4年生、2年生のねえねと、幼稚園児の双子っちのいるママです。アメブロで発表している小説の倉庫として使っています。お好みの物があるかわかりませんが、覗いてくださいね^^ ご感想お待ちしております!

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第62章 急な呼び出し
 静養期間終了まで残り半月という頃のこと、珍しく中務卿宮のもとへ帝直々の使いが来る。今すぐに内裏へ参内せよとの命令が下ったのである。中務卿宮は急いで参内の準備に取り掛かり、整うとすぐに車に乗って内裏に参内した。内裏に入ると皆が驚きの表情で急いで清涼殿へ向かう宮を見つめる。


(何だか早い出仕だな・・・。)
(来月頭と聞いたが・・・。)
(長いこと見ぬ間にずいぶん大人びてこられたな・・・宮は。)
(病み上がりでだいぶんお痩せになったからな。)
(でも思ったよりお元気そうで・・・。)
(そりゃ、婚約者のいる右大将様の邸でのご静養だからな・・・回復も早いわな。)


中務卿宮は殿上人の話に耳を傾けつつ、清涼殿に急ぐ。清涼殿では帝のほかに、関白や内大臣、宮内卿、中務省権大輔、春宮坊大夫、陰陽頭などが集まり中務卿宮が参内するのを待っている。中務卿宮が到着し、一通り挨拶のあと、関白が話し出す。


「静養中突然お呼びして申し訳ありません。帝はとても心を御痛めのため、帝に代わって中務卿宮様に申し上げます。今回の件は宮様の兄宮でいらっしゃる東宮様のことについての事・・・。ご成婚のひと月後より、臥せっておいでなのです。侍医に診せましてもこれといって病ではなく・・・。ついには先日東宮を退きたいとの仰せで、東宮御所内はただいま大変混乱した状態であります。なんとか大夫が御引き留め申し上げておるのですが・・・。この私にさえ、理由を話していただけない。こちらと致しましても理由なき退位は認めるわけにもいかず・・・。ですから、弟宮であられ、日頃より仲良くされておられる宮様に何とか御引き留めして頂き、何とか現状の回復をしていただきたいのです。もちろん中務省の長官として、陰陽寮、宮内省、春宮坊と最善を尽くしてこの件に関して解決をしていただきたいのです。」
「はい。それはそうですね・・・中務卿として、弟宮として最善を尽くすのは当たり前のこと・・・。」


すると帝が重い口を開く。


「中務卿宮、頼んだよ。もしあなたにでもどうにもならない状態で退位となった場合、二の宮であるあなたが東宮に立たなければならない。それどころか、そうなるのであれば、綾乃姫との婚約も白紙にしないと・・・。この件が解決するまであなたと綾乃姫の婚儀の日程は白紙状態だ。いいね、雅和。」
「どうして婚約白紙にしないといけないのですか!」
「お前も半年出仕していればわかるだろう。東宮となれば相当な家柄、財力、権力を持った家の姫を東宮妃として迎えなければ、後ろ盾のないに等しいあなたには将来はないのですよ。右大将殿には申し訳ないが、家柄と財力が足りないのだから・・・。綾乃姫との婚約解消したくなければ、東宮を廃太子させぬようにがんばりなさい。さあ、東宮御所に。」
「御意・・・。御前失礼致します。」


中務卿宮は内裏を退出すると、東宮御所に向かう。東宮御所に向かう間、様々なことが脳裏を横切る。


(兄上は一度言ったらがんとしてきかない人。この僕が何とかできるだろうか・・・。もし原因さえわからず、帝のご期待にそえなかったら?もし廃太子になったら・・・。その時は辞退して御歳五歳の弟宮に・・・。弟宮は皇后様のお子だから・・・きっとみんなも納得する・・・。そうだ、そうしよう・・・。でもその前に兄上をどうにかしないと・・・。)


色々考えながら東宮御所に入る。東宮御所はなんとなく嫌な空気が流れている。中務卿宮自身物の怪やら何やらというものをあまり信じていないにもかかわらず、なんとなく嫌な予感をして、陰陽督を呼ぶように指示する。東宮は部屋に籠もりっきりで、あまり人を寄せ付けない。もちろん東宮妃もである。東宮のいる寝殿に入ると、さらに空気が重くなる。


