4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

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第128章  康仁帝の彩子略奪計画
 泰明が本邸に葬儀の準備のため行ったまま帰らない日、彩子は喪に服しながらひっそりと別邸にて過ごしていた。ずっと父である泰明と会っていない蘭は情緒不安定のようで、なかなか夜も眠れないようだ。

「お父様はいつ帰ってくるの?ねえお母様。」
「お爺様の葬儀が終われば戻ってくるわ・・・。お父様は和気家を取り仕切らなければならないので、お忙しいのよ。」
「宋のお爺様がなくなったときも同じ・・・。なかなか帰ってこなかったの・・・。お父様はお爺様のお医者様だったから・・・私あの時一人でおうちにいたの・・・。でも今回は違う・・・。お母様がいるもの・・・。」
「まあ、蘭姫・・・。」

彩子は蘭を抱きしめる。彩子は蘭を寝かしつけると、自分の部屋で、泰明の葬儀用の衣装を調える。

「北の方様、頭中将様がおいでなのですが・・・。」
「頭中将様?」

頭中将とは帝の側近中の側近である源博雅である。たぶん泰明の用事で見えたのであろうと、寝殿に通す。彩子は身を整えて、寝殿に行く。

「頭中将様、ただいま主人は葬儀の準備のため本邸に行っておりますが・・・。何か?」

博雅は微笑んで言う。

「わかっております。私は帝の使いで参りました。帝はただいま二条院にてお父上様であられる中務卿宮様と面会中でございます。内裏を出たついでにこちらに訪れ、お悔やみを申し上げたいと仰せです。」
「しかし主人は・・・おりません・・・。」
「ここだけの話、帝はあなたに会いたいと仰せでして、なにか伝えたい事があると・・・。侍医和気殿を呼ぶことは無用。もちろん和気家の喪中ですし、帝もお忍びですのでお気遣いはいりません。」
「帝には会いたくないのです・・・。」
「これは帝のご命令です。まもなくこちらに参られると思います。お迎えの準備のほうを・・・。では失礼します。」

そういうと博雅は立ち上がって邸を立ち去る。彩子は念のため、本邸の泰明宛に文を書き、家のものに急いで持って行かせた。彩子は帝を迎える準備を女房たちにさせる。慌しくしている間に客人が到着したと家の者が伝えに来る。家の者は客人を彩子の待つ寝殿に通し、帝は上座に座る。彩子は頭を下げたまま、早く泰明が到着しないかと願う。もちろん泰明は文を受け取ると慌てて邸に戻る支度をする。帝はじっと頭を下げ続けている彩子を見つめる。

「彩子殿、頭を上げられよ。お久しぶりです。あの日からあなたはこの私に目さえあわせてくれませんでした・・・。もちろんあなたにはとてもひどいことをしてしまった・・・。このような機会ではないとあなたとこうして会うことなど出来ないでしょう。」
「恐れながら、会うつもりなどありませんでした・・・。これからも・・・。」

帝は目を合わそうとしない彩子の側によると、手を握り締めて言う。

「そのような悲しいことを言わないでください。一時はあなたを母のように慕い、そして恋心を抱いた。あなたが父上の妃でなかったら、あなたを何とかして入内させていたでしょう・・・。でも今は違う・・・。」
「え?」

彩子は帝の手を振り払い立ち上がる。さらに帝は彩子に詰寄りいう。

「東宮が生まれ、今まで満足だと思っておりました。しかし最近あなたの夢をよく見る。侍医殿に嫁がれてから、お幸せなのでしょうね・・・。さらに美しくなられました・・・。その喪服姿がなんとも・・・。」

