4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

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第118章 和気泰明の帰京
 「彩子様!大和から急ぎの文でございます!」

彩子は早馬で大和の者が持ってきた文を受け取ると、文箱を開けて読んでみる。彩子は内容を見て驚き、手が震えた。

「彩子様?何か?」

彩子は大和から一緒である女官に文を見せる。その女官も驚き、彩子に返す。

『彩子へ 昨日泰明殿が帰郷された。訳あって帰る事が出来ずに今に至った。今大和の和気邸にて身を寄せている。取り急ぎ報告のみですまないね。  父』

「帝にご報告したほうがいいのかしら・・・。」
「女御様、私にも仲間に入れてください・・・。」

小宰相は彩子に近づき言う。

「小宰相・・・。ねえどうしたらいいのかしら・・・。」

彩子は小宰相に文を渡し、見せるという。

「やはり帝に・・・。太政官に知られるよりも、帝のほうか・・・。帝にご相談を・・・。」

彩子は不安な顔をして小宰相を見つめる。今夜は運よく帝が承香殿に来る事になっている。いつものように帝を迎え入れ、彩子は帝の側に座る。

「今日はいい事あったの?彩子。」

帝は微笑んで彩子を抱きしめると、彩子を見つめる。彩子は帝を離すと、二階厨子においてある文箱を渡す。

「帝、決して驚かないでください。内密に事を運んでいただきたいのです。」

帝は文箱を、開け文を見る。帝は驚き、言葉を失う。彩子は帝に言う。

「泰明を処分するおつもりですか?都を騒がせた罪で・・・。詳しい理由は書かれていませんが、泰明は戻ってきたのです。帝!」

帝は考えながらいう。

「ただでは済まない事は知っているね・・・。もちろん私としては泰明には借りがあるから何とかしてやりたい。しかしね・・・。」
「帝!お願いします。きっと帰る事が出来なかった理由があるはずです。理由を聞かずに処分するのですか?帝!会わせてください!泰明の失踪の原因は私にもあります!」
「どうして彩子がそう思うの?」
「私・・・泰明の事が・・・・。」
「もういい・・・。聞きたくない。わかった何とかしよう・・・。内密に泰明と会って直接理由を聞くとしよう。もちろん、典薬頭の和気殿も同席して・・・。和気も今回のことで相当気が滅入っていたから・・・。和気も自分に原因があるといっていた。だから・・・。」

帝は立ち上がると、清涼殿に戻っていった。彩子は帝を怒らせてしまったのではないかと心配し、寝所に潜り込んだ。

 清涼殿に戻った帝は宿直中の右大将を呼びつける。右大将が到着すると、御簾の中に入れ内密な話をする。

「常隆、お願いがある。伏見に別邸があったね・・・。そこを貸してくれないか・・・。」
「はい・・・別に構いませんが・・・。どうかしたのですか?帝がお使いになるのですか?」
「ああ、内密に事を運ばないといけない事が出来てね・・・。何とか理由をつけて抜け出すよ。驚く客を呼び、話を聞こうと思うのですよ。」
「昼間ですか?」
「ああ。何とか理由をつけるし、お忍びだから護衛もあまりいらない。女御も連れて行く。出来れば車も貸して欲しい。内裏に入れるように通達しておく。」
「いつですか・・・?」
「五日後くらいだ。頼んだよ。」
「御意。また何かしでかすのでしょうか・・・。知りませんよ私は・・・関白殿や左大臣、右大臣殿に叱られても・・・。もういい年であられるのに・・・。」

右大将は溜め息をついて退出すると、また帝は承香殿に戻った。

「彩子、もう寝てしまったのか?」

帝は彩子の寝所に入り、横になっている彩子の髪を触る。

「彩子。右大将の伏見の別邸を使うことにしたから、明日早馬で大和に文を送ってもらえないかな・・・。面会の日は五日後、私も彩子もお忍びでいくつもりだから、泰明は別に狩衣でいい。右大将家から車を一両大和に向かわせるのでそれに乗って密かに右大将別邸に入るようにと・・・。安心して、そこで捕らえたりはしない。右大将はもう二十年来の親友だ。直接理由を聞いてからどうするかを決めることにしよう・・・。処分が決まるまで、そこにいてもらう。いいね、彩子。」
「わかりました。明日大和に使いを出します。早馬を使わせて・・・。帝ありがとうございます。」
「んん・・・。彩子の悲しむ顔を見たくはないからね・・・。」

