4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

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第58章 桜
 桜の季節がやってきた。中務卿宮家である二条院は、とても桜で有名な邸である。特に寝殿近くに植えてある桜は中務卿宮の祖父が若かりし頃、花見の管弦の宴にてすばらしい龍笛に感動した先々代の帝が、左近の桜の枝を切り褒美として賜ったものを挿し木して立派に育て上げた桜であった。

 この日は一番見頃の良き日を選んで綾乃を招き、花見をすることにした。二人の婚約は公になったので、堂々と綾乃を二条院に呼ぶことが出来た。綾乃は久しぶりの中務卿宮と会えるという事で、とびっきりの唐衣を着て二条院を訪れた。

「綾乃、よく来たね。」

と、中務卿宮はとてもうれしそうな表情で綾乃を迎える。

「宮様、お招き頂きありがとうございます。綾乃はとても今日の日を楽しみにしておりました。」

綾乃は、中務卿宮の前に座り、頭を下げ挨拶をする。

「さあこちらに座って、二人だけでの花見なので、くつろいだらいい。今日を逃すと明日から忙しくて会えないからね・・・。」

綾乃は用意された几帳の前に座る。

「来月ですものね・・・東宮女御様の入内・・・。」
「そうさ、兄上に妃が入内されるからね。いろいろ中務省は春宮坊の人事異動やら、女官の選定、女御のご在所のこととか、今が一番忙しい・・・。また入内の宴やら婚儀の日程・・・。それが終わると妹宮孝子内親王の婚儀が入ってくるし・・・。本当にゆっくり出来るのは今日ぐらいかもしれない・・・。」

中務卿宮は脇息に肘をついて綾乃に優しくいう。

「孝子様のお相手って・・・弾正尹宮様の?」
「そうだよ。元服の際、源の姓を賜わり臣籍となって今は左衛門佐源常隆殿。同じころに初出仕だったし、同じ歳でもあるし意気投合してね。妹宮とは腹違いだけど、義理の兄弟になることだし。とても真面目で誠意のあるいい人ですよ。」

綾乃はそっと中務卿宮の側に座って身を預けると、中務卿宮は綾乃の肩に手をやる。

「本当に綺麗ね・・・宮様。」
「そうだね・・・。綾乃、もう私達は婚約しているのだから、宮様ではなく名前で呼んで欲しいな・・・。」

今日は急用がない限り、邸の者をこの寝殿まで近づけないようにしている。なんとなくいい雰囲気になってきたので、中務卿宮は綾乃を見つめて抱きしめくちづけをしようと顔を近づけようとしたとき、籐少納言が恥ずかしそうに声をかける。

「あの、宮様。お取込み中申し訳ありませんが・・・。中務省で不手際があった様で、すぐに東宮御所へ参内をと・・・。あと、三条大納言邸より宮様宛に文が・・・。」

二人は恥ずかしそうに離れると、中務卿宮は立ち上がって女房数人を呼び急いで直衣から束帯に着替え、身なりを整える。

「権大輔殿に頼んだはずなのに・・・。何か兄上の気に障ることがあったのかな・・・。」

などとぶつぶついいながら綾乃の前に座わり綾乃に優しく言う。

「すみません、せっかくの休みを頂いて綾乃とゆっくり花見をと思ったのですが、すぐ済まして帰ってきます。綾乃はここでゆっくり桜でも見ていてください。」
「はい、雅和様。お役目のほうが大切ですもの・・・。さ、早く参内を・・・。」

綾乃は立ち上がって中務卿宮に手を振り見送った。綾乃はふと、中務卿宮が座っていたところにおいてある文箱に目が行った。


三条大納言といえば、摂関家で皇后の兄に当たる人である。昨年まで綾乃の父右大将と肩を並べ左大将であったが、秋の除目で正三位大納言に昇進した。お邸が三条にある東三条邸なので、三条殿または三条大納言と呼ばれている。姫ばかり三人いて、一の姫雪姫は宮家に嫁ぎ、二の姫は中務卿宮より一つ上の桜姫、三の姫はまだ裳着が済んでいない。東三条邸はもともと東宮が元服するまで過ごした皇后の実家に当たるため、幼い頃からよく中務卿宮は東宮である兄のもとに遊びに行ったことがある。

そして世間では綾乃を右近の橘の姫君、三条大納言の二の姫を左近の桜の姫君と呼ぶ公達も少なくない。もちろん秋の除目までの右左両近衛大将の姫君だということと引っ掛けてあるのだけれど、どちらも違った花のような美しい姫君であるという意味もあった。綾乃は中務卿宮の副臥役であり父の右大将は中務卿宮の後見役、三条大納言二の姫は摂関家で中務卿宮の幼馴染として、お妃候補として競われていたと思われていたのは言うまでもない。

ただし中務卿宮の意向は、以前中務卿宮の妹宮付の女童として後宮に出仕していた綾乃だったのだけれど・・・。もちろんそのような事を知る由もなかった三条大納言二の姫は摂関家であり幼馴染である自分のほうが中務卿宮妃としてふさわしいと思い込んでいた。その上先月の東三条邸で行われた管弦の宴(本来は三条大納言が勝手に開いた中務卿宮と二の姫の顔合わせの宴だったが・・・。)で二の姫の目の前できっぱりお断りの返事をしてしまったからもう大変。もともとわがままに育てられた姫であったので、中務卿宮でなければ嫌だと言う二の姫に父三条大納言も手を付けられず困り果てていて何日かおきにこうして中務卿宮宛に文を送りつけてくる。