彩子は危険を感じ、じりじりと後ろに下がる。

「帝、なにを・・・・?」
「今日はただ私の意向を伝えに来ただけですよ。お座りください。」
「意向とは?」

彩子はまだ疑った様子で帝を見つめる。帝も彩子に詰め寄るのを辞めて座りなおす。そして改めて彩子に言う。

「私にはあなたが必要です。私の皇子である東宮を産んでいただいたあなたが・・・。私は東宮を正式に私の実子として親王宣旨します。そしてあなたを東宮の生母として、そして私の皇后として迎えたい・・・。もちろん和気殿と離縁していただかないといけないが・・・。」
「ご冗談を・・・。私は和気泰明の妻です。今も、これからもずっと・・・。お断りを・・・。」
「和気は私の臣下です。私の意向に従わない者など必要ない。どういうことかわかりますね、彩子殿・・・。もちろん従うのであれば、空席の典薬頭、いやそれ以上の官職を、そして今よりも高い位階を・・・。和気家も安泰でしょう・・・。」
「主人は官位に目のくらむような者ではありません!」
「和気殿はそうかもしれないが、典薬頭亡き後、当主になればそのようなことを言ってられませんよ。一門すべてに害が及ぶのだから・・・。」

彩子は自分の決断ひとつで泰明や和気家の将来に関わる重大なことであることに言葉をなくし、気を失いそうになる。

「返事は喪が明けるまで待ちます。十分和気殿と相談して決めることです。私はあなたが入内されることを待っております。」

帝は立ち上がって、退室すると、ちょうど表で青ざめた泰明と出会う。泰明は帝に頭を下げると、帝は泰明に言う。

「聞こえていたのだろ。私の意向はちゃんと彩子殿に伝えたから二人でゆっくり相談すればいい・・・。」

帝は立ち去り、泰明の従者が車まで送る。泰明は彩子のもとに詰め寄り彩子を抱きしめる。

「やはり帝はこのような時を狙っておいでであったか・・・。帝のご意向を断ることなど出来ないことをしっていて・・・。いつまでたってもご寵愛の安子様が立后されないと思っていたらこういうことであったか・・・。ああ、なんという事を・・・。」

彩子はショックのあまり、声も出ず放心状態のまま、泰明に抱きしめられている。

「彩子、しっかりして・・・。」

彩子は正気を取り戻すと、泰明の胸の中で泣き叫ぶ。泰明は二条院に面会を求める文を書き、従者に渡す。折り返し二条院から返事が来ると、泰明は狩衣から喪中であるので薄墨色の袍袴に着替えて彩子とともに二条院を訪れる。二条院の寝殿に案内されると、帝の父である中務卿宮が迎え入れる。

「どうかしたのですか?和気家の葬儀の前日であり、二人揃っての面会とは・・・珍しい・・・。相談があると聞いたが・・・。」

尋常ではない彩子の様子に中務卿宮は驚く。泰明は先程の帝の意向について包み隠さず話し、意見を仰ぐ。中務卿宮もたいそう驚き、言葉を詰まらせ、少し考えていう。
後二条院
「もちろん帝の意向は絶対です。問題は大臣達がどう思うかだと思います。もちろん東宮が帝の子であることは内大臣、右大臣は知っていることだが、だからといって彩子姫を立后させてもいいとは限らない・・・。まして今は右大臣家の養女ではなくなり大和守の姫として和気家に入った身・・・。身分から言って無理だ。帝のことであるからまた右大臣に言い寄って養女にするのであろうが・・・。しかし臣下の妻を立后させるとなると・・・。今日、こちらに相談があるとやってきた。内容は新しい姫を入内させて立后させたいというものであったが・・・・。それが彩子姫のことであったなんて・・・・。帝は一度言うと頑として引き下がらない性格である・・・。私が何を言おうとも、聞き入れないだろうね・・・。」

中務卿宮はとりあえず明日出仕し、意向の真意を確かめることを約束したが、この意向が真であれば、従うしかないと言い放った。

「すまないね・・・やっとあなた方が幸せに過ごしているというのに・・・。宣旨が下れば、もうあなた方は離縁しないといけない・・・。私も心苦しいよ・・・。」

二人は暗い表情で、邸に戻った。泰明は明日の葬儀のため、うなだれながら本邸に戻っていった。彩子も一晩中泣き叫けんだ。泰明は無事に葬儀を済まし邸に戻ると、数日間休みを取る。彩子はストレスからか、泰大に与える乳がまったく出なくなった。泰明は疲れた体に鞭をうって、泰大のために乳母を用意し、泰大は慣れない人の乳に抵抗したが、何とか飲んでくれるようになり女房たちは安堵した。