帝は彩子の横に横になると、背を向け合ったまま眠りについた。帝には彩子の心がすでに帝ではなく泰明に向いていることに気が付いていた。もともと帝は彩子を無理に入内させたので、こうなっても仕方がないと諦めた。

 次の日彩子は帝に言われたとおり大和に文を書き、早馬で持って行かせる。その日のうちに返事が来て、泰明の帰京が決まった。帝は典薬頭に内密に文を書き、伏見の右大将別邸に来るように命じる。日程が決まり、そして内密に段取りが決められる。右大将は前日朝早くに大和に車を送り、帝の面会日の前日に別邸に泰明を入れた。そして帝と彩子は昼過ぎに内裏を出て、伏見の別邸に着いた。少し遅れて、典薬頭も仕事を切り上げてやってくる。

右大将によって寝殿に通された帝は彩子と共に上座に座った。典薬頭が帝の前に現れ、頭を下げる。

「よく来たね、和気殿・・・。」
「どうかなさったのでしょうか・・・。内密な話など・・・。内裏の一室をお使いになればいいものを、右大将様の別邸でとは・・・。」
「話だけなら、内裏でもいいが、今日は驚くべき者と会う約束をしているのだ。和気殿にも会わせたくてね・・・。常隆、例の者を・・・。」
「は!」

少し経つと包みを持った泰明がやってきてすのこ縁で座ると、深々と頭を下げる。

「帝、お久しぶりでございます。このような格好で申し訳ありません・・・。」

その声に典薬頭は驚き声が出なかった。

「泰明、よく生きていた。さ、中に入りなさい。」

泰明は立ち上がり、中に入ろうとすると、蘭が走ってきて泰明の足にまとわりつく。

「トウサマ・・・。」
「蘭、あの部屋にいなさいといっただろう。父様は大事なお話があるのですよ。」

蘭は首を横に振り、宋の言葉で泣き叫ぶ。慌てた泰明は蘭を抱き上げてあやす。

「申し訳ありません、すぐに連れ出しますので・・・。」
「いやいい。その子をそばに置いておいてもいいよ。その子は?」

泰明は蘭を膝の上に座らせて言う。

「この子は私の一人娘でございます。この子は宋の国の王女との間に出来た姫・・・。話は長くなりますが・・・。」

泰明は失踪後から大和に帰ってくるまでの事を包み隠さず帝に申し上げた。もちろん宋の国で帰りたくても帰れなかったこと、王の侍医になり王の末の王女を娶ったこと、その王女は蘭を産んですぐに亡くなった事、半年前に王がなくなって宋の国をこっそり抜け出してきたことなどを、すべて打ち明けた。そして和気の前に宋国の医学書の写しを差し出した。

「これは宋国門外不出の医学書の写し・・・。これを持ち出すのには苦労をいたしました。きっと和気様のお役に立つと思います。」

泰明が差し出した医学書の一部を典薬頭は取り、内容を確かめる。唐国時代の医学書とは異なり、さらに詳しく書かれていた。

「帝、和気様、この私の失踪で随分都を騒がせたと聞きました。どのような処分もお受けいたしますが、この蘭だけはお救いください。蘭は宋国王家の血を引く大事な姫です。そして私の大事な一人娘・・・。お願い申し上げます。」

泰明は頭を深々と下げ涙を流す。帝は複雑な事情に頭を悩まし、典薬頭に聞く。

「その医学書はそんなに貴重なものか?」
「それはそうです。国交がない宋国ですから、このようなものは決して入ってきません。今存在するものよりも新しい病が書かれています。これはすばらしい!泰明良くこのようなものを持ち帰ってくれた。和気家の家宝になるであろう。」