「兄上。居られますか?」


すると塗籠のほうで声がする。


「中務卿宮か・・・。何か用か・・・。」
「兄上、入ってもよろしいでしょうか・・・。」
「雅和ならいいよ・・・。」


中務卿宮は塗籠に入る。東宮は文机を前にして何かを読んでいる様だった。中務卿宮は東宮の後ろに座って頭を下げる。


「雅和、もう体のほうはいいの?」
「はい、それよりも兄上は・・・どうなされたのですか?あれほど明るく利発な方が、このようなところに籠もりっきりとは・・・。父上もたいそう心配されております。理由をお聞かせください。中務卿としてではなく、兄上の弟宮として・・・。」
「雅和が僕の代わりをしてくれるといいのです。ただそれだけです。」


東宮はまた書物を読み始める。


「兄上!」


すると東宮は一息ついて中務卿宮に言う。


「最近寝ているとうなされる。何かに襲われる感覚があってね・・・。あと最近まで私は自分が東宮であることに何も疑問は持たなかった。生まれながら東宮として扱われ、一人の人として扱われなかった。すべて型どおりにしつけられ、私自身それが当たり前だと思って育ってきたのだけど、最近になって自分は何者なのか疑問に思うようになって・・・。私はお前と違って人との付き合いというものが苦手で、特に東宮御所に入ってからというもの好きな乗馬が出来なくなってしまった。群臣の者達も、この私に表面上は東宮として扱ってくれるのだけれど、裏では雅和のほうがふさわしいとまでも言う者がいる。なぜだか分かるか?」
「でも私は母君が摂関家出の兄上と違って後見もなく、利用価値のない親王ですよ。」
「それなのですよ。一昔と違って今摂関家は、昔ほど権力は薄まりつつある。特に父上の代から家柄だけではなく、右大将殿のように能力のあるもの多数を重職につけている。その者にとって摂関家を後見に持つ私は目の上のたんこぶ。いなくなるほうがいいに決まっている。摂関家以外のものたちが、宮家腹の雅和の後見となり東宮に仕立て、皇子が出来れば権力は摂関家以外に集中する。だから私が邪魔なのですよ。私は摂関家の権力保持のための道具ではない。結姫も摂関家の姫だし・・・。」
「兄上・・・。私はあなたの代わりは出来ません。兄上のように賢くないし・・・。」
「何を言う。雅和もこの半年で立派に中務省を取り仕切っていたじゃないか・・・。雅和の方か頭の固い私と違って向いていると思う。私は上に立つより・・・。」
「とりあえず兄上、東宮をお辞めにならないよう私からお願いします。兄上のためなら何でも致しますので・・・。それでは御前失礼致します・・・。」


中務卿宮はため息をついて、寝殿を出る。すると陰陽督が控えていた。


「安倍殿、東宮御所のこの空気、何も感じませんか?調べていただきますか。そして内密に報告を・・・。よろしくお願いします。」


陰陽督は中務卿宮に頭を下げると下がっていく。


(加持祈祷もしないといけないかもな・・・。)


中務卿宮は内裏に戻って帝に東宮の様子や言葉をすべて話す。帝はさらに口を閉ざす。


「私には兄上をお引止めすることしか出来ませんでした・・・。兄上は相当悩んでおられ、夜も良く眠ることが出来ないご様子・・・。ちょっと気にかかることがありましたので、陰陽寮のほうに調べさせております。」
「うむ、あらゆる可能性を試して欲しい・・・。」


中務卿宮は内裏を退出して、中務省に入る。中務省の者たちは突然出仕してきた宮に驚く。


中務卿宮は部屋に入り、考え事をする。すると陰陽寮から密書が届く。中務卿宮はその密書を読むと陰陽頭を呼ぶ。陰陽頭が到着すると権大輔に人払いをさせる。


「安倍殿、この密書の内容が今ひとつ分からないのだけれど・・・詳しく口頭で教えて欲しい。」
「東宮御所中に異様な空気が流れているのは確かです。この異様な気の流れは東宮ご自身が起こしておられるのか・・・または・・・あくまでも陰陽道は占いの類ですので、詳しいことは・・・。引き続き最善の方法がないか占って見ますが・・・。」
「頼みましたよ。」


(やはり加持祈祷系か・・・。)


「権大輔殿、今から聖護院の一乗院大僧正のところへ参ります。用意を・・・。」


一乗院大僧正とは、天台宗の高僧で先代、今上帝の護持僧である。中務卿宮は車に乗り込み、鴨川を越えた聖護院まで出向く。先触れもない急な中務卿宮の訪問に、僧達は驚き慌てる。大僧正は中務卿宮を迎え、部屋に通す。


