4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第117章 泰明の失踪
 泰明が医師として認められ、様々な公達からよく指名を受けるようになった。しかし泰明は先輩医師に対して鼻にかけるわけでもなく、今までどおり下っ端医師として雑用もこなしている。先程太政官に呼び出された先輩医師が、膨れっ面ですぐに帰ってきた。


「丹波秀隆様、お早いお帰りですね・・・。」
「私ではなく、和気泰明を呼べだと。早くいってこい!権中納言様がお呼びだ。」
「私はまだ用事が・・・。」
「早く行け、私が代わりにやっておくから・・・。」


このような事が毎日のように続き、先輩医師の反感をかっているのは言うまでもない。まだ正式に丹波家との縁談が正式に決まったわけではないので、続々と縁談話が入ってくる。今日の相手は権少納言。ちょうど手が空いていたので、太政官の詰所に行く。


「おお、来た来た。こっちに来い。」
「はい?」


権少納言は小さな部屋に泰明を通す。泰明は診療道具を床に置くという。


「どうかなさいましたか?見た感じお元気そうなのですが・・・。持病の四十肩の調子は?」
「いやいや、和気殿に治療してもらってから随分楽になってな、それよりも聞いたぞ、和気本家の養子に入られるそうだが・・・。」
「そうみたいですね・・・。」


泰明は権少納言の肩を治療しながら会話をする。


「当家には十七の姫がいるのだが・・・。もらってくれないか・・・。」
「はい?私はまだまだ妻を娶るような身分では・・・。まだ下っ端ですし・・・。」
「何を言われる。東宮様の担当医ではありませんか・・・。」
「いやいや・・・。まだまだでございます。」


泰明は照れながらもやんわりと断った。


 典薬寮に戻ると伯父である典薬頭に申し入れをする。


「あの・・・。休みをいただきたいのですが・・・。本家に入る前に、大和に帰りたいのです・・・。ここのところ休みも頂いておりませんし・・・。ずっと兄に借りっ放しだった書物も直接お礼とともに返したいのです。」


典薬頭は困った顔で言う。


「ここ半年も休みをやっていないのは確かだ・・・。どれくらいで戻るのか?早めに帰ってきて欲しいのだが・・・。東宮様のこともある、いろいろな方々からのお声もかかることだし・・・。」
「ひと月・・・いえ半月でも構いません。少し郷に帰って考え事を・・・。ここ数日で色々ありすぎて・・・。」
「では半月ゆっくりしてきなさい。こちらから宮内省に伝えておくようにするから。いつから?」
「そうですね・・・明後日からでよろしいでしょうか・・・。まだ少し書き物が残っておりますし、引継ぎなども・・・。」


泰明はお辞儀をすると自分の文机の前に座り、書き物の続きをする。今日は珍しく午後からあまり声がかからなかったのでゆっくりと書き物が出来た。思ったよりも早く終わったので、典薬寮の書物庫に行きなんとなく医学書を読み漁った。次の日も何件か呼び出しがあったが、東宮御所にいき診察がてらに、長期休暇の報告をする。東宮は寂しそうな顔をして、送り出した。典薬寮にて引継ぎを済ますと、明日の準備のためいつもよりも早く退室しようとしたとき、中宮職の者が現れる。


「和気泰明殿はおられるか?」
「あの・・・この私ですが・・・。今帰るところなのですが何か?」
「ちょうど良かった。承華殿様がお呼びである。」
「診察ですか?」
「いや。渡したい物があるらしい、荷物を置いて早く来なさい。」


承香殿様とは大和女御こと彩子である。


「承華殿様は和気殿が大和に里帰りすると聞かれて、ついでに何かを持って行って欲しいらしい。」
「そうですか・・・。」
「帝にもお許しを頂いているそうだから、直接承華殿様から受けとると良い。」


承華殿につくと、女官に誘導され、彩子の前に座る。


「和気殿と二人きりにさせてちょうだい。」


そういうと彩子は人払いをする。


「女御様、何か?」
「これをお姉さまに渡して。若君が生まれたのに何も出来なかったから・・・。お祝い。あとお父様お母様に文を・・・。どうかしたの?」
「いえ・・・。」
「ではいつ帰ってくるの?」
「・・・。」