 年が明け、和気家の喪が明けると、臨時の除目が行われた。まだ返事をしていないにも関わらず、泰明は典薬頭に任命され、位階も従五位下から正五位下に格上げされる。返事をする前にもう内々的に決まっているといってもいいだろう。いつものように泰明は彩子に束帯を着付けてもらいながらいう。

「今日帝に返事をしようと思う。もちろんお断りするわけにはいかない・・・。彩子には大変辛い目に会うと思うが、わかって欲しいんだ。和気家の者たちの生活がかかっている。和気家当主としてお断りするわけにはいかない・・・。すまない・・・彩子・・・。」
「わかっています。その気持ち痛いほど・・・。私は我慢します。」
「離縁しても心はひとつ・・・。私は彩子と離縁しても他の妻を娶るつもりはないよ。彩子が後宮から戻ってくる日まで待ち続けるから・・・。私には彩子との愛の結晶である泰大がいる。遠くから彩子を見守っているよ・・・。」

彩子はうなずくと着付けたばかりの泰明の束帯に飛び込む。泰明は彩子を時間ぎりぎりまで抱きしめた。

「じゃ、行って来るよ・・・。」

いつものように彩子は泰明の荷物を渡し、手を振ると、その場に座り込んでしまった。

 泰明はいつものように帝の朝の診察のため、殿上する。今日はいつもと違ってすぐに御簾の中に入らず、じっと御前のすのこ縁で座って帝を見つめている。

「典薬頭殿、どうなされましたか?」

泰明は大きく深呼吸をして御簾の中に入ると、頭を下げ帝に言う。

「帝の意向、承知いたしました。あとのこと、よろしくお願い申し上げます。」
「んん・・・。泰明殿、懸命である。一刻も早く姫を中務卿宮家に移すよう。いいね・・・。」
「御意・・・。」

泰明はじっと下を向いたまま、握り締めた手を震わせ涙を流す。

「早く診察を・・・。」
「はい・・・。」

泰明は袖で涙をぬぐうと、帝に目をあわすことなくいつものように診察をする。帝は勝ち誇ったような目で泰明を見つめている。診察を終えると、典薬寮に戻り自分の部屋に籠もる。いつものように帝の日誌に書き込もうとするが、目に涙があふれ、なかなか書く事が出来なかった。

「典薬頭様、中務卿宮様がお見えですが・・・。」

泰明は筆を置き、あふれる涙を袖でふき取る。

「んん、お通ししなさい。」

泰明は文机の前を整理すると、中務卿宮が入ってくる。泰明は立ち上がり、宮を上座に座らせると、頭を下げ挨拶をする。宮は苦笑しながら言う。

「典薬頭殿、気を使わなくてもいい・・・。先程正式に返事をしたそうだね・・・。帝もたいそう喜んで入内の準備をするよう命を受けたよ。なんと言うか・・・。帝の父として、心苦しい限り・・・。泰明殿!」

中務卿宮は泰明に対して土下座をし謝罪する。

「宮様そのようなことをされては困ります。頭をおあげください!」
「いや、私が帝を甘やかせ過ぎたのです。群臣もこのことでたいそう帝に対し、いい顔をしていない。乱心であるという者もいる。本当に申し訳ない!まだ一緒になり一年と少ししか経っていないのにも関わらず、この様になるとは・・・・。立場上従う事しか出来ない泰明殿になんとお詫びを・・・。」

いつまでたっても宮は土下座したまま、時間だけが過ぎていく。

「宮様、帝になぜ二条院に移せといわれたか意味が・・・。」
「それは・・・。右大臣殿は高齢の為養女の件を丁重に断ったのです。それでなくても安子が女御として入っているから・・・。だから私が彩子姫を引き受けたのだ。今までの間なんとかしようと思ったが、出来なかったお詫びのようなもの・・・。だから彩子姫は私の養女として入内することになった。元妃を養女に迎えるというのはおかしな話だけど・・・・。引き受けた限りは、精一杯用意をさせていただくから・・・。そして出来る限り早く泰明殿に彩子姫をお返しできるように・・・。私はこの身を犠牲にしてでも、泰明殿に彩子姫をお返しする・・・。約束しよう。」
「宮様・・・・。」