「急にこちらに訪問してご迷惑でしょう。僧都殿。」
「いえいえ、来られるのではないかと感じていましたよ。さあお座りを・・・。」


中務卿宮は上座に座ると僧都が話しかける。


「二の宮様、本当に立派になられまして・・・。中宮様が宮様を御懐妊されたとき、安産祈願にと加持祈祷をさせていただきました。本当に良かった・・・妹宮は残念なことでしたが・・・。」
「そうですか・・・今日はご相談がありまして、これは内密なことですので人払いを・・・。」


僧都は人払いをして、中務卿宮が話し出す前に用件について話し出す。


「ですから先ほど、宮さまが来られると感じたと申しましたように、分かっております。ひと月前から東宮様のご様子がおかしい事を・・・。もとは東宮様自身が引き起こした気の乱れ・・・。それが十五年前にあった出来事で処罰され流された者達の怨念を呼び起こさせたのでしょう。」
「十五年前の出来事?」
「宮さまが生まれて間もない頃に起こった後宮で起こった事件でございます。」


僧都はこの事件について話し出した。十五年前、後宮にいたある摂関家の女御が引き起こした事件。帝を振り向かせようと冗談半分で行った東宮呪詛事件。その女御の行いによって、父である大臣から女子供に至るまで、厳罰に処分されてしまった。もちろん父であった大臣は無念のあまり出家後数年で他界。その女御も最近病気で亡くなった。その一家の者達の怨念が東宮の気の乱れにつけ込んで東宮御所を覆っているという。気の乱れを察した頃から、僧都は加持祈祷を自らの意思で行っていたというが、東宮自身の生気がないため、なかなか効いて来ないと言うのだ。


「まずは気力を取り戻すことなのですか?」
「そういうことです。それがなければこの私にもどうにも出来ません。それが出来るのは宮様あなただと思うのですが・・・。しかしそれがあなたにとって良くないほうになるかもしれません。まずは東宮様の悩みを解消して差し上げてください。私も加持祈祷で東宮様が良くなられますよう努力いたします。」
「良くないこと・・・?」
「私の身分ではそれ以上のことは申し上げられませんが、このままの状態でしたら東宮様は心神喪失どころか、お命も絶たれるかもしれません。あの御方は強そうに見えて本当は弱い方なのです。」
「僧都殿、今度参内のご予定は?」
「そうですね・・・本来でしたら今すぐにでも帝の下へ参内して現状をご報告させていただきたい。」


中務卿宮は供の者に、僧都殿上許可を得るように内裏へ走らせた。供の者が帰ってくると、僧都に参内の準備をさせた。準備が整うと僧都とともに内裏へ向かい、清涼殿に参内する。帝は最も信頼する僧都の参内に大変喜び、僧都を御簾の中に入れて、東宮について相談を始める。中務卿宮は御簾の外で相談事が終わるのを待つ。


「中務卿宮、もう少し時間がかかりそうだから、中宮に会って来たらいい。母宮も心配している。」
「はい、父上・・・。」


中務卿宮は考え事をしながら、母宮のいる麗景殿へ向かった。途中弘徽殿では皇后が中務卿宮を引き止めて、中務卿宮の体調のことなどを伺う。そして東宮のこともお聞きになる。中務卿宮はどこまで話したらいいものか悩む。一応それとなし話して、退室する。麗景殿につくと、中宮つきの女官達が、中務卿宮の体を気遣う。


「母上、調子はいかがでしたか。順調なのですか?」
「まぁ宮。お早い出仕許可がでましたのね。母は大丈夫ですよ。それよりも宮はきちんとした生活をしているの?まぁこんなに痩せてしまって・・・。少し見ない間に、背が高くなったのですね。」
「母上・・・。私の心配よりも、母上のことが心配です。私の懐妊中は大変だったのでしょう?母上、さ、座ってください。」


中務卿宮は座り込んだまま話そうとしないので、中宮は心配そうに声を掛ける。


「雅和、何か悩みでもあるのかしら・・・。あなたは本当に悩みがあってもこの母にさえ相談してくれない時があるのです。」
「では母上、人払いをしていただきますか?」


中宮は人払いをし、中務卿宮は人がいなくなった事を確認したうえで、今日起こった出来事を中宮の側で相談する。中宮は少し間を置くと中務卿宮の耳元で他の者に聞こえないように言う。


「あなたが思うようにしないとだめです。母はこういうことには口出しできない立場ですので、最終的にはあなたが決めないといけません。あなたが東宮になられることに関しては、母は認めるわけにはいきませんが、こういうことはあなたが判断すること。出来れば中務卿宮として綾乃姫と一緒になるのがあなたの幸せだと思うのですよ。母はあなたがすべて東宮のために背負う必要はないと思うのです。御歳五歳の弟宮もおられます。あなたが引き受けてしまうと、また政権争いや何やらであなたは犠牲になりますよ。その上、綾乃姫とも別れ・・・。母は我慢できません。」
「母上、貴重なご意見ありがとうございました。ぜひ参考にさせていただこうと思います。」