泰明はとても悲しそうな顔をするので、彩子は泰明のすぐ近くまで寄ってくる。


「泰明、どうかしたの?あなたらしくない・・・。」
「戻らないかもしれません・・・。都の早さについていけないのです。ゆったりとした大和のほうが・・・。」
「泰明、年明けには本家の養子になるんでしょ。」
「はい・・・そして丹波家の姫と結婚することになっています・・・。」


泰明は彩子を抱きしめて小さな声で言う。


「やはり私には彩子様が必要なのです。東宮様の治療はもちろん東宮様のためでもありますが、彩子様のためでもあります。彩子様のためなら・・・。帝が彩子様をお諦めになるまで、私は都に戻りません。」
「泰明は私の心の支えになってくれるって言ったじゃない・・・。泰明が同じ都の空の下にいると思うから、私、このような窮屈な生活が出来るの・・・。だから・・・帰らないなんていわないで・・・。」
「私は彩子様の想いを断とうと今まで一生懸命医学を修得してきました。しかしそれは出来なかったのです。余計に彩子様の側にいる事が辛いのです。私は、都での医師の名声は要らないのです・・・。彩子様さえ側にいれば・・・しかしそれは出来ない・・・。」


泰明は彩子にくちづけをすると微笑み、さよならを告げ、彩子から預かった物をもって承華殿を後にする。典薬寮に戻ると、自分の身の回りのものをきちんと整理整頓し、書き付けた物を文机に置き、周りの者に頭を下げて退出する。もともときちっとした性格であるから、誰も泰明がこちらへ戻らないと考えているなど思わなかった。和気家本邸の借りている部屋に戻ると、束帯をきちっとたたみ、出仕や殿上に必要なもの一式を部屋の真ん中に整理しておいて置く。後は少ない私物や書物、そして彩子から預かった物をきちんとまとめ、厩に行くと、自分の馬である紅梅を出し、荷物を積む。


「さあ、紅梅・・・。行こうか・・・。」


泰明は馬に乗ると、門衛の者に頭を下げて大和に向けて都を発った。その日のうちに邸を発ったことを知らない典薬頭は驚き、なんとなく不安を感じた。


(そういえば最近の泰明はおかしかった・・・。半月後に帰ってくるのだろうか・・・。)


部屋に行くときちんと整理整頓してあり、束帯と出仕、殿上に必要なものがきちんと並べてあったが、私物が一切なかった。


 馬を走らせ、大和古道を下り、あと峠をひとつ越せば大和の中心部というところで、泰明は急に涙がこみ上げてきた。本当にこれでよかったのかと思いつつ再び馬を走らせた。大和の実家についた頃にはもう夜になり、辺りは真っ暗であった。


「ただいま戻りました・・・。姉上。」


泰明は馬から荷物を下ろすと、義理の姉である冴子が出てくる。


「まあ、泰明殿。明日香様は留守ですわ。泰明殿明日の御帰郷ではなかったのですか?」
「早く帰りたくなりまして、早く切り上げて帰ってきたのです。」
「そう・・・。今から急いで何か食べるものを作らせますわね・・・。」


そういうと冴子は奥に戻っていった。泰明は馬を厩に連れて行くと丁寧に体を拭いてやり、飼葉と水を与える。


「紅梅、兄上たちにちゃんとかわいがってもらえよ。」


馬は泰明の言葉が理解できるのか、悲しそうな顔をして泰明に擦り寄ってきた。


「そんな顔をするなよ。せっかくの決心が・・・。」


泰明は馬を撫でると、邸に入っていって、自分の部屋に荷物を置き、整理する。泰明は借りた書物類や彩子から預かった物を持って兄のいる寝殿にやってくる。そして借りたものを返し、お礼を言うとお土産を渡す。


「役に立ってよかったよ・・・。泰明が東宮付の医師に抜擢されたと聞いたときはどうなるかと思ったが・・・。何とかうまくいったようで安心したよ。」


そして別の包みを渡す。


「これは彩子様から今日預かりました。兄上の若君誕生のお祝いとのことです。」
「彩子様から?礼状を書かないといけないな・・・。冴子、彩子様からだ・・・。」


中には綺麗な反物が数本入っていた。兄や冴子は大変驚き、言う。


「このような高価なもの・・・。彩子には感謝しないといけないわね・・・。泰明殿、都に戻ったら彩子によろしくいっておいてね・・・。」


冴子は泰明に酒と肴を出し、帰郷を祝った。三人の楽しげな声は周りにも響き渡った。しかし時折悲しげな顔をする泰明に兄は不思議に思った。泰明は彩子から預かった大和守とその妻への文を兄に託し、邸の中で数日間ごろごろしながら考え事をしていた。姉の明日香に怒られてもだらだらとした生活をする。そうかと思うと文机に向かうと、何か書き物を始め、夕餉も食べずに眠ってしまった。