宮は立ち上がって帰り際に言う。

「これから先とても辛い事が多々起きると思いますが、我慢をして待っていてください。」
「宮様・・・。」

泰明は宮を外まで送り、また自分の部屋に戻ると書き物を済ませて典薬助の所にいきいう。

「丹波殿、私用により早退します。あとのことは頼みましたよ。明日も休ませてもらうことになったので・・・。」
「わかりましたが・・・・どうかなされたのですか?最近ちょっと・・・。」
「いや、何もありませんよ・・・。では頼みます。」

泰明は苦笑しながら典薬寮を後にし、邸に戻る。邸に着くと早い帰りに彩子は驚き、出迎える。泰明は彩子の顔を見るなり、涙ぐみ彩子を抱きしめくちづけをする。

「泰明・・・?家のものの前で・・・。どうしたのこんなに早く・・・。」

泰明は彩子を離すと彩子の手を引き泰明の部屋に入る。彩子は泰明から荷物を受け取ると、着替えの準備をする。泰明は束帯を脱ぐと、小袖に単のみの姿で、脇息にもたれかかり座る。

「泰明、今日はいくら暖かい日とはいえその姿では冷えるわ・・・。もう一枚何かを・・・。」
「いい・・・。」

彩子はいつものように泰明の左腕を按摩する。これは彩子が泰明のために当主になって以来毎日行っている。そのおかげかどうかわからないが、少しずつではあるが左腕の握力は回復しつつある。泰明も出来るだけ左手を使おうと努力し、針などの細かく小さいものは持つことは出来ないが、生活する範囲内では難なくこなせるようになってきた。

「もうこれも今日限り・・・。彩子のおかげで不思議なことにだいぶん良くなってきたよ・・・。」
「今日限り・・・?」

泰明は苦笑して言う。

「今日帝に返事してきただろう・・・。すると一刻も早く二条院に移せと言われた・・・。明日から彩子は中務卿宮様の養女となるのだよ・・・。この私と離縁してね・・・。今から準備をしないと・・・。」
「院の養女??」

泰明は養女についての詳しい経緯を話す。

「そう・・・そうなったのね・・・。院も大変ね・・・。わかりました・・・今から準備を・・・。」

彩子は立ち上がって自分の部屋に戻ると座り込み、明日には泰明と離縁しなければならないという事実を悲しむ。表が騒がしくなったと思うと、正月の臨時の除目で大和守を嫡男に譲り、中務省大輔として任じられた彩子の父が彩子の部屋に急いで入ってくる。

「彩子、これはどういうことなのだ?今日中務に初出仕してきた途端、彩子が帝の皇后として入内すると中務卿宮様から聞いた。泰明殿とのことは??」
「お父様・・・。」

彩子は父である中務大輔のもとに泣きながら詰め寄る。いつもでたっても訳を話そうとしない彩子に父君は困り果て、呆然とする。

「もしかしてお前が入内するから縁のあるもの皆昇進したのか?」
「え?」
「私は突然正五位の中務大輔に、泰明の兄智明は典薬寮侍医に、姉明日香は典薬寮女医博士、弟は元服したてと言うのに大和守などと・・・。無茶苦茶な除目だと思ったのだ・・・。泰明殿も助をとび頭と聞いた上に位階も正五位とは・・・。慣例に基づいた除目ではない!おかしいと思ったのだ・・・。なんというひどいことを・・・。お前の入内と引き換えに皆が昇進したとは・・・。」