帝はハッといいことを思い出し、泰明を下がらせ、典薬頭と彩子に言う。

「処罰しないいい方法があったぞ。いいか?宋国へ内密に医学留学させたことにしよう。それならば皆納得するかもしれないな・・・。もちろんその医学書は朝廷に預けてもらうことにはなるが・・・。私が密かに命を出したことにすればいいかもしれない・・・。どうだろう・・・。」

典薬頭も彩子もそれならばということで、その方向で事を進めることにした。うまく行くかどうかはわからないが、うまくいけば秋の除目に間に合い、何とか泰明を医師として復活できるのではないかと帝は思ったのである。

「そうそう、和気殿、例の養子の件はもう消えましたか?」
「いえ、あのような優秀な者ならば、喜んで養子に迎えましょう。将来は私の後を継ぎ、侍医いや典薬頭も夢ではありません。もう都では泰明に勝てる者はないかもしれません・・・。」
「それなら良かった・・・。泰明の件頼みましたよ。泰明には東宮の件で借りがあるからね・・・。これでうまく行けばすんなりと医師として都に戻る事が出来よう・・・。そしてあの蘭姫という宋国の姫をあなたの孫としてお育てになるように・・・。」
「御意にございます。」
「彩子、これでいいね・・・。これで満足した?」
「はい・・・なんと感謝したらいいか・・・。」

彩子は帝に感謝し、涙を流しながら頭を深々と下げた。

彩子は急に立ち上がり、帝に言う。

「帝、泰明に会ってきていいですか?」
「いいよ。ただし先程の話は内密に・・・。久しぶりだからゆっくり話しておいで・・・。」

帝は微笑んで彩子を送り出す。彩子はとても嬉しそうな顔をして部屋を退出する。

「帝よろしいのですか・・・。」
「和気殿、いいのです。あの二人は幼馴染という間だけではなく、想い合っている仲なのですから・・・。」
「しかし・・・。女御様は、帝のご寵愛を一身にお受けになっているお妃様・・・。」
「んん・・・。大事な妃であるのには変わりないが、もともと無理やり入内させた姫。大和でのびのび育った姫がこのように窮屈な後宮でもう何年も我慢してくれているんだから・・・。」
「泰明はあなたの群臣の一人・・・。そのものにお妃様を・・・。」
「女御の養父である右大臣が許せば、いずれ女御を泰明にやろうと思っているのです。そのほうが泰明にとっても、女御にとっても幸せではないかと思う。その時は頼みますよ。和気殿・・・。彩子は自分で何でも出来る・・・。後宮を出てもやっていくことの出来る姫だ。」

典薬頭は承知をし、部屋を退出する。帝は溜め息をついて、右大将と共に庭を見つめる。

 彩子は泰明のいる部屋に入ると、涙ぐみながら泰明を見つめる。蘭の昼寝の時間なのか、泰明は蘭を寝所に寝かしつけていた。蘭が眠ったのを確認すると、立ち上がって振り返ると彩子の存在に気が付く。

「彩子様・・・。」

彩子は泰明に近づくと泰明の頬を叩くと、泰明に抱きつく。

「彩子様・・・申し訳ありません・・・。」
「泰明、どんなに心配したかわかっているの?必ずすぐに戻ってくると言ったじゃない・・・。いつも泰明はそう・・・。後先考えずに・・・。帰る事が出来なかった理由はわかったけれど・・・。」
「申し訳ありません・・・。私のために彩子様は二度も帝の御子を流されたとか・・・。私のせいで色々な方々に迷惑をおかけしたのです。命をかけて一生償わなければ・・・。」

彩子は涙を流しながら微笑んだ。

「でもね、こうして帰ってきてくれた。時間はかかったけれど・・・。もう泰明は死んでしまったと思ったのに・・・こうして生きて帰ってきてくれたの・・・。私嬉しくて、お父様からの文が来た日から夜も眠る事が出来なかったほど嬉しかったの・・・。」
「彩子様・・・。」

