4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

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第125章  東宮 良仁(ながひと)親王の病気
良仁親王三歳

 泰明は帝一家担当の侍医であり、東宮担当ではない。東宮担当は泰明の叔父である医師和気直安である。叔父は毎日診察のために東宮ご在所の五条邸には行くことはないが、最近毎日のように五条邸を訪れる。

この叔父は泰明の才能よりは劣るものの、腕は確かで仕事熱心な医師である。泰明よりも年上の三十九歳。出世もこれからという叔父である。性格は温厚であるが、無口で仕事の話もあまりしない。東宮の健康状態も診察日誌を見ない限り知る事が出来ないくらい何も話さないのだ。

「叔父上、最近五条邸に毎日のように行かれますが、東宮が何か・・・?」
「ああ、泰明殿か・・・。ちょっとお風邪を召されたのかもしれない。毎日嘔吐を繰り返されるのですよ。熱はないが・・・。」
「嘔吐に熱がないか・・・。本当に風邪ですか?」
「たぶん・・・。」
「他の症状は?」
「食欲もない。薬湯をお召し上がりになることも出来ない。詳しくは日誌を見てくれないか・・・。私はもう帰るから・・・。」

直安は東宮の日誌を見るとある程度の診察内容が書かれている。これだけの内容では東宮の病状がわからない。皇族一家の日誌を持ち帰ることは禁止されているが、荷物に忍ばせて邸に持って帰る。泰明は束帯を着替えず、夕餉も食べないで泰明の部屋に医学書などを持ち込んで部屋に籠もる。

「泰明、夕餉は?」
「彩子、いらない。ちょっと気になる事があってね・・・。調べものが・・・。」

仕事を持ち帰る事が滅多にない泰明を見て彩子は不思議に思う。彩子は心配になり、女房に泰明の夕餉をこちらに持ってくるように命じ、彩子は泰明の側に座る。

「何か食べないと体を壊します。いつも泰明は何かに集中すると食事も摂らないのですから・・・。さあ、食べて・・・。」

泰明は邪魔されたことに腹を立て、立ち上がると持ち帰ったものを包んで彩子に言う。

「ここでは落ち着かないので典薬寮に行ってきます。今夜は帰らないよ。」
「泰明!」

いつも温厚な泰明が見せた苛立つ姿に彩子は驚き、引き止める事が出来ずに泰明を見送った。彩子は読み散らかした医学書を片付けると、ある日誌に気が付いた。泰明は間違えて違う日誌を持っていったようで、忘れていったのだ。彩子は中身を確認するとその日誌はここ最近の東宮の診察日誌だった。彩子はある程度の医学用語を知っているので、東宮は病気である事がわかった。

(泰明はこれで苛立っていたのね・・・。でも泰明は東宮担当ではないはず・・・。しかし東宮が・・・病気だなんて・・・。)

「誰か、車を出してくれないかしら・・・。殿が大事なものをお忘れになったから・・・。今から届けるわ・・・。」

彩子は日誌を包み、身支度を整えると、車に乗り大内裏に向かった。大内裏の門で車を降りると、従者の案内で典薬寮にたどり着く。典薬寮に着くと、役人達は彩子のことをどこかの女房で誰かの使いだと思って、扱う。

「あの・・・侍医和気泰明様は?」
「ああ、突き当たり左を曲がって一番奥の部屋だ。今在室中である。しかし今取次ぎ無用と・・・。」
「ありがとうございます。」

もちろん典薬寮の役人達は彩子を泰明の妻であることに気づかないどころか、彩子の美しさに見惚れる。

(おい見たか、あの女。)
(和気様の使いの者か?)
(それにしても美しい女房だな・・・。)