彩子の父君は呆れてそれ以上物が言えなかった。

「お父様、明日からここを出て院のもとに・・・。今から準備をしないと・・・。」
「そうだな・・・早く準備を済ませて今夜は泰明殿と最後の夜を・・・。もう宮中では顔を合わすことはあっても、親しくは出来ないからな・・・。先の帝とは雲泥の差の帝だ・・・。私はまだ仕事中だから中務に帰る。また明日、休みを取りこちらに来るからそのように泰明殿に・・・。」

彩子の父は急いで中務に戻って行く。泰明は、部屋に籠もったっきりで、物思いにふけている。夕刻になっても明かりをつけないまま泰明はじっと座っており、彩子はそっと泰明に上着をかける。

「泰明、ずっとその格好でいたの?そこに狩衣を用意してあったのに・・・。風邪引くよ。」
「ん?んん・・・。」
「夕餉の準備が出来たのだけど、食べる?」
「ん?食べたくないよ・・・。彩子、明日離縁するのに平気なの?」

彩子は急に涙を流すと、泰明の頬を叩く。

「平気なわけないじゃない!平気なわけないよ・・・。ごめんね痛かった?」

彩子はたたいた手で泰明の頬を撫でると、泰明は彩子を抱きしめる。

「もう朝になればこの様なことできなくなるのかな・・・?きっとあの帝のことだ、彩子の御殿には殿上を許さないだろう。いくら私が典薬頭であっても・・・。」
「ええ、そうね・・・。御殿に閉じ込められるかもしれないわね・・・。もしかしたら清涼殿の局を与えられるかも・・・。そうなると毎日診察に来る泰明と顔を合わすことになるわね・・・。きっとあの帝のことだから昼間もずっと側に私を置くつもりよ・・・。」
「んん・・・。そうなればお互い酷だね・・・。」

二人は夕餉も食べずに朝までゆっくり過ごす。家の者も二人に気を使って誰も泰明の部屋に近づかないようにした。

 朝が訪れ、二人は寝所で目覚め、泰明はじっと彩子を見つめ、溜め息をつく。彩子も泰明の胸に抱かれながら、うずくまる。

「彩子、もうそろそろ起きないと・・・。」
「いや・・・。二条院には行かない・・・。泰明と離れたくない・・・。」
「私も同じだよ。帝の命でなければ、無視して引き止めるけれど、和気家の当主である限り、そういうわけにはいかない・・・。彩子だって同じさ。お父上や弟君に迷惑がかかるだろ・・・。」

泰明は最後に彩子にくちづけをし、起き上がり上着を着ると、女房たちを呼び、彩子の支度を頼む。

「さ、北の方様・・・お召し物を・・・。」
「私もう北の方じゃないわ・・・。」
「・・・。」

女房たちは黙々と寝所にいる彩子の身支度をする。その横で泰明は外を眺めながら彩子の身支度が整うまで待つ。

「ご当主様もそろそろお着替えを・・・。」
「んん・・・。彩子を別室に移し、私の香の匂いを残さぬよう、頼んだよ・・・。あちらに失礼だから・・・。」
「はい・・・。」

彩子は別室に移され、香をたき泰明の匂いを消す。泰明は朝餉を済ますと、中務卿宮家に向かうための身支度を整える。彩子の部屋には彩子の父君が訪れ、支度が整ったことを確認すると、泰明の部屋に行き、挨拶をする。

「泰明殿、私も宮様のところに挨拶に行くよ。久しぶりに孫である宮たちにも会いたいしね・・・。本当に泰明殿といい、あなたの父、泰智といい・・・。どうしてこう想った人と幸せになれないのだ・・・。」
「初恋の人と想いを遂げる人など少ないと思いますよ・・・。ただ私や父は子がいるだけでもましかもしれません・・・。そう思わないと・・・。そうだ・・・。」

泰明は二階厨子の引き出しから包みを取り出す。

「先日久しぶりに市へ行ってきたのです。ふとこれが目に付いて・・・。特別にいいものではありませんが・・・。」
「市か・・・そういえば泰明殿は五つの頃に豊明節会のために都に出てきた私についてきた事があって、市で彩子のために櫛を買ったな・・・。」
「あれ以来行っていなかったのです・・・。年末に用事で市の近くを通ったときに車を止めてつい衝動買いをしてしまった・・・。そういえば今まで彩子に何も買ってやる事がなかったので・・・。」

