4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

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第116章 東宮の悪化と東宮付医師選定
東宮康仁親王(元服前)

 帝は彩子を連れて東宮御所に見舞いに行く。母である皇后が亡くなってからというもの塞ぎがちになり、東宮の叔父であり年も近い東宮侍従、源博雅のみを側に控えさせ、寝たり起きたりの生活をしている。典薬寮の医師に診せてもこれといって病を見つける事が出来ず、帝も悩みの種であった。特に最近は食欲もなく、夜も眠れず、持病の喘息の発作まで出てくる始末である。典薬寮の医師の者も、原因がわからず改善しないので、東宮御所からの呼び出しにいつも難色を示し、誰が東宮を診るかでもめるのである。


「康仁、今日の体調はどうかな・・・。」


ここ最近公務の忙しさから東宮御所に出向く事が出来なかった帝は東宮に優しい声をかけ、体調を伺う。今日は彩子が入内後はじめて東宮御所を現れ、東宮と面会をする。東宮は父である帝の声に気付くと起き上がろうとするが、喘息の発作が出ているらしく苦しそうな呼吸で起き上がる事が出来なかった。女官が発作止めの薬湯を持ってくると、帝に渡す。すると彩子が申し出る。


「帝、私が・・・。」
「んん・・・。」


彩子は薬湯の入った器を受け取ると、東宮の側により東宮を起こしていう。


「東宮様、薬湯をお召し上がりください・・・。」


やはり彩子は大和で被災者の救済支援を手伝っていたためか、病人の扱いも上手で、要領よく東宮に薬湯をひとさじひとさじ与えていった。東宮も薬湯が効いてきたようで、息遣いがよくなって来た。東宮は彩子に気付きいう。


「母上様?」


帝は皇后ではないといいそうになるのを彩子が止め、彩子は微笑み東宮にうなずく。


「母上様・・・。」


東宮は彩子に抱きつき、十一歳であるがまるで幼子に戻ったように泣くのを見て、帝は苦笑する。


「帝、いいではありませんか・・・。わたくしは構いませんので・・・。」


彩子は微笑みながら、泣いている東宮を抱きしめる。東宮は薬湯が効き安心したのか、彩子の胸の中で眠った。


「帝、当分の間、わたくしが東宮のお側につき看病をしたいのですが・・・。お許しいただけますか?昼間だけでも構いません・・・。」
「彩子・・・。わかった・・・。そのほうが東宮も喜ぶかもしれない・・・。しかし・・・。」


東宮は母である皇后綾乃が病気で亡くなってしまっていることを知っているはずである。東宮自身皇后の葬儀には出席し、きちんとお別れをしたはずなのだ。東宮は母ではないことを知っていてこのようなことをしているのではないかと帝は思った。


「博雅、典薬寮から典薬頭を呼ぶように・・・。」


帝は東宮侍従源博雅に命じ典薬頭を呼ぼうとしたが、この日に限って休みをもらっており、代わりに典薬助で侍医和気が急いでやってくる。


「ああ、和気殿か・・・。丹波殿はどうした。」
「丹波は当分の休みを・・・。休みの間は私が一任されておりますが・・・。」
「そう・・・。和気殿、東宮に腕のいい医師をつけよ。ここ最近持病の悪化が目に見えてわかる。女官に聞くと、食欲もなく、不眠に陥っているそうだ・・・。このままでは体力が持たないであろう・・・。必ず東宮が元気になるように・・・。」


侍医和気は典薬寮に戻ると、思い当たる医師を数人呼んで話をする。


「和気泰明は?」
「まもなくこちらに・・・。ちょっと使いに出していましたから・・・。」


泰明は医師の中でも一番の下っ端なので、色々雑用も任されている。しかし和気は泰明の腕を見込んで呼び出したのだ。泰明が普段どおり典薬寮に戻ってくると、呼び出しに驚く。


「泰明、助様が呼んでいるぞ!早く行け!」


同僚の医師が声をかけるとあわてる。


「はい・・・。」


泰明は急いで和気の部屋に入ると医師の中でも優れたものばかり集まっているのに驚く。


「遅れて申し訳ありません・・・。」
「さ、早く座りなさい。」


和気は揃ったことを確認して、話し出す。


「東宮様のご病気は皆知っているであろう・・・。先程帝から、東宮の病を改善するように命が下った。ここに集まった者は医師の中でもわたしがこの者と思ったもののみ・・・。」