一方清涼殿では、帝と僧都が話をしている。帝は僧都の助言を真剣に聞き入れる。


「僧都。私は二代続けて一の宮が廃太子することは望んではないのですよ。亡き兄上の場合は病気であったから仕方がないが、今回の東宮は・・・。」
「帝、東宮様も心の病を患われておられます。まずはそれを何とかしないといけませんが・・・。」
「僧都の言うことも分かるが、東宮存続を取れば東宮の命に関わる、廃太子を取れば、中務卿宮がすべてを背負い込み政権争いの犠牲になる。難しいところ・・・。何とか丸く収まる方法はないか・・・。」
「きっと何かあるはずと思いますが・・・。しかしまずは東宮様の気力を回復しなければ私は何も出来ません・・・。」


すると中務卿宮が清涼殿に現れ、帝に申し上げる。


「父上、東宮御所に数日宿直をして、兄上とじっくり話してみようと思います。もしかしたら何か解決方法が見出せるかもしれません・・・。」
「中務卿宮、頼んだよ。」
「御意・・・。」


中務卿宮はどんどん自分が東宮になるほうに傾いてきていることが直感的に分かった。でもそれは出来るだけ避けたいと思うのだが、どのようにすればいいものかと思う。


(兄上のためなら自分が犠牲になってもいい・・・しかし綾乃はどうなる?あれほど僕との婚礼を楽しみにしているのに・・・。何とか逃げ道はないだろうか・・・。ああ!分からなくなってきたよ!)


中務卿宮は右近衛府に出向き右大将に会い、当分東宮御所に宿直なので帰れないとのみ告げる。そして一度二条院に戻り、宿直の用意を整え改めて夜中務省に入る。そしてたまっている書類に目を通すと、東宮御所に向かう。夜になるといっそう御所内は異様な雰囲気である。春宮大夫と話をしたあと、中務卿宮は東宮のもとに訪れ、東宮の後ろに座る。


「雅和、また来たのか・・・。」
「ええ、もし今晩も眠られないのでしたら、この私と世間話でもして一晩過ごそうかと思いまして。兄上と久しぶりに長い時間過ごそうかと・・・。酒と菓子も用意させました。さあ、このようなな所にはおられず、今宵は月や星も綺麗ですし、すのこ縁まで・・・。人払いはしておりますから・・・。」


中務卿宮は東宮を連れ出し、几帳で囲んだ小さな宴席に座らせる。そして東宮に杯を渡し、酒を注ぐ。東宮はぐっと飲み干す。


「さすが兄上、いい飲みっぷりです。私が女人なら良かったのでしょうけど・・・。良ければこの私が女装でもしたほうが良かったかな・・・。」


中務卿宮の言葉に東宮は噴出す。


「そうだな・・・。雅和は中宮によく似て女性的な顔立ちのところがある。きっとお前が女ならきっと美しいだろう・・・。」
「それなら誰かに借りて着てみましょうか?面白いかもしれません。誰も見ないし・・・。兄上が喜んでいただけるのなら僕は何でもしますよ。」


中務卿宮は立ち上がって、ある部屋に向かう。そしてそこにいる東宮の女房にいう。


「近江、ちょっといいかな・・・。袿と袴を貸してくれないか?兄上をちょっと楽しませたいことがあってね・・・。みんなには内緒だよ。恥ずかしいから・・・。」


そういうと、近江の部屋を借り、着替えを始める。衣冠を脱ぎ、髪を下ろす。そして小袖姿に女物の長袴を穿き袿を着ると、肩より少し下まで伸びた髪を束ね、近江に借りた扇を持つ。近江は中務卿宮の美しさに声を失った。まさしく中宮和子の入内間もない頃の顔にそっくりであった。


「やっぱり女装っておかしいかな・・・。これで兄上が喜んでくれるといいのだけど・・・。」
「いえ、そのへんの姫よりもお美しく、まるで入内間もない頃の中宮様にそっくりですわ・・・。誰も寝殿に行かないように私が見張っておきますわ。宮がこのような格好をされたと分かると、大騒ぎになりますもの・・・。」


