し倒し、鈴華を見つめて鈴華にくちづけをすると、男の手が鈴華の腰紐に伸びてきた。


「嫌・・・こんなところじゃ・・・。」


男は苦笑して言う。


「じゃあ、私がお世話になっている山荘に行きましょう・・・。そこならいいですか?」


黙ったままの鈴華の手をとり、男は山道を降りて山の中腹にある山荘にたどり着いた。とてもきれいに整備された山荘で、いかにも高級貴族の山荘という感じであった。男は山荘の者に気付かれない様にそっと自分が寝泊りしている部屋に鈴華を招きいれると、鍵を掛け改めて鈴華を抱きしめる。


「姫・・・。」


そういうと男は鈴華にくちづけをすると、抱き上げて寝所に運ぶ。そして鈴華を横にすると、鈴華は目を閉じ男に抱かれた。

事の一部始終を隣の部屋に控えていた高級貴族の従者が確認をし、都の主のもとに報告する。鈴華はそのようなことを知らずに、男に鈴華の山荘まで見送られて帰る。山荘の手前で男は鈴華を呼び止めて別れのくちづけをした。この男にとって鈴華との最後の別れであった。鈴華はこの男に手を振ると山荘の中に入った。


 吉野からの報告を受けた高級貴族は計画通りになったと喜んである噂を流す。その噂とは、吉野に静養のため滞在中の中宮を下級武士のものが寝取ったという噂である。もちろん帝の耳にも入り、帝は怒ってその下級武士を討伐せよと命を出した。そうとは知らずに男は都に帰る支度をする。そして夜のうちに吉野を出て、名残惜しそうに吉野山を見つめると足早に立ち去った。


ちょうど中間地点である大和で討伐の検非違使と会ってしまう。検非違使の先頭を馬で仕切っていたのは、男の側にいた高級貴族の従者であった。


「検非違使少尉平正守、帝の命により帝の妃である中宮様に近づいた罪でお前を処罰する!さあ、ひっ捕らえろ!」


検非違使のものたちは同僚である平正守を捕まえると、縄をかける。


「中原様!これはどういうことですか!」
「お前など知らぬ。ただの下級武士のお前など知らんわ!抵抗するようならこの場で始末してもかまわん!さあ早く連れて行け!!」


そのときやっと自分がだまされていたことに男は気が付き、そして自分が死罪に値する行為をしてしまったことに気が付いた。


(あの姫君は中宮様だったというのか!!!)


男はうなだれて、同僚の検非違使によって都に連れて行かれた。もちろんこのようなことになってしまったということで、鈴華の父関白は無期限出仕停止の上、邸にて謹慎の措置を取られた。そして鈴華は帝の命により無理やり都に帰郷させられ、後宮に戻された。この計画を企てた土御門左大臣は関白に対し思ったよりも甘い処分にさらに苛立ちを覚えた。本来ならば、失脚を狙っていたのだが、思ったよりも効力が無かった。土御門左大臣は発覚を恐れて、検非違使別当を兼任している左大臣の息子である中納言に、あの男を即日始末してしまうように命じ、帝にはこう伝えた。


『あの男はどこからか中宮の初恋が誰であったかを知りそしてよく似ていることをいいことにその初恋の君の名を語って中宮に近づいた。』


という取調べ報告をする。


「左大臣、そのものはどうしたのですか?」


と帝は左大臣に聞く。


「取調べ中に抵抗をいたしましたので始末いたしました・・・。」
「そうか・・・ご苦労であった・・・。このことは中宮には内密にするように・・・。」
「御意。」


帝はこのようなことに巻き込まれてしまった鈴華を不憫に思い、この件を内密に闇に葬るように命を出した。いつの間にか鈴華の噂は都中から消え、父君の関白の謹慎処分も解かれた。鈴華は吉野の相手が政弘君であったと信じ、ささやかな楽しい思い出として心に刻んだ。もちろん相手の男が密かに処分されてしまったことなど知らない。



《作者からの一言》

えらいことになりましたね^^;鈴華はいまだ初恋の君を忘れてはいなかったってことです・・・。仕組んだのは土御門左大臣。秋の争いの仕返しです^^;鈴華もかわいそうですが、騙された平正守もね・・・。所詮下級武士はこういうことに利用されるのかもしれません。でも正守は仕事とはいえ、つかの間の美しい姫との出会いを楽しめたのは確かです。
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