この言葉に医師たちはざわめく。


(ではなぜ和気泰明がいるのだ?まだ見習いではないか・・・。)
(そうそう・・・まだ和気殿についているだけのもの・・・。)
(しかし、大和女御様がご帰京の際は主治医をしたぞ・・・。)


和気はゴホンとすると、皆は静まる。


「さて、この中で東宮付の医師としてやっていける者はいないか?もちろん東宮がよくなった暁には出世の道が開けるであろう。また、東宮が帝位に就いた際には侍医に取り立てられるであろう。それ以上かもしれないよ。さあ、やってみようと思うものはいないか?」


皆は東宮の診察をしたことのあるものばかりで、原因がわからなものばかり・・・。和気が指名すると、皆は断りだす。


「この中では一番の丹波秀則殿、あなたならどうかな・・・。」
「いえ!ご辞退させていただきます。もし改善が見られないときが・・・。」
「お前もか・・・。」


和気は困り果てて、最後の切り札である泰明を指名する。


「泰明、お前はこの中で一番若く、経験も浅いが、勉強熱心である。そして女御様の帰京の際の報告書を見てあなたの正確な診断に感心した。お前、やってみる気はないか・・・。わからないことがあれば、この私に聞けばいいし、調べたい事があれば、図書寮などに出入りしてもいい。東宮の極秘の日常日誌を読めるように手配もしておこう。どのような手段を使ってもいいから、東宮の病の改善を・・・。足りないものは私に申し出よ。」


ある医師が言う。


「この者はまだ医師になって1年も満たないのですよ。私たちは丹波殿の二十年をはじめ皆長年修行を積んでいる。」
「ではあなたがやってくれますか?」
「それは・・・。」
「この者の兄は十年いやそれ以上に一人といわれた才能の持ち主、和気智明。姉も和気明日香という女医博士まで上り詰めた有名な女医である。この泰明は優秀な姉兄について修行をしている。都では日は浅いが、下積みは長いのですよ。泰明もこれからが楽しみな逸材。帝もこの泰明をお認めになっている。この中でも殿上を常に許されている者はこの泰明のみ。泰明、経験のひとつとして東宮付医師をやって欲しい。」



泰明は驚きと責任の重さに何もいえなかったが、自分しかやる者がいないというので、仕方がなく引き受けることにした。和気と共に泰明は東宮御所に出向き、東宮の寝所とは別の部屋で帝と面会をする。帝は泰明を見て驚く。


「帝、東宮付の医師として、この和気泰明を・・・。」
「ほう・・・。泰明殿を・・・。他の者は?」


和気は苦笑していう。


「実は私が選んだ者で辞退を申し出た者が続出しまして・・・。もちろん泰明の腕は確かでございます。」
「んん・・・。彩子の診断報告書を見てもわかる。この私にもわかりやすく書いてあったしね・・・。頼みますよ、泰明殿・・・。」
「帝、東宮に関する秘文書を閲覧する許可を頂きたいのですが・・・。もちろん泰明にのみ。」
「わかった・・・。許可を出すが、あれは持ち出し禁止のため、その場での閲覧のみである。いいね泰明殿・・・。東宮のためであれば、どのような手段を使ってもいい。もし何かあれば遠慮なく私に言ってほしい・・・。」


泰明は頭を深々と下げて、早速東宮の診察に向かう。帝は心配そうに泰明の後姿を見つめる。


「大丈夫かな・・・。」
「帝、泰明はすべての知識を身につけております。針、灸、薬に関して即座に対応が出来ると思いますし、民間で修行したので、民間療法も知っているでしょう。都のみの修行では身につかないものを持っているはずです。ご安心を・・・。私も何かあれば責任を取ります。」
「わかった・・・和気殿と泰明殿を信じよう・・・頼んだよ。よくなってもらわないと、摂関家辺りが騒がしくなるからね・・・。」


そういうと帝は清涼殿に戻っていった。



 泰明は東宮のいる一室まで、診療用の道具一式を持って侍従に案内されてむかう。女官たちは今まで見たことのない若い医師に驚き、本当に腕がいいのかを疑いつつ、東宮の御座所の前に案内する。


