4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

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第126章 晩秋の頃
 忙しかった夏が過ぎ、気候の良い秋になった。泰明の若君は小さく生まれながらも、病気ひとつすることなく、元気に育っている。彩子はふとあることに気づく。泰明は若君をたいそう可愛がるのだが、今まで抱き上げた事がない。

「泰明、泰大をいつになったら抱いてくれるの?」
「ああ、いずれ・・・。」
「生まれてから一度も抱いた事がないじゃない・・・。どうして?」

泰明は苦笑していう。

「忘れたの?私の腕のこと・・・。」

そういえば彩子は忘れていた。彩子が女御時代に大和国で賊に襲われ腕に重傷を負い、左手が不自由になっていたことを・・・。何とかしようとして典薬頭が治療を試みたが、癒えることはなく、物を持つときなどは右手ばかり使っている。身内以外はこのことを知らないので気づくものはいない。

「泰明・・・ごめんね・・・すっかり忘れていた・・・。」
「ん?いいよ。今まで誰にも悟られないようにしていたから・・・。医師として致命傷だからね・・・。」

彩子は泰大を抱き上げて、脇息にもたれて座っている泰明の前に座る。

「右手で支えればいいんじゃないの?左手は添えるだけでいいのよ。そういうところに気づかないのね・・・。」

彩子は泰大をそっと渡し、抱かせてみる。泰明は恐々膝の上に泰大を乗せて右腕で頭を支え、左手を添えた。

「ほら、これでいいのよ。泰大、お父様に抱いていただけてよかったわね・・・。」

泰明は微笑んで、感覚の弱い左手で泰大の頬を触わる。泰大はじっと泰明を見つめて、時折笑う。いつの間にか泰大はスヤスヤと眠っており、彩子はそっと泰明から抱き上げて、泰大付きの女房に預ける。

「本当にいい子でしょ。あまり手がかからないのよ。」
「うん・・・。いい子だ。」

彩子は泰明の左手を自分の頬に当てて言う。

「この手は私をかばってなってしまったのよね・・・。」

泰明は彩子を引き寄せて抱きしめる。

「いいんです。彩子が無傷で済んだのだから・・・。彩子のためなら命を捨てても良かったからね・・・。左手はまったく動かないわけではない。ただ力が弱いだけ・・・。」

二人はそのままの状態で一時間ほど過ごした後、泰明の従者が声をかける。

「申し上げます。本邸より使いが参りました。」
「何?」

彩子は泰明からはなれると泰明の側に控える。。

「いいよ近くに・・・。」

従者が泰明の前に座り、耳元で言う。

「何!伯父上が???今すぐ行くと伝えてくれないか。すぐに馬の用意を。」
「は!」

泰明は立ち上がって、診察道具を抱える。

「彩子、伯父上が倒れた。今すぐ行ってくるから、彩子は車で後から来なさい。」

泰明は従者の用意した馬に飛び乗ると急いで本邸へ向かった。彩子は身支度を整え、泰大を置いていけないため泰大と女房を連れて和気家本邸に行く。彩子は女房に泰大を預け、別室に控えさせ、泰明達のいる寝殿に向かう。典薬頭の周りには泰明をはじめ、典薬頭の兄弟、姉妹、家族、師弟の者たちが取り囲んでいる。泰明は典薬頭に治療を施すと、溜め息をついて、振り返り彩子に気が付く。泰明は立ち上がって、彩子のほうにくると彩子を表のすのこ縁に連れて行く。

「泰大を連れてきましたか?」
「はい・・・。」
「今意識を取り戻されたが、今夜が山だろう・・・。まだ泰大を御見せしていない。顔を合わすたびにみたいみたいと言っておられたからな・・・。こちらに連れておいで。」

彩子は控え室に戻って泰大を抱き連れてくる。泰明は彩子を誘導して典薬頭の前に座り、頭を下げる。

「伯父上、泰大にございます。さ、彩子・・・御見せしなさい。」

典薬頭は北の方に支えられて、うっすら見える泰大を見つめる。丁度泰大は起きており、典薬頭の顔を見て笑った。

「泰大、お爺様ですよ・・・。お抱きになられますか?」

典薬頭はうなずき、泰大を抱いてみる。泰大は指を吸いながら、じっとして典薬頭を見つめている。

「彩子姫、いい子をお産みになられた。きっと泰明のような立派な医師になるであろう。」
「お褒め頂きありがとうございます。」

典薬頭は彩子に泰大を返すと、再び横になる。そして嫡男である泰明に言葉を残す。

「泰明、お前は和気家代々の中で一番の天才だ。もうすでにこの私を越え、競えるものはいまい。本当にお前は弘法大師の再来のような男だよ。たった四年で宋の医術を身につけてきよった・・・。私が亡き後はお前が当主となり、みなの指導を頼んだよ。あと、泰大を立派な医師に・・・。」
「伯父上、あまりしゃべらず・・・。お休みください。」