泰明は包みを父君に渡すと、父君は包みを開けてみる。中身はきれいな装飾を施した貝に入った紅である。

「泰明殿が直接渡せばいいものを・・・。」
「渡そう渡そうと思いつつ、バタバタしていて渡せなかったのです・・・。今渡すと彩子を離したくなくなりますので・・・。どうかお父上から彩子に・・・。」
「んん・・・。わかった。その気持ちきちんと彩子に伝えておく。きっと喜ぶであろうな・・・。」

彩子の父君は包みを懐に大事にしまうと、出立の準備に取り掛かる。

「泰明殿、私は宮様に挨拶を済ました後、出仕する。休みを取るつもりであったが、人手がなくてね・・・。泰明殿はどうするのですか?今日兄と姉が初出仕ですよ・・・。」
「そういえばそうでしたね・・・。兄上は侍医だし、姉上は女医博士・・・。頭の私がいないといけませんね・・・。こればかりは助殿には・・・・。」

出立の準備が整い、彩子は中務卿宮家が用意した車に乗り込む。泰明と父君は後ろから馬に乗り、彩子の車についていった。鴨川を渡り川沿いの道を進む。小春日和であった昨日とは違い、ちらちらと雪が舞っている。積もるほどではないが、泰明は馬を歩かせながら、雪を見つめていた。彩子も御簾の隙間から雪がちらつくのを見てさらに悲しさがこみ上げてくる。二条大路に入ると出仕時間に重なっているからか、出仕のため大内裏に向かう牛車や馬、地下人たちが車の横を足早に通り過ぎて行く。馬上の泰明に気づき礼をする者も多い。二条院は大内裏の横にあり、泰明は宮に挨拶をせず二条院の門の前で別れようと決心した。彩子の車が二条院に入ると、泰明は馬を止め、一礼をする。

「泰明殿、宮様に挨拶をしないのですか?」
「もうここで・・・昨日宮様には会って話をしましたから・・・。お父上、彩子のこと頼みました・・・例の物も渡してください。私はこれから出仕してきます。」
「そうか・・・。わかったよ。彩子に渡しておく。」

泰明は父君が門の中に入ったことを確認すると、泰明の従者とともに出仕する。二条院にはいった彩子は宮に頂いた部屋に入り、座り込む。

「ああ、また十年前と同じ部屋に戻ってきてしまったわ・・・。あと何ヶ月ここで過ごさないといけないのだろう・・・。」

数人の大和時代から女房たちとともに溜め息をつきながら庭を眺める。女房たちも同情して彩子の周りを取り囲んだ。部屋には今まで後宮で使っていた彩子の道具がきちんと並べてあり、衣装も調えてあった。挨拶を終えた彩子の父君が、彩子の部屋に入ってくる。