「女御様、東宮様付の医師が到着いたしましたが・・・。」
「まだ東宮様は眠っておられます。静かにね・・・。」


泰明は入り口に座って彩子に対して深々と頭を下げると、中に入る。


「あ、泰明・・・。」


彩子は東宮の医師が泰明であることに驚く。


「久しぶりね・・・。帰京の折は本当に感謝しております。」
「いえ、女御様は無事姫宮様をお産みあそばされてと聞き、安堵しておりました。」


彩子は微笑むと泰明はドキッとする。母となった彩子の顔は以前に増して美しくなっていた。


「改めまして典薬寮医師和気泰明にございます。この度東宮様の担当医師を任されました。」
「さあ、東宮様の診察を・・・。」


泰明は頭を下げると東宮の寝所に入り診察をする。初めての東宮の診察に相当の時間を掛け、東宮の症状を脈診から導き出した。寝所を出ると、彩子にいう。


「大体の治療の目途が立ちそうです。持病のほうも何とか治ると思います。ただし時間がかかりますが・・・・。今から典薬寮にて調べものをしたいのですが・・・。」
「そう・・・時間がかかりそうなのね・・・。」
「はい・・・。治療ですぐに治るような病ではありません・・・。何度か同じような症状を大和にて診た事がございます。兄上のところにある診療記録を見ないと・・・。」
「そう・・・では東宮の事頼みますね・・・泰明・・・。」
「御意・・・。」


泰明は頭を下げたままその場を立ち去る。



(彩子様への想いがぶり返しそうになった・・・。忘れないと・・・。やばいやばい・・・。)


泰明は自分の頬をパンパンと叩き気合いをいれると、典薬寮に戻り和気殿に会う。


「泰明、治療の目途が立ちそうか?」
「はい・・・以前数人の子供の患者に同じような症状があったのです。私は当時兄上についていて記憶が曖昧なので、兄上の診察記録が必要なのです。誰か大和に使いを出してもらえますか?持病のほうは、時間はかかりますが治せます。何年かけても治してみせます。」


泰明は和気殿に詳しい病の原因と症状、そして治療方針を報告する。


「しかし・・・。そのようなことを・・・。」
「持病のほうは荒治療が必要です。帝のお許しさえいただければ・・・。まずは東宮のお体を鍛えないと・・・。十分鍛えると自然と体の成長に伴い改善され、発作が起きない体になります。完治というのは無理な話ですが、発作が起きないようにするのが先決です。そのほかの症状に関しては、兄上の治療記録や東宮様の日常日誌、医学書などを見て、確定した上で治療に当たります。薬の必要はありません。かえって悪くなる場合がございます。ですから急いで使いを大和に出してください。」
「わかった、使いを出そう。」


泰明は文を書き、和気が用意した使いのものに文を託した。


「あと、わたくしは当分こちらで寝起きいたします。とりあえず、東宮様に一切お薬をお与えにならないでください。発作を止めるほかの方法で抑えますから・・・。」


他の医師の者達は気になったのか、外から二人の話を聞いている。すると急に扉が開き、泰明が出てくる。


「どうかなさいましたか?」


皆は驚いた様子で蜘蛛の子を散らしたように散っていく。泰明は不思議そうな顔をして、泰明が集中して調べものが出来るように特別に一室用意された。そちらに図書寮から借りてきた医学書、春宮坊から借りてきた東宮の食事の記録、典薬寮内の書庫から薬学、鍼灸学の本などを持ち込んで、東宮の病状について再確認のため調べ始める。いつの間にか時間が過ぎ、夜になると、春宮坊から呼び出しがかかる。喘息の発作は夜に起こりやすい。やはり御所に着くと思ったとおり東宮の発作である。春宮坊に薬湯の使用をやめるようにいったので、呼び出しがかかったのである。泰明は東宮の寝所に入ると、東宮を楽な姿勢にさせ、脈を取り、針を取り出し発作に効くつぼを刺激し、そのあと按摩をする。


「さ、東宮様、この白湯をお飲みください。だいぶん落ち着かれたでしょう・・・。」
「うん・・・。ありがとう・・・。ずいぶん楽だよ。」
「それはよかったです・・・。さあ、楽な姿勢でお休みください・・・。これからはできるだけ薬湯に頼らない方法をとります。針は我慢できましたか?」
「うん、あまり痛くなかった。上手だね・・・若いのに・・・。」
「いいえ、まだ修行の身でございます。お褒め頂き光栄でございます。」
「また呼んだらきてくれる?」
「はい・・・。」