泰明は彩子を強く抱きしめて二人は見つめあい、長い長いくちづけを交わす。

「じゃあ、戻るね。帝が待っているから・・・。今度会うときは内裏でかしらね・・・。」
「待ってください。彩子様・・・。」

泰明は懐からあるものを取り出す。そして彩子に渡す。

「これって・・・。」
「彩子様と契ったあの日に頂いた彩子様の愛用の櫛です。もう必要ありませんのでお返しします。このおかげで私は住み慣れない異国の宋国でもやっていけたのです。ですがもう彩子様は手の届かない存在になるのですから・・・。」

彩子は微笑んで、その櫛を返す。

「これはあなたと私をつなぎとめる証よ・・・。生まれてからずっと一緒に育った思い出、楽しかった思い出・・・色々詰まっているの・・・。この櫛、誰にもらったのか覚えていない?これは幼い時に泰明がくれたものよ。用事でお父様について行った時の都のお土産・・・。対になっていたでしょ。そのうちのひとつなの・・・。だから持っていて・・・。私だと思って・・・。」

泰明は微笑んで再び懐にしまい込む。

「そういえば、この櫛は大和守様に最初で最後にねだってお金を出してもらったもの・・・。彩子様はとても喜んでずっと使っていただいた・・・。わかりました・・・私が持っています。」

二人は再び別れのくちづけを交わす。そして彩子は微笑みながら手を振り、退室する。

彩子は帝のいる部屋に戻ると、微笑んで言う。

「帝、さあ帰りましょう・・・。」
「ああ・・・。もう気が済んだか?」
「はい・・・。右大将様、お騒がせいたしましてすみませんでした。」

右大将は彩子に対して頭を下げると、帝と彩子を車まで送り、見送った。車に乗り込んだ帝は、彩子から馨る泰明の香のにおいを感じながらも、なにも感じていないように振舞った。彩子は側にいる帝に寄り添いながらも、やはり泰明のことばかり考えていた。

「彩子・・・。」
「はい・・・。」
「いやなんでもない・・・。」

伏見から内裏に着くまで二人は何も言葉を交わすことなく時間ばかり経っていく。内裏についても気まずい空気は変わらず、彩子は承香殿へ、帝は清涼殿へ戻っていった。彩子は御座に座り込むと、脇息に肘をついて溜め息をつく。ふと気が付くと、彩子の目にとても綺麗な夕焼けが映った。

(この夕焼けを、泰明も見ているのかしら・・・。)

彩子は泰明の唇の感触を思い出すと、この夕焼けのように顔が赤くなった。

 帝は数日間悩んだ末、太政官達に泰明のことを打ち明ける。大臣たちは驚き、そして処分するように意見をいう。

「みんな、ちょっと待ってくれないか・・・。和気泰明は海を越え宋国まで医術の修行をしてきた。そして宋国の王の侍医まで務めたという。この国の医術の発展のために、医学書まで持ち込んでくれた。この私が内密に行かせたのですよ・・・。このような事が公になってしまってはいけないからね・・・。今昔と違って宋国とは国として交易がない。そのようなところへ国の者として派遣できようか・・・・。」
「しかし・・・。証拠は?」
「典薬頭に医学書を見せるとこれはすばらしいものと断言していた。どうだろ、和気泰明の出仕再開の賛成をしてくれないか・・・。」

太政官達は帝の意向に承諾し、泰明の再出仕の許可を出し、秋の除目にて医師から正七位上医博士の昇進を決めた。そのことは典薬頭から泰明に伝わり、泰明は蘭姫と共に和気家本邸に入った。典薬頭から、以前の部屋よりも大きな部屋を与えられ、蘭姫に女房数人もつけてもらうこととなった。

「和気様、このようなことまでしていただき、ありがとうございます。」
「いやいや・・・。その代わり、除目発表までに当家の養子に入ってもらうぞ。そしてこの蘭姫を私の孫として正式に発表しよう。帝があなたの縁談相手を再び探していただけるそうだから、私の跡継ぎとして身を固めなさい・・・。いいね。」
「はい。もう以前のような振る舞いはいたしません。このように再び出仕できる様にしていただき、感謝しております。そしてこの蘭まで・・・。ずっとこの蘭姫の行く末を心配しておりましたが、これなら安心です。縁談の件もよろしくお願いします。」