「彩子・・・。」
「お父様・・・。」

父君は懐から泰明に託された包みを取り出し、彩子に渡す。

「何?」
「泰明殿からだよ。彩子のために市で買っていたのを渡し忘れていたらしい・・・。直接渡せばいいものを・・・。」

彩子は包みを開け、中身を確かめるときれいな貝に入った紅である。彩子は大事そうに贈り物を頬に当て、涙ぐむ。

「彩子、それをつけて入内なさい・・・。」
「そうね・・・。泰明が選んでくれた物・・・。大切に使わないと・・・。お父様、泰明に会ったら礼を言ってね・・・。」

彩子は女房に渡すと、化粧箱の中にしまわせた。

「まもなく宮がこちらに来るといっていらした。新しい女房たちをたくさん用意されたらしいから・・・。ほら、いらしたよ。」

中務卿宮は、正妻である鈴華とともにたくさんの彩子のために用意された女房たちを連れてくる。彩子は立ち上がって宮と鈴華を上座に座らせると、自分も座って頭を下げる。

「彩子姫・・・。突然なことで本当にすまなかったね・・・。せっかく和気殿と一緒にさせてやったのにも関わらず、この様なことになってしまって・・・。私も太政官たちと帝を説得したが、うまくいかなかった・・・。帝も一刻も早く和気殿と離縁させよと仰せでね・・・。この様に急なことになってしまった・・・。親として心苦しい限りだ・・・。姫の皇后入内宣旨とともに東宮の一の宮親王宣旨も同時に行われる。中務を取り仕切る私にとってこれほど嫌な仕事はないのですよ・・・。」
「わかっております・・・。私一人のために色々な方々がご迷惑をおかけしていること・・・。私が我慢すれば済むことなのです・・・。」

鈴華は彩子に近寄りいう。

「彩子様、詳しいことは宮から聞いております。本当に同じ女として感心できませんわ・・・。関白である私の父になんとかいってもらわないと・・・。」
「鈴華様、いいのです。短い期間でしたが、和気と楽しい生活をさせていただけただけで感謝しないといけないのです・・・。本来でしたら宮様の側室としてこちらで住まうことが常識でしたのに・・・。」
「本当に彩子様はいつも控えめで・・・。いつ入内になるかわかりませんが、それまでこの私と楽しく過ごしましょうね。またあなたの姫宮や若宮もこちらにいることですし・・・。お妃教育はしなくていいのですから、ゆっくりされたらいいのです。」
「ありがとうございます、鈴華様・・・。お言葉に甘えて・・・。」

宮は新しく用意した女房たちを紹介し、微笑むと彩子に話しかける。

「彩子姫、何か心残りのことはないかな・・・。遠慮せずになんでも言いなさい。」
「はい・・・。和気のことなのです・・・。ここだけの話ですが、和気は以前の事件で左手が不自由なのです。以前よりは日常生活には支障がないくらい随分回復をいたしましたが、医術に関しては致命傷です・・・。最近は手助けなしに束帯などを着ることが出来るようにはなりましたが、まだまだなのです。和気がきちんと出仕できるかが心配で・・・。また以前のように姿を消してしまわないか・・・。」

宮は驚いた様子で言う。

「完治したのではないのですか?まったく気づきませんでしたよ。わかりました。他の者に気づかれないよう和気殿を手助けしましょう・・・。本当に姿を消さないかだけが心配ですね・・・。」

宮は心配そうな表情で彩子の部屋を立ち去る。

 数ヶ月がたち、彩子の入内宣旨と東宮の一の宮親王宣旨が下る。正式に決まってしまったことに彩子も泰明もそれぞれ悲しむ。一部のものしか知らなかった事が公表されることにより、帝に対する不満と、彩子や泰明に対する同情が都中に広まる。東宮の立太弟を不思議に思っていた者たちは東宮が実は帝の子であったことに納得しつつ、東宮のご生母が先帝の女御であり、立后するということに驚くのである。宣旨が下ってからというもの泰明は仕事が手につかず、自室にこもりっきりの事が多くなった。以前のような名医と言われていた頃とは雲泥の差である。もちろん彩子も同じで、日に日に部屋に籠もり、悲しそうな表情で溜め息をつき、時折泣き叫ぶのである。困り果てた宮は彩子を外出に誘うことにした。

「彩子姫、今日私は休みだから、ちょっと東市見物にいきませんか?気晴らしにいいかもしれません。もし気に入った物があれば何でも買ってあげますよ。」

側にいた鈴華は怒っていう。

「宮、彩子様だけずるいですわ。私も行きたいです。一度も行った事がないのですから。」
「鈴華もおいで、鈴華も何か買ってあげるよ。」
「彩子様、ねえ行きましょ。市には色々珍しい物が売っていると聞くわ。一度行ってみたかったのです。ねえ行きましょうよ。」

彩子は渋々うなずくと、それぞれの部屋で支度をする。

「お母様、綾子も行きたい。」
「お父上様にお聞きしなさい。お父上様がいいと言ったらいいですよ。」

綾子は寝殿に走り宮に聞きに行くと、許可が出たらしく、綾子も支度をする。壺折装束に市女笠、垂れ衣をつけたいわゆる虫の垂れぎぬ姿を身に着け、市近くで車からおりると、彩子は綾子の手を引いて市へ向かう。宮と鈴華は彩子の前を楽しそうに話しながら歩いている。