泰明は東宮が眠ったのを確認すると、典薬寮に戻っていった。普段は薬を飲んでも夜中何度も発作を起こしていた東宮はこの日は一度きりで朝までぐっすりと眠ったことを春宮坊の者に聞かされ、泰明は安堵をした。


(やはり間違ってはいなかった・・・。)


昨夜の事を聞いた帝は喜んで泰明を呼ぶ。


「昨日東宮は久しぶりに朝までゆっくりと寝たらしい。朝すっきりとした表情で起きてきたらしいよ。薬湯の処方を変えたのですか?」
「いえ、薬を止めました。一切口にしないように・・・。」
「どうして・・・。」
「東宮様の体調不良はすべて薬湯が体にあっていなかったのです。発作止めの薬は東宮様の体質にあわなかったようで、めまい、腹痛、そして食欲不振を招きました。他の人は薬であっても東宮様には毒であったのです。都の医学は薬で症状を抑えるものが大半です。まずは東宮様の体から毒を出さなければなりません。昨日も東宮様の膳の記録をすべて拝見させていただきました。今までの膳では体調がよくなりません。体質を改善できるような膳を春宮坊に指示しておきましたので・・・。隣の国では医食同源という言葉があります。その言葉にのっとって、食から東宮様を治療してさし上げようと思っております。昨日の発作は針、按摩にて改善をいたしました。ですから薬は必要ございません。」


帝や侍医である和気は泰明の言葉に感心し、帝は泰明にいう。


「泰明殿、典薬寮から御所まで遠い。すぐに対応が出来るように御所内の一室をあなたの部屋にしなさい。そこならば、すぐに対応でき、東宮の極秘日誌等も御所内であるからゆっくり部屋で見る事が出来るであろう・・・。今すぐ用意させるから、あなたも移りなさい。」
「ありがとうございます。東宮様の件、命をかけて改善させていただきます。」
「んん。頼んだよ。ところで、持病のほうはどのように治すつもりですか?」
「あまり運動なされない東宮様には荒治療かもしれません。まずは全身をお鍛えになられるように運動を・・・。走ったり乗馬、蹴鞠など、全身を使うような運動を・・・。体を鍛えると、自然と持病は治まります。私が幼い時に持っていた病でしたので・・・。体を鍛え、年齢を重ねると私もこうしてよくなりました。発作を止める方法も、姉から教わったのです。ずっと私にしてくれたものですから・・・。薬は高いので手に入らず・・・。この方法しかなかったというのもありますけれど・・・。ですから私が東宮に辛いことをさせてしまうかもしれませんが、お許しください。」
「わかった、あなたに任せよう。」


泰明は帝の御前から下がっていくと、言われたとおり東宮御所に入る。図書寮、典薬寮から借りた書物を返すと、昨日使者が大和の兄から預かった書物や診察日誌を東宮御所に持ち込み、調べ物をする。やはり兄の書き記したものはどの医学書よりも詳しく記載され、役に立った。特に子供の病気について書かれた医学書が少ない中、兄の日誌や姉の日誌を見るとなかったものまで載っている。このことで泰明は診断を確定し、治療方針を記した紙を何枚か作り、典薬寮と宮内省、春宮坊に渡した。東宮も昨夜のことで泰明を信用したのか、泰明の言うことをよく聞き、嫌いなものも残さず食べるようになった。東宮の女官たちは少しずつだが、顔色もよく元気になっていく東宮を見て喜ぶ。


「女御様、本当にあの若い医師は腕がよろしいのですね・・・。あれ程寝込んでおられた東宮様が・・・。」


彩子は微笑んでいう。


「そうよ、あの者は大和でも有名な医師の弟よ。腕は確かなの。」
「よくご存知ですのね・・・。」
「だって私の幼馴染ですもの・・・。」


彩子はこれで東宮の側にいる必要はないと思ったのである。


 東宮の治療を始めて半月が経った頃、持病以外の症状はすっかり消え、発作のほうも随分回数が減った。東宮は朝起きるとすぐに泰明と共に朝の運動をする。始めたばかりのときは走り出してすぐに息が上がり、女官や側近の者達は泰明を軽蔑したが、徐々に慣れてくると、随分楽になり、東宮は楽しそうに朝の運動をする。運動が終わると、泰明は東宮の汗が出た体を丁寧に拭き着替えさせると、一緒に朝餉を食べる。東宮自身が嫌いな物がたくさん出てくるのだが、時間をかけてでも我慢をして食べる。