 朝が明けきらないうちに泰明は起きて最低限度の荷物をまとめ、文机に三通の文を置くと、そっと邸をでる。それ以来泰明の姿は都どころか、実家のある大和でも見かける事が出来なかった。突然出て行った泰明に驚いた兄と姉は文に気付くと自分の宛名の書かれた文を読む。


『姉上様。やはり私は彩子様への想いを断ち切ることは出来ませんでした。このままでは和気家にも、彩子様にもご迷惑がかかります。ですから姿を消します。すみませんでした。 泰明』


『兄上様。突然姿を消したことをお許しください。私は医術を止めるわけではありません。色々訳はありますが、旅をしながら困っている人々を助けたいのです。だから探さないでください。勝手なことを言ってすみませんでした。 泰明』


『大和守様。突然姿を消してしまって申し訳ありません。わざわざ私に都に行くよう勧めてくれていただいたのですが、都の早さにはついていけず、このようなことになったことをお詫びいたします。また彩子様の力になれずにすみませんでした。彩子様によろしくお伝えください。 和気泰明』


もちろん半月たっても戻ってこない泰明に都は大騒ぎになった。典薬頭は不安が的中し、泰明の部屋や、泰明の文机に手ががりを探す。文机においてあった引継ぎ用の書き物には東宮を始め、診察をしたことのある公達達の診察内容、治療内容などがわかりやすく事細かに書かれ、読めば誰でも診察が引き継げるようになっていた。そして部屋の厨子の中にはそっと典薬頭にあてた文がおかれていた。これにはお礼やお詫び、そして失踪の理由が事細かに書かれていた。もちろん彩子の名前は伏してあったが縁談のお断りとその内容が書かれていた。典薬頭はここまで泰明が思いつめていたとは思ってはおらず、自分を責める。帝は国司たちに命じて泰明を探させる。しかし見つかったとしてももうその国には姿はなく、他の国に移っていた。
 
 泰明が失踪して一年が経とうとしていた。続々と手がかりが入ってくるものの、泰明の身柄の確保は出来なかった。様々な国からの報告はみな事後報告のみ・・・。ある国では腕の良さから役人に取り立てようとしたり、自分の姫と結婚させようとしたりするのだが、その国司からの言葉と同時に姿を消すのである。様々な国でたくさんの民を助け、感謝されている。ところが、失踪から半年がたった頃からぴったりと行方がわからなくなった。泰明を一番信頼していた東宮は他の医師を受け付けず、日々の鍛錬を辞めてしまい、塞ぎがちになった。そして自分のせいだと密かに思い込んだ彩子は寝込んでしまい、帝とも顔を合わさなくなってしまった。帝はしょうがなく彩子を大和に里下がりをさせた。帝自身も何事もうまくいかないことにイラつきを覚えた。


 大和に戻った彩子は実家の邸で寝込む。大和守は尋常ではない彩子を見て、母君を彩子につけた。時折思い出したように彩子は泣き叫ぶので、おかしいと思い明日香を呼ぶ。


「彩子様・・・。」
「明日香・・・。ごめんなさい・・・私が悪いのよ。私が泰明を引き止めていれば、このようなことに・・・。そして私が帝に入内などしなければ・・・。」
「わかっております。彩子様は気付かれたのですね・・・。本当は泰明の事が好きなことを・・・。帝に入内されたのは彩子様のお優しいお心からだということを・・・。」
「そう、私は帝のことを愛していたのではないの・・・。最愛の皇后様をお亡くしになり、気が滅入っておられたのをお助けしようと思っただけなのよ・・・。私も泰明が側にいないと・・・。ずっと幼い頃から泰明が側にいて色々尽くしてくれた・・・。私が智明様を好きになったときも何も言わずに側で微笑んでくれた。私の想いは智明様に向いていたのにも関わらず・・・。お姉さまと智明様の婚儀の夜、泰明はわざわざ私のところにやってきて和ませてくれたのよ。それにずっと気付かなかった私は本当に馬鹿よ・・・。」