泰明は挨拶を済ますと、自分の部屋に入る。そこには泰明の出仕に必要なものばかりではなく、蘭姫の衣装などもたくさん用意されており、早速女房たちは蘭姫を着替えさせた。蘭姫はさすが母君が宋国中でも一、二を争うような美人であったので、とてもかわいらしい姫である。やはり宋国と倭国の混血児であるので、少し違った顔つきでさらにかわいらしく感じるのである。

「まあ姫様、なんとかわいらしいことでしょう・・・。お似合いですわ・・・。」

蘭は女房達の言葉を理解し、恥らう表情をする。しかし蘭の使う言葉は女房たちには理解できず、女房たちは戸惑った。

「蘭は大和言葉を少ししかしゃべる事が出来ないのです。だから、蘭に言葉を少しずつ教えて欲しいのです。まだ幼いから飲み込みは早いでしょう・・・。蘭、いいね。みんなは宋の言葉を知らない。だから、出来るだけ父様と同じ言葉を覚えるのです。いいね・・・。お前は賢い子だ。母君も私のために大和言葉を少し覚えてくれた。蘭にもできるはずだよ。もうお前の生まれた宋には戻らないのだから。だいすきだったおばあ様にも会えない・・・。いいね・・・。」

泰明は蘭を抱きしめて言い聞かせる。女房たちは蘭姫の境遇に同情し、蘭姫の養育に精を出した。そのおかげか、蘭も少しずつ言葉を覚え、心を開いていった。

 秋の除目を前に泰明は正式に和気本家の養子となった。もともと和気本家には以前亡くなった息子以外息子がおらず、4人の子供は皆姫だった。そのために本家にこの優秀な泰明を迎え入れた。泰明の正式な養子と蘭姫のお披露目の宴が、関係者だけで行われた。宮内卿をはじめ丹波家の当主や和気家一門が招待された。ここ何年で男に磨きがかかった泰明と、日本人離れしたかわいらしい蘭姫に皆は驚いた。宮内卿は典薬頭にいう。

「なんともかわいらしい姫君を迎えられたのでしょう・・・。ぜひとも当家の嫡男にどうでしょう・・・。」
「いやいやまだ三歳・・・。立派な摂関家であられる東三条様のご子息となど・・・もったいなく・・。」
「しかし、噂では宋国王家の血を引いておられると・・・。この上のない姫ではありませんか・・・。」

蘭は眠くなったのか愚図りだし、蘭の女房と共に宴を下がっていく。泰明は興味津々な公達達の相手に戸惑い、そして疲れるが、宋での緊張感のある毎日に比べると、まだましである。久しぶりの顔ぶれに懐かしさを感じつつも、出仕の再開に不安を持つ。

 数日後、正式に秋の除目が発表され、泰明は医博士兼東宮侍医として再出発することとなった。この若さで侍医までなることは異例のことである。除目の次の日からは再出仕日となる。新調された束帯に袖を通し、生まれ変わった気持ちで出仕の準備をする。典薬頭より車での出仕を勧められたが断って、愛馬紅梅で出仕することにした。新たに従者を与えられた。

「泰明様、もうそろそろ出立されませんと・・・。」
「わかった。ちょっと娘に挨拶を・・・。」

泰明は蘭のところに行くと、今日から仕事でいなくなることを告げると抱き上げて蘭付の女房に預けた。

「蘭を頼むよ・・・。出来るだけ早く帰るようにするから・・・。」
「はい、東宮侍医様。さ、蘭様、あちらで人形遊びでもいたしましょう。」

蘭は泰明の顔を見つめながら女房に連れられて部屋の奥に入った。泰明は馬に乗り、大内裏に向けて紅梅を歩かせる。朱雀門で馬を降り、従者に預けると、従者から荷物を受け取り、典薬寮に向かう。四年も経つと、大内裏で働いている役人たちの顔ぶれも変わっている。典薬寮が入っている建物前に立つと、やはり色々あったことのトラウマなのか、足が震えて一歩も進めなくなってしまった。