典薬頭はそのまま目を閉じ深い眠りにつく。意識が戻らないまま、泰明はずっと側に控え夜明けを迎える。

「そろそろ出仕の時間だ・・・。和気家のみ抜けるわけにはいかない。手が空いているものから出仕しなさい。何かあれば使いを出すから・・・。」
「侍医様は?」
「こういうときだ、他の侍医に帝の診察を頼んでくれないか・・・。直安殿、今日は助殿が宿直されているはず。早く行って事情を説明し、伯父上と私の勤務表を他の者と差し替えるよう・・・。帝にはまだ伯父上が倒れたことは伝えなくていい。当家の私用と伝えてほしい。」
「わかりました。」

泰明は和気家一門の者に指示を飛ばすと、典薬頭の側に座る。彩子も泰明の後ろに座ると泰明は彩子に言う。

「彩子、邸に帰りなさい。蘭も寂しがっているだろう・・・。何かあったら使いを出すから・・・。」
「でも・・・。」
「いいから・・・。また誰かと交代するし・・・。」
「寝食を必ずしてね・・・。」
「わかっているよ。」

彩子は泰明の言うとおり邸に泰大を連れて戻っていった。泰明は昨日から一睡もしていないので、座りながらウトウトしていると後ろに誰かが近寄り、泰明に単をかける。

「ん?」
「泰明様、お風邪を召しますわ。」
「治子姫・・・。」

典薬頭の末娘治子は父親の病を聞き、やってきたのだ。泰明は微笑んで礼を言うと、黙ってじっと典薬頭の側に座る。

「泰明様、お父様の容態は?」
「この私でも手の施しようがありません・・・。お歳を召しておられるし・・・。」
「そう・・・。泰明様、私が交代します。私も和気家に生まれた娘。少しくらいの知識は・・・。丹波家に嫁ぎましたし・・・。」
「そういえばそうですね・・・。では一時程休ませていただきます。何かあれば呼んでください。」

泰明は交代前に、典薬頭の脈を取り、病状を確かめると治子と交代して隣の部屋で横になる。やはり気になってか熟睡は出来ず、元の場所に戻ると治子と変わってまた看病をはじめる。夕刻になると続々と出仕を終え一門の者達が戻ってくる。

「泰明殿、兄上はどうかな・・・。」
「叔父上・・・。良くもなく悪くもなくって感じですね。相変わらず意識は・・・。」
「そうか・・・。今晩は私が・・・。泰明殿は休んだほうがいい。食事もまだだろう・・・。ここにいるものは皆医師だから安心だよ。」
「ではお言葉に甘えて・・・。」

泰明は立ち上がって別室で夕餉を摂り、脇息にもたれかかると、治子が入ってくる。

「泰明様、お着替えをお持ちいたしました。お手伝いいたしましょうか?」
「いいよ自分で出来るから・・・。そこに置いておいてくれないか・・・。」
「でも・・・お疲れのご様子・・・。」
「では少し頼もうかな・・・。」

泰明は狩衣を脱ぎ、小袖も着替えると、治子は恥ずかしそうな顔をして単を羽織らせた。治子は泰明の脱いだものをきれいにたたみ、部屋の隅に置いた。

「治子姫ありがとう。もういいよ。あなたに女房のようなことをさせてしまって悪かったね・・・。」
「いいえ。ところで北の方様は?」
「朝帰らせたよ。泰大や蘭がいるからね・・・。こちらにいても邪魔になるだけだし。何かあれば呼び寄せるから・・・。じゃ、何かあれば起こしてほしい・・・。」
「はい・・・。」

泰明は用意された寝所に入り横になる。治子は泰明の寝所の前に座り、溜め息をつく。治子は泰明を未だに慕っている。側に想い人がいるのにも関わらず、何も出来ないもどかしさが治子を苛立たせる。

(お父様がああでなければ、泰明様の寝所に入るのだけど・・・。)