彩子は礼を言い微笑むと、いわれたとおりの部屋の前に立ち扉を叩く。すると泰明の声がする。

「何?取次ぎは断れといったはず。」
「私・・・。」

泰明は声に驚き、慌てて扉を開けて彩子を部屋の中に入れる。そして誰も見ていないことを確かめ、部屋の鍵を閉める。

「さ、彩子・・・。なぜここに???」
「泰明、忘れ物よ。これってあなたの担当外の東宮日誌でしょ。慌てて邸を出て行ったから、間違って持って行ってない??」

彩子は日誌を泰明に渡すと、じっと泰明を見つめて座る。


「さっきはごめん、急に邸を出て怒らせてしまったようだね・・・。しかし突然ここに来るなんて・・・。誰かに使いを出せばいいものを・・・。」
「このように大事なものを他のものに託せますか?私がここに持ってこないと・・・。」
「でもあなたは私の北の方だよ。このようなところに来たら・・・。変な輩が多いしね・・・。」
「みんな私のことを泰明の女房と思っているはずよ。だから衣装も女房のを借りてきたのよ。」
「こんな夜にありがとう感謝するよ。もしかして中身見たの?」

彩子はうなずく。泰明は人の気配を感じ彩子を黙らせ、そっと部屋の鍵を開けて扉を開けると数人の典薬寮の者が泰明の部屋の様子を伺っていた。

「あなた方は何?やましい事はしていませんよ。丁度私の妻が大事な忘れ物を届けてくれただけだから、もう下がりなさい!」

典薬寮のものは驚いて自分の持ち場に戻って行った。彩子は笑いがこみ上げてきて我慢が出来ない様子であった。泰明は再び周りを見回し、部屋の鍵を閉め苦笑して文机の前に座る。

「あの者たちはまだ独身の者達だらけだからね・・・。色々女を物色している節がある。典薬寮は女医が出入りすることもあるけれど、若い女はいないからね・・・。たまに使いで来る若い女を見ると目の色が変わってね・・・。調べ物が終わるまでここにいなさい。危ないから・・・。」
「うん・・・。」

一生懸命調べ物をしている泰明の傍らで、彩子ははじめて自分の夫の仕事場を眺める。小さな部屋だが、泰明の仕事用の道具や書物、そして着替えなどがきちんと整理しておいてある。彩子は厨子に置いてある文箱に気が付く。

「泰明、これ見てもいい?」
「なに?ああ、それねいいよ、興味ないから処分してもらっていい・・・。」

文箱を開けると泰明にあてた女官達や女医たちからの恋文が入っている。女官の中には知っているものの名前も含まれている。

「ふうん・・・泰明ってもてるんだ・・・。」
「さあね。他のものに言わせると、皆私の愛人の座を狙っているらしいが、私は興味がないからね。だいいち愛人を持つほどの甲斐性はない。処分しても処分しても一晩でそれくらい入っている。前はいちいちお断りしていたが、今は面倒でね・・・そのままにしているんだ。」

彩子は暇つぶしに一つ一つ呼んでいく。中には微笑ましい内容の歌や、しつこそうなもの、様々な内容の文があり、彩子は暇をつぶすことが出来た。度々泰明が溜め息をつくたびに彩子は調べ物の内容が気になり、泰明に聞いてみる。

「東宮は病気なの?」
「たぶんね・・・。東宮の主治医は感冒だというが、なんだか気になる。それで症状と医学書を照らし合わせて色々な可能性を考えているんだ。主治医である叔父上の手前、何かない限り勝手に私が診ることはできないからね・・・。私は帝一家の担当だし・・・。彩子、気になる?東宮はあなたの子だもの・・・。」
「・・・。」
「熱がないのに嘔吐するのが気にかかる。感冒や食あたりならいいが・・・一番私が診察するのが確か・・・。でも勝手に出来ないから・・・。まあ明日にでも叔父上に聞いてみるよ。さあ、もういい。彩子帰ろう・・・。なんだかお腹空いた。邸に戻ったら何かある?」
「もちろん、置いてあります。泰明は何かに夢中になると寝食を忘れるから・・・。」
「そうだね・・・早く帰らないと泰大がお腹をすかせて泣いているよきっと・・・。」