「お母様、お父様がね気に入った物があれば何でも買ってくれるって言うのよ。何が売っているのかしら・・・。お母様は何が欲しい?」
「綾子、きちんと前を見て歩かないと迷子になったり、躓きますよ。人がこんなに多いのだから・・・。」

彩子は綾子を見て微笑むと、色々店を眺める。すると宮が振り返り、彩子を呼ぶとある方向を指差す。その方向には色々薬草を物色している泰明の姿が見えた。泰明は気に入った薬草を見つけると店の者に金を渡して邸まで持ってくるように頼んでいる。

「彩子姫、綾子は私が見るから、会ってきなさい。きっと和気殿も驚くだろう・・・。夕刻までに帰ってきたらいいから・・・。ゆっくり話でもしてきなさい。」
「でも・・・。」
「早く行かないといなくなってしまうよ。さ、はやく。」

鈴華も微笑んで送り出す。彩子は綾子を預けると、人を掻き分けて泰明のもとへ急ぐ。一時は見失いそうになったが、薬草をまだ物色している泰明の姿を見つけると泰明の左手を握り締める。泰明は驚いた表情で壷装束姿の姫を見つめる。

「どなたですか?」
「泰明、私よ。」
「さ、彩子様???どうしたのですか?この様なところで。」
「宮様に連れてきていただいたのよ。宮さまったら、夕刻までに邸に戻ったらいいからゆっくり話してきなさいと・・・。」

泰明は微笑んで、手を握り返す。

「本当にいいのですか?」
「ええ・・・。」
「では市を案内しましょう。」

泰明は彩子の手を引き、色々市を歩き回る。

「泰明、前の紅ありがとね・・・。大切にする。」
「気に入っていただけましたか?それは良かった・・・。そうだ、何か気に入ったものがあれば言ってください。買って差し上げましょう。禄も出たところですし、薬草の仕入れのために市に来たのです。何でも言ってください。」

彩子は微笑むと、楽しそうにいろいろな物を物色する。泰明も時を忘れて彩子の楽しそうな姿を見て和む。

「ねえこれがいいわ。この櫛。」
「櫛でいいのですか?同じようなものを持っているのでは?」
「うん。以前はお父様のお金で買ったでしょ。今回は泰明のお金で買ってよ。」
「もっといいものでもいいのでは?ほらこちらは彩が美しい・・・。」
「いいえ、これでいいの。」
「わかりました・・・。これにしましょう。」

泰明は店の者に代金を渡し、購入した櫛を彩子に渡す。彩子は大事そうに懐にしまうと、微笑んで泰明と腕を組む。

「泰明に買ってもらっちゃった・・・。ありがとうね・・・。また宝物が増えちゃった。」

彩子は満面の笑みで泰明を見つめると泰明も微笑み返した。泰明は日が陰りだしたのに気が付くと、自分の車に戻り、彩子を乗せ自分も乗り二条院まで送る。

「本当に今日は楽しかったわ・・・。泰明に会えたし・・・。」
「私こそ、突然彩子様に会えてよかったです。」

彩子は泰明に飛びつくと、泰明も二条院まで彩子を抱きしめる。

「春になると入内ですね・・・。もうこの様に会うことはないでしょうね・・・。」
「ええ・・・。いい思い出になったわ・・・。ありがとう泰明・・・。」
「いえ、こちらこそ・・・。彩子様・・・。」

泰明は彩子にくちづけをする。そして彩子も改めて泰明にくちづけをする。

「御当主様、二条院につきましたが・・・。」

泰明は彩子を離すと彩子は身支度をして泰明に手を振ると、車から降り二条院に入っていった。それ以降入内まで一度も会うこともなく彩子は入内の日を迎えた。


《作者からの一言》
ついに始まった帝の行動・・・。
ホントに嫌な帝ですね・・・。
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