泰明は治子の気持ちなど知らないまま、ぐっすりと一晩休んだ。何もないまま夜が明け、泰明は覚める。ずっと治子は泰明の寝所の前にいたようで、座りながら寝ている。治子は泰明が起きたことに気が付くと、慌てて座りなおす。

「泰明様、お目覚めになられましたか?」
「んん・・・。伯父上に変化はなかったようだね・・・。ずっとここにいたの?」
「はい、何かあれば泰明様を起こさないといけませんので・・・。あ、お着替えのお手伝いを・・。」

泰明は寝所を出ると、治子の前に立つ。その時部屋の表で声がする。
「泰明、着替え・・・を・・・。」

彩子は着替えの入った包みを部屋の中に置くとしかめっ面でその場を立ち去る。

「彩子!」

泰明は慌てて単を羽織り、烏帽子を被ると、彩子を追いかける。

「彩子待って。」
「治子姫とそういう関係だったの?治子姫はあなたの部下に嫁いだ姫でしょ。いくら従兄妹とはいえ・・・。こんなときに・・・。」

泰明は彩子を引き寄せ抱きしめる。

「誤解だから・・・。ただ治子姫は着替えの手伝いをしてくれるだけ・・・。わかっているだろ。私の手ではきれいに着られない・・・。いつも誰かに手伝ってもらっているだろう。典薬寮でも着替えるときは従者に手伝ってもらっているし・・・。ましてこのようなときに・・・。彩子、今から交代しないといけないから、着替えるのを手伝ってよ・・・。」
「さあどうだか・・・。泰明はモテるのだもの・・・。」

泰明は溜め息をついてとりあえず彩子の手を引き部屋に戻る。すでに治子は下がっており、泰明は彩子を座らせて自分も彩子の前に座り溜め息をつく。

「結婚前に約束したでしょう・・・。彩子以外妻はいらないと・・・。前も典薬寮の部屋で言ったよね。彩子以外の女には興味がないと・・・。どうして最近の彩子は疑り深いの?一昨日の夜の泰大のことといい・・・。もういいから着替えるのを手伝ってよ・・・。」

彩子は渋々泰明に持ってきた狩衣を着付け、彩子は泰明と目を合わさないまま泰明を送り出す。泰明は彩子の態度に気になりながらも、典薬頭の看病を和気家の者と代わる。泰明が代わった途端典薬頭は危篤状態となり、和気家一門を集め、泰明は治療を施す。すると北の方が、泰明の治療の手を止める。

「泰明殿、もういいのです。延命治療をしても、主人は苦しいだけ・・・。もう助からないのですから、このまま静かに逝かせてあげて下さい・・・。皆さんもいいでしょう・・・。思ったよりも長く生きられたのですから・・・。泰明殿、あなたには感謝しております。そして皆さんにも・・・。主人に皆さんの一生懸命さは伝わっているはずです・・・。お願いします。このまま・・・。」

泰明は治療道具を片付けると、典薬頭の手をとり、脈を診る。だんだん脈は弱くなり、脈が当たらなくなった。泰明はそっと典薬頭の両手を胸元に重ねると、北の方に頭を下げる。

「伯父上は眠るように息をお引取りになられました・・・。私は邸に戻り、身を清め、穢れを落としてから参内し、典薬寮や宮内省、帝へ報告に行ってまいります。その後、すぐにこちらに戻り、葬儀について皆さんと・・・。」
「わかりました。後のことは次期当主である泰明殿にお任せします。はやく・・・。」

泰明は彩子と共に邸に戻り、身を清めてから彩子の用意した薄墨色の喪服に冠をつけて参内の用意を整える。泰明は彩子に喪に服す準備をするよう頼むと彩子は女房達に邸中の調度類を喪用に変更させる。

「彩子、内裏から戻ったら即本邸に行くから当分帰れないと思うけれど、こちらの邸は女主人である彩子に頼んだよ。」
「はい・・・。」

泰明は急いで車に乗り込み、参内する。まずは身内の不幸のため、清涼殿の庭で御簾越しに帝に報告をし、帝からお悔やみを賜ると、宮内省、典薬寮、式部省に報告に回る。邸に戻ると邸はすべて喪中色に改められ、彩子をはじめ、女房達も喪服に着替えている。彩子は泰明のために数日分の着替えを用意し、泰明の従者に渡す。


《作者からの一言》
ついに泰明の一番の理解者である伯父典薬頭がなくなってしまいました。このことにより徐々に帝の計画が始動します。でもまだ次は番外編です・・・。典薬頭の若い頃の話があります^^;もちろん泰明の父君も出てきます。
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