「泰明、今日の蘇はおいしい。」
「はい、宮中用の牛から作ったものではなく、私の里である大和から取り寄せたものです。牛の育成から手間をかけ、十分に運動をさせ、餌も気を使った牛からとった乳を丁寧に蘇に加工したもの。昔から大和で作られている蘇ですので、食べやすいのかもしれません。」


泰明は微笑み、東宮が朝餉を食べ終わるまで見つめる。今日は典薬寮の侍医が、東宮を診察する日である。半月に一度、どれくらい治療が進んでいるか、確かめる。まあ簡単に言えば、泰明の試験のようなものである。侍医が来るまでに朝の診察を済まし、東宮の診察日誌に書き込んでいった。この半月分の日誌を読み返し、書き忘れがないか確かめると、女官がやってきていう。


「あの、典薬頭様がおいでに・・・。」
「わかりました。」


泰明は診察日誌を持って東宮御在所に向かう。


(今日は丹波様か・・・。あの方は少し苦手だ・・・。和気様と敵対されているからな・・・。何を突っ込まれるのか・・・。)


浮かない顔をして東宮御在所に入ると、すでに東宮の診察に入っていた。典薬頭は数人の医師を連れ、診察中であった。医師たちは皆丹波家の者達で、泰明の東宮付医師就任にいい顔をしないものたちばかりであった。もちろんこの診察で泰明のあら探しをしに来たのである。


「おそいぞ!和気泰明。今日典薬頭様が来られるのを知っているであろう。何をしていた。」
「丹波秀則様・・・。朝の診察日誌を書いておりました・・・。」


丹波秀則は泰明の持っている日誌を取ると、診察を終えた典薬頭に渡す。丹波秀則はこの典薬頭の息子である。丹波家当主であるこの典薬頭は還暦を前にし、この秋の除目で当主の座を丹波秀則に譲ろうとしている。もちろん丹波秀則が今回の東宮付の医師を引き受けなかったことで父である典薬頭は激怒したのは言うまでもない。東宮付の医師を引き受けた和気家が、東宮が帝位に就いた折、重用される事を恐れているのである。それでなくても、皇后の病気を見抜き、少しでも長く幸せに過ごす事が出来たのもこの和気家の診察のおかげであったのだ。次の除目ではきっと典薬助の和気が典薬頭になることは目に見えている。しかしいくら泰明のあら探しをしても出てこず、順調に東宮は体質改善をしているのである。そして食べ物の好き嫌いが激しい東宮に嫌いなものまで食べさせるということが春宮坊でも高く評価されている。典薬頭は東宮の診察日誌を読み、事細かく書かれていることに悔しいことであるが感心をしてしまった。


「和気泰明、この半月よくがんばりましたな。帝にきちんとご報告しておくことにしよう。ただしお前の場合は、遅刻が多い。医学習得に熱心すぎてのことであろうが、もう少し要領よくなりなさい。大和と都では違うのですから。いいですね。」


典薬頭は日誌を泰明に返すと、東宮御在所を丹波家の者たちと共に出て行った。


「泰明。」
「はい、東宮様。」
「丹波家の者達は苦手か?」


泰明は苦笑すると東宮は笑った。


「実は僕も苦手なんだ。うるさい者が多いしね・・・。体質的に合わないというか・・・。泰明は違うんだ。今までの医師たちと違ってね・・・。最近発作も出ないし・・・。こんなに清々しい気分なのは久しぶりかな・・・。これで母上様が生きていれば申し分ないのだけれど・・・。」
「東宮様・・・。」
「父上様の女御様をはじめて見た時は本当に母上様が戻ってきたと思ったけれど・・・。でも嬉しかったんだよ。顔も声も微笑みもそっくりなんだもん。ずっと側にいて欲しいと思ったよ。」
「そうでございましたか。私は生まれてすぐに両親を流行り病で亡くしましたので、顔など知りませんが、しかし生まれてきたことには感謝しております。様々な人たちとの出会いがあり、好きな人も出来ました。こうして東宮様にもお目にかかる事が出来ましたし・・・。」
「そうなんだ・・・母上様がいないのは僕と同じだね。泰明の好きな人ってどんな人?今も好きなの?その人を大和においてきたの?」