中務卿宮は赤い顔をして、すのこ縁に座って月を眺めている東宮の側に座る。


「お兄様。」


まだあまり声変わりをしていない中務卿宮の微笑みはとても美しく、東宮はこれが弟宮かと間違うくらいであった。


「やはりおかしいですか?もし何ならもとの姿に戻りますが・・・。」
「いや・・・。雅和の双子の妹宮雅子が生きていたらこんな姿だったのだろうかと思ってね・・・。父上にも見せて差し上げたいよ・・・。雅和が姫なら今ここで押し倒して・・・。」


そういうと東宮は久しぶりの笑顔を見せた。中務卿宮は東宮に杯に酒を注ぐ。時がたつのを忘れ二人は世間話をしながら長い夜を過ごした。


「雅和、今夜はありがとう。ちょくちょくこのような趣向の宴を二人で開きたい。いいかな・・・。今日はゆっくり眠れそうだ・・・。ありがとう。」


東宮は立ち上がり、寝殿の寝所に向かう。中務卿も付き添っていく。そして東宮が眠ったのを見計らって、近江の部屋に着替えに戻った。


「いかがでしたか?」
「兄上はとてもお喜びになられた。また借りることがあるかもしれない。その時は頼むよ。ありがとう近江。」


中務卿宮は衣冠に着替え髪を結いなおして冠をかぶると、東宮の寝所に戻り、側に座って朝まで東宮を見守った。朝がやってくると、東宮はウトウトしている中務卿宮を起こす。


「残念だなあ・・・もう着替えてしまったのか・・・。まるで昨夜の雅和はかぐや姫のようだった。」


中務卿宮は顔を赤くして言う。


「私はもともとあのような趣味はありません。兄上に喜んでいただけるのならと・・・。そんなに良かったですか?」
「ああ。理想的な姫に出会ったと思ったよ。」
「え?兄上冗談はよしてください。そのような目で見ないでください。」


東宮は中務卿宮の女性的な顔や病み上がりの華奢な体、結い上げた髪の後れ毛、そして綺麗なうなじを見つめる。東宮は本当にこの弟宮が女ではないのかと考えてしまう。


「本当に雅和は可愛らしいね。男にしておくのがもったいない。どうかな、これから私のもとで女として過ごしてみないか?」
「兄上がこのまま東宮としておられるのならば・・・。というのは冗談ですけど、あと数年したら声変わりもするし、髭も生え、立派なおっさん顔になりますよ。(笑)」
「そうだな・・・そうなれば恋も冷めてしまうかな・・・。今晩も明日も雅姫を頼んでいい?」
「じゃあ今晩は唐衣を近江に借りましょうかね・・・。あれは着替える時間がかかりますが・・・。やはり東宮様の前ですからね・・・。雅姫の登場は相当大変ですね。唐衣となると人数もいるし・・・。本当に兄上が少しでも元気を取り戻していただけてうれしいです。さあ二条院に戻って着替えてこないと。」


中務卿宮は、笑顔で退出するのを見て、東宮は複雑な思いでみている。


(本当にあいつはこの私のために・・・でもこれ以上東宮としての地位は必要ない・・・。あのように思いついてすぐ善し悪しを考えた上行動に移す、雅和の才能はすごいものだし。)


東宮は近江を呼び、清涼殿への参内準備を整わせる。一方東宮が参内してくると聞いて、殿上人たちはざわめき立つ。もちろん帝も東宮の急な参内に驚く。東宮は思い立った真剣な顔をして帝の御前に座る。


「廃太子願いに参りました。理由は中務卿宮からすでに耳に入っておられると思います。昨日、宮が私のために贅を尽くして小さな宴を開き籠もっていた部屋を出るように仕向けてくれました。そして私のために最良の方法を考え即座に、行動に移してくれました。これは中務卿宮の私にはない才能だと思います。武術学問ばかりで、人との付き合い方を学ばなかった私には到底、人の上に立つという重責には耐えられません。あのように朗らかで人当たりも良く、世渡り上手な中務卿宮のほうが東宮に向いていると思います。何不自由なく生活させていただいた父上や母上には申し訳なく思いますが、お聞き届けいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。」


といって東宮は頭を深々と下げ、帝に申し上げる。


「しかし、中務卿宮の気持ちにはなっているのか?宮が立つとなれば、あれほど願っていた綾乃姫との事も・・・。」
「父上、逃げ道があるではありませんか・・・。綾乃を左大臣殿の養女に・・・。」
「左大臣の?」