明日香に本当の気持ちを伝えた彩子は明日香の胸で泣き叫ぶ。


「彩子様、気が晴れるまで泣いてください。しかしあなたは帝の妃なのです。泰明と結ばれることなど・・・。そして元気になられたら、都にお帰りください。泰明の消息が消えてもう一年。もしかしたらもうどこかで・・・・。」


彩子の母は彩子の本当の気持ちに気付き、父君である大和守に彩子の気持ちを伝えた。もちろん大和守は彩子の気持ちを知ると驚いて慌てる。そして彩子を都にやったことを悔やんだ。また、泰明の消息がまったく消えてしまったことに、もう泰明はこの世にいないものと思い諦めることにした。都でも和気泰明はもうこの世にいないのではないかという噂で持ちきりであった。いつまでも泰明の帰りを待ち続けていた帝や東宮は諦め、東宮は他の医師を受け入れるようになった。徐々に都では泰明の存在を忘れていった。もちろん彩子も泰明を諦め都での生活を再開させた。
sayayakowaki2.jpg


 泰明の消息が途絶えてから四年の月日が経ち、彩子は二十四歳になった。前の年に帝との間に親王が生まれ、帝のご寵愛を一身に受けつつましく暮らしていた。東宮も昨年無事に元服を済まし、持病の喘息の発作は相変わらずだが、以前に比べて体も強くなった。帝は三十四歳となり、今年で在位十五周年となる。都は平穏を保ち、泰明がいたことなど皆が忘れていた頃、大和の和気邸前に小さな女の子を連れた男が馬を止める。その男は和気邸に入ろうとするがためらい邸を離れようとしたとき、明日香が往診のため邸を出ようとして目が合う。


「泰明・・・。泰明じゃないの?」


以前よりもやつれてはいたが、まさしく行方不明となっていた和気泰明本人であった。


「姉上・・・。」


泰明は少し疲れた様子で馬を下りる。


「泰明今までどこに・・・・?」
「海を越え宋に・・・。」
「宋???まあいいから早く邸に入りなさい!」


泰明は女の子を馬から下ろすと、馬を引き邸に入る。荷物を降ろし部屋に入ると、泰明は下を向き黙る。泰明の連れている女の子は泰明の後ろに隠れ明日香を見つめている。明日香は汚れた顔等を洗うように角だらいを持ってくると、泰明は布を固く絞り、女の子の体を丁寧に拭いてやり、自分の顔も拭いた。ちょうど兄の智明が戻ってきたようで、表が騒がしくなる。


「何だって!泰明が戻ってきたと???」


大慌てで智明は部屋に入ってくると、泰明の変わり様に驚く。


「今までどこに行っていたのか?泰明!皆がどれだけ心配したか・・・。その子は?」
「この子は私の娘です。話は長くなりますが・・・。蘭・・・。」


泰明は宋の言葉で蘭という娘に話しかけると、蘭は微笑んで宋の言葉で挨拶をする。明日香と智明は驚き言葉を失った。


 泰明は難波から船に乗り、大隈に渡り、そのまま九州を転々として大宰府のほうに行き着きある商人と出会った。その者は宋と交易をしており、宋の都である病が流行っていていい医者が足りないと聞き一緒に宋に渡った。その者と都に上り、民たちの病を見ているうちに、宋の王の目に留まり、病である王の姫君の治療にあたった。もうだめだと思われていた姫は無事に回復し、褒美として王から官位と邸、そしてこの姫を賜った。もちろんすぐに帰るつもりでいたので断ったが、断れば命がないと聞き、しょうがなくこの地で過ごし、王の侍医をしていた。その姫との間に生まれた子がこの蘭である。泰明の妻は姫を産むと産後の肥立ちが悪く、泰明の看護もむなしく亡くなってしまった。そしてこの半年前に王が亡くなり、代が変わると共に泰明は蘭と共に宋の都を抜け出し、何とか太宰府までたどり着きそして船を乗り継いでこの大和にたどり着いたのだ。