「泰明殿、ここで何をしているのかね・・・。」

帝の朝の診察から戻ってきた典薬頭が泰明に声をかけ肩を叩く。

「あ、典薬頭様。ちょっと入り辛いのです・・・。色々ありましたし・・・。」

典薬頭は微笑んで背中をポンポンポンと押す。泰明は深呼吸をすると不思議と気分が楽になり、典薬頭と共に典薬寮に入っていく。

「泰明殿、もう私たちは親子なのだから、遠慮は要らないよ。なんでも相談して欲しい。挨拶が済んだら、東宮御所に行って東宮様にご挨拶をしておいで。今日のこの日をたいそう心待ちにしておられたそうだから。」
「はい。」

典薬寮に入るとやはり役人たちの視線が痛い。こそこそと泰明のほうを見て話すものたちが多い。医博士であり東宮侍医であるため、個室が与えられる。個室に荷物を置くと、典薬頭に連れられて役人たちの前に出され、挨拶をすると早速東宮御所にむかった。もともと侍医という職は帝につく医師のことだが、東宮の要望により特別に東宮侍医という職が付け加えられた。泰明の医博士の職は医学生養成に当たる職ではあるが、泰明にとってこの職は形だけのことである。形だけとはいえ、和気家本邸に寝泊りしている医学生に対して暇を見つけては医術の指導をしているのである。

 東宮御所の御座所の前に着くと、東宮侍従が東宮に泰明が挨拶に来たと告げる。東宮侍従に案内されて東宮の前に通されると泰明は東宮に対し、長い間都を離れていたことなどを詫び、改めて東宮侍医についたことを報告する。

「泰明、父上から聞いたよ。宋という国に医術の修行に行っていたそうだね・・・。」
「はい、ご心配をおかけいたしました。東宮様も元服され、立派になられましたこと嬉しく思います。ところで持病の発作などは・・・。」
「うん、時々は出るが、泰明の言ったとおり、年を重ねるごとに楽になっている。今は発作が起きても軽くで済んでいる。最近はきちんと鍛錬もしているよ。好き嫌いもなくなったし、きちんと泰明の言うとおり残さず食べている。」
「それはいい事でございます。ずっと私は東宮様の持病が気がかりでしょうがなかったのですが、少しでも良くなられたことに安堵しております。この調子であれば、もう少し大人になられましたら完治されると思います。」
「うん。」

泰明は東宮を診察すると、持病の喘息以外はすっかり健康体であった。泰明は安心して東宮に言う。

「東宮様、今日から東宮様の健康管理をさせていただきますので、何なりとお申し出ください。お話し相手が必要でございましたらお相手いたします。」
「うん、ありがとう。泰明も無理をせずに・・・。」
「お気遣いありがとうございます。では私はこれで・・・。」

泰明は東宮御所を退出すると、典薬寮に戻り自分の部屋に入ると荷物の整理をする。あっという間に時間が過ぎ、退出時間となると、早々切り上げて蘭のために邸に戻る。邸に戻ると蘭は泰明を待っていたようで、すのこ縁に座って歌を歌っていた。

「蘭・・・。帰ったよ。いい子にしていたかい。」
「うん・・・。」

蘭が歌っていた歌は泰明が小さい頃彩子と一緒に歌っていた大和でのわらべ歌である。宋の国で寂しくなるとなんとなく蘭を膝に乗せて小声で歌っていた歌で、蘭は無意識のうちに覚えていたようだ。なんとなく懐かしくなって蘭を膝の上に乗せて庭を眺めながら一緒に歌う。泰明は歌い終わると蘭の頭を撫で、微笑んで邸の中に入っていった。


《作者からの一言》

やっとのことで都での生活を始めた泰明。未だ彩子との関係は続き、帝も密かに承知している。なんという帝なのだろうか・・・。
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