東宮は御簾の中に入り帝の耳元で言う。


「綾乃は母上である皇后の・・・。れっきとした摂関家の血が流れています。」
「そうだがそれをするとなると、綾乃の出生の秘密を左大臣に言わないとならない・・・。もちろん左大臣の姫ということであれば・・・。入内は可能だが・・・。しかし雅孝、早まったことは・・・もう少し考え直してみないといけないよ・・・。」
「父上、私はずっと考えていたことなのです。ですので・・・・。」
「いや、そのような理由では廃太子は出来ない・・・。下がりなさい!」


東宮は頭を下げると清涼殿をあとにする。中務卿宮は二条院に戻ると、昨晩一睡もしていないので、脇息にもたれかかって一眠りをする。少し眠って気がつくと、聖護院の大僧正から密書が届いていた。内容は少しずつだが、東宮御所の重い空気は解消されてきているということ、あと様々な内容が書かれていた。中務卿宮は大僧正に返事を書き、従者に聖護院にいくように頼む。


(兄上はこのまま東宮として在位してくださるのだろうか・・・。綾乃が側にいてくれたら少しは心が和むのだけど・・・。)


そう思うといつの間にか床の上に横になって眠っていた。誰かが掛けたのだろうか。気がつくと袿を中務卿宮にかけてあった。


(こんなところで眠ってしまったのだな・・・。風邪を引くところだった・・・。籐少納言かな・・・。)


中務卿宮は大きくため息をつくと、起き上がって宿直の用意をする。準備が整うと、中務省に立ち寄ってから東宮御所に入る。そして昨日と同じように入れ替わる春宮大夫と引継ぎをし、寝殿に入る。


「雅和、待っていたよ。さ、座って・・・。」


東宮は中務卿宮を座らせると、真剣な顔で話し出す。


「今日、父上に廃太子の願いを伝えてきたよ。父上は反対していたけどね・・・。雅和、代わってくれないか?雅和が首を縦に振ってくれるだけでもいい・・・。」
「兄上はただご自分に自信がないだけです。もう少し前向きに考えてはいかがですか?もし廃太子になられた時、東宮妃結子姫はどうされるのですか?兄上はその先どうされるのですか?」
「結子姫は内大臣家の姫だ。あとから何とかなる。私は・・・私は・・・。」


中務卿宮はため息をついて、申し上げる。


「兄上はいつもあとさきを考えずに行動されるのです。東宮をお辞めになったら、そのまま邸に籠もっておられるだけですか?いくら兄上が摂関家の血筋とはいえ、誰が兄上の面倒を見るのでしょうか・・・。臣籍に下られたとしても、そのような考えではお勤めできませんよ。出家をされたとしても・・・。とりあえずゆっくり考え直してみてはいかがですか?」


東宮はため息をつく。そして急に意識が朦朧となり東宮は倒れてしまった。中務卿宮は驚き、東宮を支えると、人を呼び典薬寮の医師を呼ぶ。中務卿宮は東宮を寝所に運ぶと、直衣を緩め、寝かして単をかける。


(しまった!きつく言い過ぎたか・・・。励ますつもりが・・・。逆効果だったか・・・。)


中務卿宮は、東宮の寝所の側に座り込んで自分を責める。医師に見せても何も分からず、心の病としかいえない状況であった。一晩中中務卿宮は東宮の側を離れず、自分を悔やみ続ける。


(兄上・・・。この私はなんと言う事をしてしまったのだろう・・・。この私こそ兄上のことなど何も分かっていなかったのかもしれない・・・。やはり私が兄上の代わりをしないといけないのだろう・・・。結局自分のことしか考えていなかったのは私かもしれない・・・。)


中務卿宮はいつの間にか眠ってしまっていたようで、気がつくと朝であった。まだ東宮の意識は戻っておらず、さらに自分を責める。


「中務卿宮様、帝がお呼びでございます。」


と御所のものが声を掛けると、中務卿宮は涙をふき取り、衣冠のままで参内する。そして帝の御前で中務卿宮は昨夜の件に関して帝に謝る。


「中務卿宮、それは遅かれ早かれ誰かがいわなければならないことです。東宮もそれを十分理解したからこそ、悩み倒れたのであろう・・・。中務卿宮が悪いわけではない。」
「しかし、この私がついておりながら・・・。」
「私は意を決しました。東宮が目覚めた時、あなたからこの帝である私の言葉を伝えなさい。」
「父上・・・。」


帝は大きく深呼吸をして、中務卿宮に聞き取りやすいようにゆっくりと話し始める。


「東宮をそのまま続けるのも構わない。臣籍に下るのもよし、出家するのもよし、東宮の好きなように選びなさい。臣籍に下るのであれば、一品親王としてそれなりの位を与えてやりたいが、あなたの体の状態に合った位を授ける。出家するのであれば、親王としてふさわしいところへ出家させる。以上を、東宮に伝えよ。中務卿宮、あなたが一番苦しい立場になってしまうが、よろしく頼みますよ。」