「帰りたくても帰る事が出来なかったのです・・・。この蘭も置いていくわけには行かず・・・。小さいのでどうなるかと思いましたが、なんとか・・・。」


蘭はとても疲れているのか、泰明に抱かれて眠ってしまった。蘭は冴子が抱き、寝所に運ぶと、泰明は宋から持ち帰った医学書の写しを智明の前に出した。


「これは?」
「宋の新しい医学書の写しです。今都にある唐の時代の医学書よりも内容が違っています。これを持ち出すのに随分苦労しました・・・。」


智明は何冊もある写しから1冊を取り出し、読む。きちんと泰明によって大和言葉に翻訳してあり、智明はうなずきながら読み漁った。


「なるほどね・・・。隣の国ではここまで医学が進んでいるのか・・・。よくやったぞ・・・。きっと帝はお喜びになるであろう・・・。」
「もちろんこの四年で宋の医術を身に着けました・・・。しかし都には・・・。彩子様は?」
「姉上から、彩子様とお前のことを聞いた。私としては、賛成は出来ないが・・・。彩子様はお前を心配するあまり二度帝の御子を流された。昨年の春、やっと親王様を出産されたが・・・。お元気ではないのは確か・・・。年に一度、夏に里帰りされるが、以前のように邸を抜け出したりなさらず、籠もりっきりだった・・・。大和守も彩子様のことで心が休まる事がない・・・。東宮様は昨年何とか元服されたが、持病の発作が度々出るという・・・。本当にお前がいなくなってから表面上では穏やかだが、裏では未だ混乱している。さて・・・帝のご命令ではお前を発見次第都に引き渡せと・・・。結構都を騒がせたからただではすまないであろう・・・。」


智明は溜め息をついて泰明を眺める。そして微笑む。


「しかし、お前には髭は似合わんな・・・。今日はゆっくりすればいい。長旅で相当疲れているだろう・・・。さ、食え食え、飲め飲め。」


二人は久しぶりに酒を酌み交わし、ゆっくりと宋での話を語り合った。


 朝になると、泰明はこの三年伸ばしていた髭を綺麗に剃り、庭に降りると厩に行き昨日乗ってきた馬の世話をする。すると後ろで懐かしい鳴き声が聞こえる。


「紅梅!おまえ、まだここにいたのか?てっきり売られたと思っていたが・・・。」


紅梅は泰明を覚えていたようで、嬉しそうに泰明に鼻を摺り寄せてくる。


「ごめんな・・・お前も連れて行きたかったが・・・。でもこうして待っていてくれたなんて・・・。」


泰明は涙ぐむと紅梅の全身を撫でてやった。邸では蘭が起きたようで泣き声が聞こえる。蘭はすのこ縁まで出て来て泰明を探していた。泰明は蘭を抱き上げてゆっくりいう。


「蘭、父様のこの言葉、わかるだろう。この国では父様と同じ言葉をしゃべりなさい。ここは宋の国ではないのだから・・・。」


蘭は大和言葉が理解できるし、挨拶くらいなら喋る事が出来る。


「トウサマ?」
「そういい子だ・・・。お腹が空いただろう・・・。何かもらいに行こう。」


邸の中に入ると、朝餉が用意してある。蘭は泰明の髭の辺りを触る。


「髭か?あの髭は剃ったんだよ。父様には似合わないからね・・・。蘭は前のほうがいいのかな・・・。」


蘭は首を横に振って微笑む。兄の智明の側には若君が座っている。もうあれから都を出てから5年。もう兄の若君は5歳となっていた。若君はこの蘭を見て不思議そうにしている。


「智也、この子はお前のいとこの蘭姫だ。お前より一つ小さい。仲良くしなさい。」
「はい・・・。父上、一緒に遊んでいいですか?」
「ああ、でも言葉が違うのでいじめたりしてはいけないよ。」
「言葉?」
「違う国の言葉さ。大和言葉ではない。」


家族が皆揃い楽しげに朝餉を食べ、やっと泰明は旅の疲れから開放されたような気がしたが、まだまだ都のことが残っていることに泰明は不安に思う。もちろんいくら兄であっても、泰明を都に渡さなければならないことを泰明は知っているのである。その日のうちに兄によって大和守に泰明帰郷を知らされ、大和守は直接朝廷には伝えず、彩子に知らせることにした。



《作者からの一言》

時代背景がわからず、この時代中国は唐なのか宋なのかわかりません^^;詳しい方には申し訳ありません。中国史には疎いので。とりあえず、泰明は帰ってきました。一年程したら都に戻るつもりが、5年も経ってしまいました。どうなることやら・・・。

スポンサーサイト

Comment

 秘密にする

Track Back
TB*URL

Copyright © ねぇね2人と双子っちのママのお部屋。別館. all rights reserved.
さくらと空 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。