泰明は着ている束帯を脱ぎ、あこめを脱ぐと、彩子に被せる。そして束帯を着なおし、帰りの準備をする。

「それを被って帰りなさい。あなたはれっきとした殿上を許されている侍医の妻だし、元女御。顔を見せていい身分ではない。さあ、帰ろう。」

泰明は自分の部屋の明かりを消し、彩子と共に典薬寮を出る。そして朱雀門に止めてある車に乗り込むと、一緒に邸へ向かった。

「彩子、わざわざ届けてくれてありがとう、あの日誌は持ち出し禁止なんだ・・・。あのまま邸にあればえらい目に遭うところだった・・・。東宮のことは叔父上と相談して何とかするよ。だから安心して・・・。」

泰明は彩子を抱きしめて邸まで戻る。

次の日やはり昨日の彩子のことで噂がいっぱいで、泰明が出仕してくるなり、質問攻めに合う。

「和気殿、昨日麗しい女を部屋に連れ込まれたそうだが・・・。」
「そうそう、とても美しい女だと聞いた・・・。」

泰明は苦笑して言う。

「あれはわたしの妻ですよ。忘れ物を届けにわざわざ・・・。」
「そんなことはないだろう・・・。侍医殿の北の方は元女御様だぞ。こちらへ平気に来ることは出来ないだろう・・・。やはり女を・・・。」
「ですから、私の妻ですってば・・・。私は妻以外興味がありませんから!」

みんなは呆れて言う。

「はいはい・・・そうでしたね・・・。今回はそうしておきましょう・・・。次はありませんよ・・・。」

泰明は黙り込んで自分の部屋に入っていく。そして昨日借りた東宮の診察日誌を返しに叔父の和気直安のもとに行く。

「叔父上、これ、ありがとうございました。これを見た限り感冒だと思いますが、まだちょっと腑に落ちないところが・・・。」
「侍医殿、私が誤診だとでも言うのですか?」
「いやいや・・・。感冒だと決め付けるのはどうかと思うのです。食あたり、胃腸炎、そして最悪の場合は毒。毒を盛ったとか言うのではなく食品の組み合わせによっては毒になることもございます。あの、今日の診察は私が代わってもいいでしょうか?」
「別に構わないが、感冒に間違いないと思うよ。気が済むまでやればいいと思いますが。まああなたはこの私よりも優れているから・・・。今日交代すると伝えておくよ。」
「ありがとうございます、叔父上。」
「いいよ、今日はゆっくり出来るから助かる・・・。」
泰明は帝の朝の健康診断を済ませ、直安にいつもついている助手を連れて、五条邸に入った。右大臣に挨拶を済ますと、東宮のいる部屋に通され、東宮を診察する。やはり見た目は感冒のような症状であったが、なんだか違う。もう一度脈診からやり直し、お腹を触診したりしてみる。

「あの、申し訳ありませんが、東宮様の膳の記録はありませんか?体調を崩された少し前のものから・・・。」

泰明は食事の記録を受け取ると、じっくりと食事内容を見る。一見普通の膳のように見えるが、やはり引っかかる。食事の記録と症状の記録を照らし合わせると、符合する点がいくつかあった。やはり食事の食べあわせからきているようであった。健康であればあまり害のないものであっても、体調の悪いときに食べてしまうと中ってしまうのである。泰明は処方箋を書き、助手に処方箋どおりのものを作らせる。助手は不思議そうな顔をして処方箋どおりのものを小さな壷に入れて持ってくる。

「これを朝昼晩によくかき混ぜたあと、一さじずつ東宮にお与えください。これは蜜に薬を混ぜたもの。この蜜はお腹の調子を整え、苦い薬の味を和らげ、飲みやすくしてくれます。まだ小さな東宮様にはこれを・・・。これならきちんと薬を飲んでいただけるはず・・・。必ずよく混ぜてください。」
「で、何が原因なのですか?」

小宰相が泰明に問うという。

「主治医の言うとおり、感冒ですが、感冒でお体の調子を崩され、普段なら大丈夫な食べあわせを調子の悪いときに食べたことによる食あたりのようなもの・・・。先に感冒を完治させるときっと嘔吐されたり下されたりすることはなくなるでしょう。この頃の子供は内臓が弱くこのようなことがあります。ですので、ご安心を・・・。」