そういうと、帝は立ち上がって退出する。側にいた関白は中務卿宮に言う。


「昨日、帝は譲位までお考えになられるほど、悩まれ決断されたのです。帝も宮もとてもお辛いと思いますが、よろしくお願い申し上げます。」


中務卿宮は退出し、また東宮御所に入り東宮の側に座って意識が戻るのを待つ。内裏中東宮についての噂が広まりつつあるようで、様々な憶測が飛び交っている。もちろんこのことは後宮や都中に広がる。中務卿宮は、黙ったまま東宮の姿を見つめ、自分の今後について考える。


(きっと兄上は廃太子を取るのであろう・・・。悩んだ上でのお考えだったのだろう・・。)


 どれくらい時間が経ったのだろうか・・・。考え事をしているうちに外は闇になっていた。中務卿宮はだめもとで東宮に声を掛けてみる。すると東宮は目覚め、中務卿宮を見つめる。


「雅和・・・ずっと側にいてくれたの?」
「はい・・・朝、帝の呼ばれたとき以外は・・・。」
「父上はなんと仰せか?」


中務卿宮は帝の言葉をそのまま伝える。すると東宮はうなずいて起き上がる。


「夢の中で色々考えていた。父上、母上、結子姫、そして雅和の事・・・。そして私自身・・・。父上に伝えてくれないか・・・。」
「はい・・・。」
「雅和には悪いが、東宮を退き、結子姫のため臣籍に下ろうと思う。親王としてではなくてもいい。氏を賜り、一からやり直してみようと思う。だから雅和、後のことは頼んだよ・・・。」


中務卿宮は頭を下げ、東宮の意向を即帝に伝えようと走る。帝は東宮の意向を受け入れ、次の日、太政官を集め審議にかけた。審議に入れない中務卿宮は、中務省の自分の部屋で、審議が終わるのを待つ。やはり摂関家筋の東宮の廃太子のため、大もめの様子でなかなか審議が終わらず、次の日に審議が延びる。やっと審議が決まったのは始まってから三日後のこと。その審議内容と、帝の言葉を帝が弁官を通じ中務省へ命じて詔書が作成され、中務省が起案した詔書の文案が、外記局で点検を受けてようやく宣旨として発表されたのはさらに翌日の事になった。中務卿宮は宣旨が書かれた書状を、宮自ら東宮御所に届ける。そして東宮に直接手渡す。そして内容を確かめる東宮を見つめながら、言葉を待つ。


「そうか・・・廃太子後のことまで決めていただいたのですね・・・。かなり時間がかかったね・・・。」
「それはそうでしょう・・・。摂関家が後ろ盾の東宮が廃太子され、今のところ右大将が後ろ盾の宮家筋の三品親王である私が引き継ぎ東宮になるのですから・・・。もちろん六の宮の弟宮の名前が挙がったのですが、父上が幼少の上、兄上と同じようになってはならないと太政官たちを説得したのです。もちろん今回の件に関しては満場一致でなければ宣下されません。昨夜中務省では審議の結果と帝の言葉を受けて、相当混乱しておりました。父上も、兄上を太宰帥に任ずることは相当お悩みになられたそうですが、一昔と違って赴任するかしないかは兄上次第という事で、あまり重職でなくそれであってきちんとした位をと・・・。お邸も参内しやすいようにと一条院を賜ることになっております。」
「そうか・・・。そこまでしていただいたのですね・・・このような勝手なわがままを聞いていただいた、父上に感謝しないといけないな・・・。母上にもきちんと挨拶をしないといけないな・・・。」


(兄上・・・。)


「では一緒に参内しましょう。後宮にもご挨拶に。私も中宮である母に挨拶をしておかないと・・・。母上は相当反対されていたから・・・。」


二人は揃って帝のもとに参内し、帝に深々と頭を下げて挨拶をする。帝は二人に声を掛ける。


「東宮、中務卿宮。本当にこれでよかったのですか?中務卿宮、この件に関してぎりぎりまで良くがんばってくれましたね。あなたの思いは、私にも皆にも伝わっているよ。中務卿宮、立太子の儀礼まで、二条院でゆっくり過ごしなさい。まだあなたは本来なら休養中の身であったのも関わらず、東宮廃太子の件でまた中務卿宮の職務に就かなければならなかった・・・。すまないね・・・。」
「いえ、中務の長官として、兄上の弟宮として当然の行いをしたまでです。」
「中務卿宮、後ろ盾のないに等しいあなたが東宮に立つ。色々な者達が様々な事を言うかもしれないが、気にせずに・・・。雅孝、あなたはこれから新東宮をお守りする立場となります。あなたは賢い、色々な知識を持っている。東宮傳も兼任し、それを新東宮に授けてやって欲しい。二人はとても仲が良いのだから、二人で助け合ってこれからのがんばっていくように父は願います。」