やはり中務卿宮は億劫になって返事を引き伸ばしにしている。今回の文もそうであろうと開封もせずに座っていた場所そのままのところに置いておいた。しかし今回の文は違ったようで、文箱から良い香りが漂ってくる。一刻ほど我慢していたが、綾乃はつい気になって文箱を手に取り、開けてしまう。中には品のいい御料紙に桜の花が添えてあった。そして文を読んでしまう。



『満開の桜の花とまだ咲かぬ橘の花あなたはどちらを選ばれるのでしょう もちろん今見頃の桜と決まっていますよね 桜子』



綾乃はムッとした様子でその文をもとの状態に戻し、座り込んだ。

(どうせ私は裳着をしたばかりで月の穢れも来ていないわよ・・・。でも・・・。)

綾乃は怒って立ち上がると一緒に来ていた小宰相を呼んで帰り支度をさせる。

「綾乃様、どうかなさいましたか?」

と、籐少納言が綾乃に声をかけてくる。

「急用を思い出しました。宮様にはそのようにお伝えください。」

綾乃は少し怒った様子で寝殿を退出しようとすると西の門のほうが賑やかになり、中務卿宮が帰ってきたようである。籐少納言は綾乃を引き止め、元いた場所に座らせると、丁度とても困った様子で中務卿宮は寝殿に戻ってきた。そして束帯のままで綾乃の横に座る。

「綾乃、だいぶん待ったでしょ。権大輔殿でも出来ることなのに、どうしてもと仰せで兄上は私をお呼びになったのですよ。兄上にも困ったものです。」

中務卿宮は綾乃のいつもと違う表情に気付き、心配する。

「綾乃どうかした?」

綾乃は三条大納言二の姫からの文が入った文箱をそっと中務卿宮の前に置く。

「そういえば、三条大納言様から文が来ていたね・・・。ん?なんかいつもと感じが違うけど・・・。」

中務卿宮は文箱の紐を解き、ふたを開けると中身に気がついて慌てて再びふたを閉じる。

「二の姫からでしょ。雅和様。」
「そうみたいだね・・・。もしかして・・・見てしまったの?」
「いい香りが文箱からいたしましたので・・・。つい。私はまだ月の穢れも来ていない子供です。」

綾乃は怒って立ち上がると退室しようとする。中務卿宮は綾乃の腕をつかみ引き寄せ抱きしめる。

「どうしてそのような事を言うの?いつこの僕が綾乃のこと子供だって言った?綾乃は綾乃でいい。」

そういうと中務卿宮は今まで見せたことのない表情で涙を流して綾乃を強く抱きしめる。

「あちらの件は一方的なこと、本当に困っている。綾乃が心配すると思って言わなかった。」
「雅和様・・・。お泣きにならないで・・・。」

綾乃は中務卿宮の頬に流れる涙をふき取ると、中務卿宮にくちづけをする。

「私も雅和様は雅和様のままでいいのです。本当に出会った頃から泣き虫でいらっしゃる。」
「そうだね・・・。」

中務卿宮は籐少納言を呼ぶと、三条大納言二の姫から届いた文箱をそのまま渡す。籐少納言は不思議そうな顔をして受取る。

「籐少納言、これからは私的な三条大納言家からの文は一切取り次がないように邸の者に伝えてくれないか。そしてその文をそのままお返しして。」
「はい畏まりました。」

籐少納言が退室したことを確認して、花見の続きをしようと、中務卿宮は綾乃の手を引き、すのこ縁の端の一番桜が良く見えるところに連れて行く。

「夜桜はもっと綺麗なのですよ。綾乃、今夜は泊まっていく?」

綾乃は顔を赤くして、恥ずかしそうに微笑みながら答える。

「雅和様、来年か再来年以降になればいくらでもこの桜を嫌になるほど見られますわ。それまでお預けです。夜桜もこの綾乃も・・・。」

中務卿宮も顔を赤らめて綾乃に言う。

「そうだね。ちょっと調子に乗りすぎたみたいだ。さあ座って。」

二人は寄り添い、ずっと長い間二条院で一番美しい桜を眺め続ける。

「中宮の母上にも春が訪れたよ。」
「え?」
「中務省と中宮職で報告が止まっていて公にはなっていないのだけれど、やっと母上が懐妊されたのですよ。今までいくら経っても御出来にならなかったから・・・。」
「そうですね・・・中宮様にもやっと春が来たのですね・・・。」
「そうだね。僕達も早く本当の春が来るといいね・・・。」


《作者からの一言》

普通なら婚約したからといってもこうしてお互いの邸を行き来することなんてないでしょうね^^;でも中務卿宮はどうしても綾乃に綺麗な桜を見せたくて(もしくはこれを口実に綾乃と会いたかった?)綾乃を呼んだわけです^^;もちろん親しい間柄とはいえ、綾乃は宮家に訪問するので衣装は十二単です^^直衣を着ている中務卿宮は正四位上なのですが、親王であり、勅許により着用が許されています^^もちろん烏帽子を冠に替え参内することも可能です。本当なら東宮御所に参内の際は束帯に着替えずに烏帽子と冠を交換しただけで参内可能なのでしょうけれど・・・。

 本当に三条大納言の二の姫桜子姫はしつこいですね^^;あまりしつこいと中務卿宮に嫌われますよ^^;もちろん嫌っていますけど^^;
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