泰明は苦笑して首を振る。東宮の女官たちの中にはこの泰明を慕う者がたくさんおり、泰明の言葉に期待する。


「東宮様にお話できるようなことではございません。」
「残念だね・・・。僕の場合は父上様が決めた姫としか結婚できないしね・・・。内々的には決まっているようなものだけど・・・。泰明も早く結婚しなよ。」
「いえ、まだ私は修行中の身ですから。医師として世の中に認められないと・・・。」
「泰明は立派だと思うよ。誰がなんと言おうと。だから僕の医師として大和に帰らないでずっと都にいて欲しい。体のことはもちろんだけれど、話し相手になって欲しい。」
「本当にもったいないお言葉でございます。」
「泰明、気が向いたらでいいから、好きな人の話をして欲しいな・・・。泰明が好きになった人なんだもんきっと素敵な人なのでしょう・・・。」


泰明は微笑んで、東宮を見つめる。二人は兄弟のように仲良く過ごす。


 三月が経ち恒例の秋の除目が発表された。もちろん予想通り泰明の師匠である和気が頭に昇進した。そして丹波秀則が侍医になり兼任で助となった。泰明の功績は帝に認められたが、まだ医師となって日が浅いため、そのままである。東宮の病状はすっかり良くなり、持病の喘息の発作も、ほとんど何もせずに出なくなってきた。急な呼び出しもまったくなくなったために泰明は東宮付医師の肩書きはそのままだが、御所の部屋を返上し、典薬寮の一医師として出仕となることになった。今日は帝も東宮御所を訪れ、歓談する。


「泰明殿、この四月でよくここまで東宮を治した。もっとかかるであろうと覚悟していたのだが・・・。」
「本当にそうだよ、泰明。」
「いえ。私ももっとかかるであろうと思ったのですが、東宮様が私の言うとおりして頂いたからでございます。東宮様、私が側にいなくても今までどおり運動と、食事をお続けください。油断すると、また発作が出ます。」


東宮は微笑んで言う。


「わかっているよ。一人でもきちんと運動もするし、好き嫌いをせずに食べるよ。今まで食べず嫌いだったのか、結構食べる事が出来るようになったのですよ、父上様。」
「それなら安心だ・・・。泰明殿、今回の除目では昇格は出来なかったが、何か褒美を取らせよう、何でも言ってごらん・・・。」


泰明は少し考えたがある事が脳裏を横切った。


(彩子様を私にください・・・とは言えないな・・・。彩子様は帝のご寵愛を一身にお受けになっておられる女御様だし・・・。)


「あの・・・別に・・・ございません!」
「そんなことはないだろう。あの滅多に褒めない前典薬頭であった丹波殿もそなたをとても褒めていた。自分の息子でさえ褒めることをしなかったのに・・・。そこまで丹波殿をうならせたのだからもう立派な医師である。未だ典薬頭の邸にお世話になっていると聞く。どうだろう、小さいが、邸と使用人を与えよう。それがいい。先日も丹波に相談を受けたのです。丹波が一番可愛がっている孫を泰明の正妻としてどうかと・・・。結婚して落ち着くのもいいであろう。養う者ができると、泰明も張り合いが出来、さらに精進が出来る。」
「縁談でございますか?」


泰明は困った顔をして考え込む。


「もう決まった姫でもいるのですか?」


泰明は首を振り、黙り込んだ。


「父上様、泰明は好きな姫がいるんだよ。」
「東宮様・・・。もういいのですよ。その縁談をお受けいたします。」


帝は泰明の好きな姫が誰であるかを知っているので、苦笑をして御所を立ち去る。東宮は泰明を心配して、声をかける。


「いいの?好きな姫がいるのでしょ・・・。」
「別にいいのです。もうその姫は手の届かない存在の方だから・・・。到底一緒にはなれません。」


泰明は複雑な顔をして東宮御所を後にした。もちろん縁談の件はすぐに丹波家に知らされる。丹波家は元当主が決めた縁談を受け入れる。そしてこの縁談相手の父である当主丹波秀則は愛娘である三の姫を嫁がせることに決め、見合いの日取りを決める。一方和気家当主はこの縁談話に難色をしめしたが直接帝からの申し入れに断る事が出来ず、承諾する。


「くそ!丹波に先手を取られてしまった・・・。末娘と結婚させようと思っていたが・・・。」


和気は帝に泰明の養子縁組を申し入れた。



《作者からの一言》

医学的なことは良くわかりませんが・・・・。勘弁してください。

とりあえずこの章は長ったらしいです。すみません。おかしいところも多々あると思います^^;

資料がないので難しいですね^^;

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