帝は二人にこれからのことについていろいろ話そうとしたが、時間の都合で話せなかった。二人は退出すると後宮に向かう。弘徽殿の皇后は東宮の廃太子にとても残念そうな顔で、対応した。そして中務卿宮と綾乃の事をとても不憫に思った。


「二の宮、あなたが立太子をされることにより、綾乃との婚約は白紙になってしまわれたそうなのですね。右大将様も残念であられるでしょう・・・。わたくしからも帝に綾乃との婚約続行を願い出たのですが、太政官の者達がかなり反対したようです・・・。それでなくても御年五歳のわたくしの子である六の宮を東宮に言う者が多かったのにもかかわらず、帝は宮をぜひにと推された。宮を東宮にする条件として綾乃との婚約を白紙にさせたれたと聞いております。そしてまだ宮が立太子されていないのにもかかわらず、東宮妃入内を願い入れする者達もちらほらとか・・・。帝もたいそうお困りになられているようですわ・・・。わたくしも何とか綾乃を入内させてさし上げたいのです。」
「皇后様、その気持ちだけでもとても感謝しております。綾乃のことはいずれ・・・。」
「そう・・・わたくしも出来るだけ・・・。」


皇后は、綾乃は自分の子であるのに何もできない事を悔やんで涙を流す。中務卿宮は、麗景殿の中宮に会うために、弘徽殿を退出する。東宮は人払いをして皇后に綾乃のことについて言う。


「母上、綾乃はあなたの姫ではありませんか・・・。お爺様の左大臣、叔父上の三条大納言のいずれかの養女として入内はできないものなのでしょうか?」
「あなたには言っていなかったのですが、私はあの方々とは血のつながりがないのですよ。その上、綾乃の件に関してはお父様もお兄様も知らないことなのです。頼めることではありません。」
「どういうことなのですか?血のつながりがないとは?」
「あなたの宇治にいるおばあさまは式部卿宮様の亡くなったお兄様の御子を身籠ったまま左大臣のお爺様に降嫁されたのですよ。その子が私。それを分かった上で三の姫として育ったのだけど・・・。」
「では、綾乃を宇治のおばあ様の養女として・・・。おばあさまはれっきとした左大臣の北の方ではありませんか・・・。」
「そうね・・・・宇治のおばあさまは綾乃の事をご存知であられるから・・・頼んでみるのも筋かもしれませんね・・・・。でも右大将様が手放されるかどうか・・・。」
「ここのところ、雅和は私のために色々してくれました・・・。」


東宮は皇后に今日までに親身になってやってくれた事を話す。皇后も納得して、何とかしてあげようとも思うのです。


「わたくしも一度、二の宮の姫姿を見てみたいわ。きっとかわいらしい姫になられるのでしょうね。とても可愛らしい顔立ちですから・・・。」


皇后と東宮は中務卿宮のために何かしてあげることが出来ないか十分策を練る。中務卿宮は麗景殿の中宮に挨拶をするため、麗景殿に入るが、中宮は中務卿宮のあまりにも自分を犠牲にしてまで兄宮に尽くす姿を見て呆れ会うなり、中務卿宮をしかりつける。


「わたくしは、宮が東宮になられることに前々から反対だったのです。後宮にてのんびり過ごすことなど出来ません。決まった以上、わたくしは帝に麗景殿と中宮の称号をお返しして、二条院にて余生を過ごします。そしてお腹の御子は親王あるいは内親王宣旨を受けるつもりはありません。そのように帝にご報告します。宮、いいですね。」


中宮は中務卿宮の制止を振り切って、帝に中宮の称号と麗景殿の返上を願いに清涼殿に参内に行く。中務卿宮は、なんとも複雑な表情で後宮を出た。



《作者からの一言》

う~~ん、一番長い章ですね^^;これを書いていて私自身も訳がわからなくなっています^^;

なんと人のよすぎる中務卿宮^^;もちろん綾乃との婚約は解消されてしまいました^^;その上母宮は後宮を出て行ってしまう始末・・・・。どうなる?中務卿宮・・・そして綾乃・・・。
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