泰明は薬を一さじすくうと、東宮の口に運ぶ。東宮は喜んで薬をなめる。東宮はもっととせがんだが、泰明が言い聞かせてやめさせる。

「東宮さま、これは一さじずつです。いいですね。東宮様は賢い方だから、わかりますね。」

東宮はうなずくと、また横になり休む。泰明は微笑んで、東宮に頭を下げ、退出する。部屋から出た後で、彩子の妹であり、東宮の乳母である幸子が泰明を呼び止める。

「泰明様。お久しぶりです。お姉さまはお元気ですか?最近若君をご出産されたとか・・・。」
「はい。とても元気ですよ。」
「あの、お姉さまはいつ東宮様に会って頂けるのかしら・・・。」
「私からも聞いておきます。しかし臣下の妻が東宮に面会は・・・。」
「そうですわね・・・。お姉さまはもう東宮様の母君様としてお会いになれないのですもの・・・。おかわいそうに・・・。お姉さまによろしくと・・・。」
「わかったよ。いっておく。東宮様の薬の件頼みましたよ。一日三回一さじです。」
「はい。ではまた会えるといいですね・・・。」

泰明は会釈をすると、五条邸を去っていった。

典薬寮の入り口では珍しく和気直安がそわそわしながら泰明の帰りを待つ。泰明の姿を見かけると、急いで走ってくる。

「侍医殿、いかがでしたか?もしかして誤診でしたか?」

泰明は微笑んで言う。

「誤診ではありませんでした。」
「そう・・・良かった・・・。」

和気直安はほっとした表情で泰明の後ろを歩く。

「詳しくは私の部屋で・・・。」

泰明は和気直安を部屋に招きいれ、直安から東宮診察日誌を受け取ると、診断結果と処方、今後の治療方針を書きとめた。そして書きとめながら、東宮の病状と処方について詳しく説明し、今後の治療方針を告げる。そして泰明は自分の書物立てから自分の診察記録を取り出して、直安に見せる。

「年下の私が叔父上に申し上げるのは心苦しいのですが、診察日誌はこのように書くようにしてください。東宮の日誌を見た限りわかりにくい点が多々ありましたので・・・。これでは引継ぎが・・・。その診察記録をお貸しいたしますので、参考にしてください。大学寮等の医師養成施設でもこの様に教えましたから。」
「しかしこのようなものを借りては・・・。」
「いや構いません。その中身はすべて頭に入っています。返すのはいつでも構いません。叔父上の腕は確かです。自信をお持ちください。」

直安は診察記録を抱きかかえて泰明の部屋を退出する。泰明は診察記録を取り出し、新しいページに東宮の診察記録を書き記す。今日は呼び出しもなく定時になると荷物を整えて退出していく。邸に戻ると、彩子が待ち構えていた。

「珍しいね・・・。ここで彩子が待っているなんて・・・。」
「ちょっと気になって・・・。」
「東宮のこと?」
「うん・・・。」
「診察したよ。大丈夫・・・。感冒と、食あたりだから。そうそう、彩子の妹君に会ったよ。彩子に会いたがっていた。」

泰明は荷物を彩子に渡すと、微笑みながら彩子と共に寝殿に入っていく。

「彩子、東宮に会いたくなった?随分大きくなられたよ。驚くほど帝に似てこられた。いずれ帝は東宮を自分の子として親王宣旨をされるかもしれないね・・・。未だ東宮以外はお子様がおられないことだし、本当に複雑だよ・・・。私は帝と東宮の秘密を知っているからね・・・。彩子も覚悟しておいたほうがいい・・・。」

彩子は複雑な表情で泰明を見つめた。


《作者からの一言》
これは番外編のようなものです。
ホントになくてもいい内容ですね^^;
ただ彩子が典薬寮に突然訪問するって言うのを書きたかっただけですから^^;
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